既に黒猫は、身動きひとつ取る事は出来なくなっていた。意識は朦朧とし、感覚は遠くなっていた。恨む余裕もなく、また悲しむ暇もなく、黒猫は目を閉じた。次に目が覚めたのは、自分が元居た場所だった。傍らには、死んだ自分の遺体が転がっていた。そうして、知る。ああ、自分は死んだのだ、と。ところが、黒猫には身体があった。それも、今までの猫のそれとは違う身体。人間のものだった。訳も分からず歩いていると、黒猫はある人と出会う。黒猫が夢現のうちに関わっていた青年だった。
そこは、とあるオーロラで観光地として有名な街、『ノルマンスィ』。特別美しいと言われる『クレスィーヴ』と呼ばれるオーロラを観測しに写真家が向かったが、それきり帰って来なくなってしまった。普段は北部地方の救助隊が駆け付けるのだが、その日はたまたま別の救助隊が現れることに。現れた救助隊を名乗る男は、どうにもとびきり変な奴で……
仕事をクビになった帰り道。彼女は、『星を数えている』と話す、不思議な少年と夜の海で出会う。少年は当たり前のようにそこに居るが、何故居るのか、いつから居るのか、細かい事情を何も語らない。そこには、隠された理由があって……