亀の恩返し
5.太郎の願いを叶える。
私は懐から小瓶を取り出した。
この薬があれば太郎さんは……
蓋を開けようとしたまさにその時、
太郎さんが
その瓶をさっと取り上げた。
太郎さん!?
……
お前、これでなにを願う気だい? 言ってみ?
太郎さんは真っ直ぐに
私を見ながら問う。
……だから、太郎さんを帰すため、に、……その、
「太郎さんを帰すために使う」
それは間違ってはいない。
ただ
そのための手段を言わないだけで。
私のような単純なカメが
太郎さんを騙せるとは思っていない。
嘘を言えばわかってしまうだろう。
だから。
言わない。
……
……なあ、カメ
見透かすようにじっと私を
見ていた太郎さんは
やがて、口を開いた。
俺はここに来るって自分で決めたんだ。帰るんなら自力でなんとかするさ
お前が怪我をおして俺を帰してくれたとして、それでお前がどうにかなるんなら俺は今帰らなくてもいい
なに言ってるんです!
このまま竜宮城にいたら太郎さんは2度と帰れないかもしれないんですよ!?
優しい考えだ。
でも、太郎さんの考えは生ぬるい。
ここは海の底。
太郎さんが帰ろうと思って
簡単に帰れるような場所ではない。
乙姫様が
太郎さんを帰すはずがない。
しかし、
……同じことを何度も言わせるな、カメ
太郎さんは変わらなかった。
俺は、お前が生きていてくれるほうがいい
……
この薬はそのために使おう。
いいな?
誰かに
「生きていてくれるほうがいい」なんて
言われたことはなかった。
思わず頷いてしまいそうになる。
でも、頷いてはいけない。
私は太郎さんにどう思われようとも
太郎さんを帰す。
傷口が塞がってもすぐに完治するとは限りません。何年もかかるかもしれない。
その前にその薬は効かないかもしれません
それでも、
そう決めたのだから。
もとを正せば俺のために負った傷だろう?
……そう。
それなのに
太郎さ
泣けるわよね!
泣ける展開よね!!
感極まって太郎さんの名を呼びかけた時、
私以上に感極まった様子の魔女が
突如として間に割り込んできた。
……魔女さん?
太郎ちゃんやっぱりいい男だわ! だから助けてあげちゃう!
薬をもう1つ頂けるとか!?
あ、それはないない