人の形をした何かは鮫野木に徐々に近づいてくる。確実に近づいてくる。俺は恐怖で動けない。

アンノン

……

鮫野木淳

く、来るな、来るな

鮫野木淳

なんだあれ? 人なのか?

 人の形をした何かは鮫野木のすぐそばにまでに近づいた。

アンノン

……

 人の形をした何かは手を伸ばしてきた、鮫野木に触れようとする。

アンノン

……

鮫野木淳

あっ、あ

小斗雪音

淳くん!

 鮫野木の手を引いて小斗が走った。鮫野木は間一髪の所で曲がり角を離れた。

鮫野木淳

ユキちゃん、ありがとう

小斗雪音

ううん、それよりアレは?

鮫野木淳

アレか……

 鮫野木の脳裏に浮かぶ人の形をした物、陰みたいだった。思い出しただけで背筋が震えてきた。アレはいったい——

鮫野木淳

……六十部に聞けばわかるかも

小斗雪音

淳くんが会った女の人?


 鮫野木は頷いた。確信はないが彼女なら俺に起きている良くわからないことを知っているはずだ。

鮫野木淳

ユキちゃん。俺の家に来てくれないか?

小斗雪音

良いけど、どうして?

 鮫野木はあることを思い出した。

六十部紗良

そうそう、夜は何処でも良いから建物に入りなさい。それが良いわ

鮫野木淳

嫌な予感がするから

小斗雪音

……うん


 鮫野木達は家に向かった。鮫野木が家に入ると異変に気付いた。

鮫野木淳

やっぱり、いない

小斗雪音

いないって、誰が?

鮫野木淳

母さんと父さん

小斗雪音

えっ

 家の明かりは付いているが普段この時間帯なら両親はリビングに居るはず。だが、何の冗談か家に居るはずの両親は何処にもいない。
 なるほど、この世界ね……。

鮫野木淳

ハァ―

小斗雪音

淳くん?

鮫野木淳

なぁ、小斗ちゃん。廃墟の噂、知ってる?

小斗雪音

噂?

鮫野木淳

そう、噂だよ。ただの噂

 俺は机に二人のカバンを置いて話した。
 あの廃墟の噂、所詮たいした事ない噂だと思っていた。人が消えるなんて、でっち上げだと思って心の何処かに閉まっていた、あの噂。消える側になるまで、信じなかった噂。

小斗雪音

それじゃ、ここは?

鮫野木淳

消えた人の行く付く場所……かも

小斗雪音

本当に?

鮫野木淳

わからないけど、明日、六十部に聞けばわかるかもしれない


 あくまで可能性だ、彼女だって全てを知ってるわけじゃない。少なくても情報が欲しい。

鮫野木淳

明日の朝、公園に行ってから、K・S記念病院に行こう

小斗雪音

うん、二人、公園に戻っているかもしれないしね

小斗雪音

心配だな

鮫野木淳

大丈夫、アイツら頑丈に出来てるから!

小斗雪音

淳くんが威張る?

 その後、俺達は明日に備え早めに寝ることにした。
 翌日、軽い食事をとって、朝早く公園に向かった。

小斗雪音

居ませんね……

鮫野木淳

置き手紙を置いていこう

 あいにく、二人の姿は見当たらず、小斗がベンチの上に置き手紙を残した。

 そのまま、俺達は街の中央部にある、K・S記念病院に向かった。病院に行く途中、誰とも会うこともなく、たどり着く。違和感を感じつつ、病院入る。

鮫野木淳

おかしい? 何で、ここに来る途中で人と出会っていないんだろう?

小斗雪音

ねぇねぇ

鮫野木淳

何?

小斗雪音

淳くん、もしかして、あの人が六十部さん?

六十部紗良

……

 小斗が言う通り、病院の待合席に六十部が座っていた。俺は六十部に近づいて話しかけた。

鮫野木淳

六十部さん、あの聞きたいことがあるんですけど

六十部紗良

あら、おはよう。早いわね

鮫野木淳

そうですか

六十部紗良

あら、腕時計持ってないの? 便利よ

鮫野木淳

へー、そうなんですね!

鮫野木淳

いやいや、知ってますよそのぐらい。そうじゃなくて、話が——

六十部紗良

あなた、昨日見なかったわね。私は六十部紗良。あなたは?

小斗雪音

初めまして、小斗雪音です

鮫野木淳

……あのー、六十部さん

六十部紗良

小斗さんね、あなたもこの世界に来てしまったのね

小斗雪音

この……世界?

 やっぱり、彼女は知っているんだ。

鮫野木淳

あの良いですか

六十部紗良

そんなに慌てなくても、鮫野木くんが知りたいこと教えてあげる

鮫野木淳

お願いしますよ

鮫野木淳

六十部さんが楽しそうで、なりよりです


 六十部は一度目を閉じて、鮫野木を見る。

六十部紗良

聞きたいことは何?

エピソード8 裏の世界(4)

facebook twitter
pagetop