鮫野木は知りたいこと、自分に起こったこと、常識ではあり得ないこと、全てが聞きたい。俺は頭の中で考えをまとめる。

六十部紗良

どうしたの? 話があるんでしょ


 六十部は足をクロスさせる。一瞬、薄い青色の下着が見えた。

鮫野木淳

なるほど、嫌々そうじゃない。今は関係ない


 鮫野木は六十部の目を見て話す。

鮫野木淳

あなたが知っている。この世界の全て

六十部紗良

あら、貪欲ね。私ほどじゃないけど

鮫野木淳

貪欲ですか

六十部紗良

別に貪欲で悪い?

鮫野木淳

いえ、まったく。俺もある一点において、貪欲ですから

六十部紗良

そう

六十部紗良

まぁいいわ、貴方たち座りなさい。その方が話しやすいでしょ

鮫野木淳

はい

 鮫野木は六十部の二つ隣の席に小斗は鮫野木の隣に座った。

六十部紗良

さて、知っていることね

六十部紗良

最初に言っておくけど、私はこの世界に来て、まだ五日しか経ってないわ

六十部紗良

その内の三日、私はある集団と行動を共にしてたわ。今から話すのはその集団の成果よ

鮫野木淳

してた……か

六十部紗良

まず、その集団はこの世界の事を裏の世界って、呼んでいたわ。それと裏の世界から出れない事、正確には、この区画から出ようとしても、同じ場所に戻ってしまう。ループするのよ、私も試したわ。

鮫野木淳

無限ループって奴ですか

六十部紗良

そうね、狭いようで広い、この区間に私たちは閉じ込められているの、何者かの意思でね

鮫野木淳

意思? 誰かがこの世界を作ったとか言いませんよね?


 俺は冗談交じりに放った言葉に六十部はまじめに答えた。

六十部紗良

もしかしたら、科学では証明できない力で出来た世界かもね

鮫野木淳

じょ、冗談ですよね

六十部紗良

私も冗談だと思いたいわ。でも彼らと三日だけだったけど行動して、認めなかった物、認めないといけない物が少しだけ、ハッキリしたわ

鮫野木淳

そ、そうですか

六十部紗良

少なくても、あの集団のおかげね

小斗雪音

あの。今その集団は何処にいるんですか?

鮫野木淳

ユキちゃん……

 小斗はさりげなく質問をした。
 たぶんその答えは良い方向ではないと思った。恐らく、六十部が行動してた集団は……。

六十部紗良

居ないわ。私を除いて、全員……アンノンになってしまったわ

鮫野木淳

アンノン? ですか?

六十部紗良

貴方たちは見てないかしら、陰みたいな化け物

鮫野木淳

アレを知ってるんですか!

六十部紗良

ええ、アンノンはこの世界、裏の世界のルールみたいな物かしら

鮫野木淳

アンノン? になったって言いましたけど、それって……

六十部紗良

言った通りよ。私達がルールを破るとアンノンが現われて、しまいにアンノンになるわ。アンノンになったら、元に戻る事はない。ついでに、倒すことも出来ないわ


 アンノンになる六十部が行ってることが本当なら、あの時、小斗ちゃんが助けてくれなければ、アンノンになっていた。

鮫野木淳

ルールがあるんですか?

六十部紗良

あるわ、まぁ全部。受けうりなんだけど

六十部は語り出した。

六十部紗良

まず、一つは夜、外を出歩かない。アンノンが活発に活動する時間だから

六十部紗良

二つはNPCを攻撃しない。攻撃したら、アンノンが現われて襲ってくる

六十部紗良

三つ目は視線に入ってはいけない。アンノンは例外なく私達を襲ってくる

六十部紗良

この三つを守ればアンノンから襲われない

鮫野木淳

だから、あの時。夜は何処でも良いから建物に入りなさいって言ったんですね

六十部紗良

そうよ

小斗雪音

おかしいな? 私がアレを見たときは、まだ夜じゃなかったよ

六十部紗良

それは、昼でも数体活動しているからよ。数は少ないけど、見かけたら気を付けて

小斗雪音

うん、気を付ける

鮫野木淳

NPC……俺達以外に人が居るんですか?

六十部紗良

ええ、居るわ。けれど、あくまでNPCよ

鮫野木淳

あくまで?

小斗雪音

ねぇ。淳くん、NPCって何?

鮫野木淳

ユキちゃん。知らないの? NPC(ノンプレイヤーキャラクター)の略だ。ゲームとかで使う用語だよ。分かりやすく言うとゲームのモブキャラ、村人とかの事

小斗雪音

ああ、村人ね。それなら分かるよ!

鮫野木淳

そうですか


 割とユキちゃんに色々とゲーム用語も使って話しているはずなのに、覚えてないか、スルーされて聞いてないかの二つだな。
 俺は質問を続けた。

鮫野木淳

えーと、NPCはどこに居るんですか?

六十部紗良

それなら、もうすぐ現われるわ

鮫野木淳

現われる? NPCが?


 六十部は腕時計を確認した。

六十部紗良

補足だけど、NPCには会話をする人としない人が居るわ

鮫野木淳

それって、ゲームみたいですね

六十部紗良

そうね。彼らも同じような事を言ってた

鮫野木淳

はぁ


 六十部は少し悲しそうな表情を見せた。

六十部紗良

鮫野木くん、そろそろ来るわ

鮫野木淳

何がですか?

六十部紗良

NPCよ

 すると、三人しか居なかった。K・S記念病院に人が現われた。一瞬の事に俺は驚いた。病院は人で混雑し始めた。
 NPCはまるで決まった動きをしている用に見えた。
 これがNPCか、まるで……ゲームみたいじゃ……ないか。

エピソード9 裏の世界(5)

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