亀の恩返し
19.もう1度乙姫を説得する。
私は再び乙姫様に謁見を申し出た。
乙姫様は面倒くさそうに
それでも私の話を聞いている。
時折見せる視線に
私に対する蔑みを感じる。
……乙姫様。太郎さんは姫様の玩具ではありません
玩具でなければ何ぞ?
酒を飲み飯を食い女を楽しませる。
良いではないか。しがない漁師には過ぎた贅沢じゃ
乙姫様は煙管をくゆらせる。
紫色の煙が、細く、細く
立ちのぼっていく。
ふうっ、とひとつ煙を
私に向かって吐き出した乙姫様は
見たこともないような妖艶な笑みで
見下ろした。
良いではないか
生身の男など滅多に手に入らぬ
あの男、なかなか良いものを持っておっての
……
ほほほ
カメには解らぬよのぅ
「乙姫様に取られちゃわないようにね」
魔女の言葉が
頭の中でよみがえる。
ああ、こんなことって。
私は……乙姫様を信じていたのに。
魔女は
こうなることを知っていたのだろうか。
まわりが魚ばかりの竜宮城に
人間の男を連れて行ったら
乙姫様が興味を持つのは当たり前だと
いうことを。
話はそれだけかの?
わらわはもう行くぞえ
乙姫様は
退屈そうにあくびをひとつすると
席を立った。
彼女の耳に私の言葉は
どれだけ残っているのだろう。
そう思いたくなるほど……
お、お待ちください乙姫様!
乙姫様は私の話など聞いていない。
ただ話終わるのを待っていただけ。
今の彼女からは
退屈な説教から解放されて
遊びに行こうとする気しか
感じられない。
太郎さんは!
太郎さんは乙姫様の玩具では……!
太郎さんと。
いや、太郎さん「で」。
なおも追いすがろうとする私を
乙姫様は睨みつけた。
そして
うるさい!
カメの分際で!
わらわに意見しようなど!!
何処へなりとも消えておしまい!
乙姫……さ……