河岡とヤマノは聖殿を後にし、閉ざされた扉を前に黒の司祭が告げた言葉を思い出していた。

 そして渡された鉄の指輪を見る。何てことのない安物っぽい指輪だ。だが、わざわざ手渡された物に意味がないわけがない。河岡はヤマノと目配せした後、詳細識別を開始した。

鉄の指輪

何の装飾もない指輪。
材質は名の通り鉄だ。
『最後の選択に出会いし時』
『乙女と結ばれる者』
に渡しなさい。
黒の司祭はそう言った。
婚約指輪のように
その乙女に渡せとでも
言っているのだろうか?

 はっきり言って新しい情報はないと言えた。つまり必要な時に必要な者に渡すべきなのだろう。それだけを二人で確認して、河岡はそっと指輪をヤマノに差し出した。

「持っていてくれ」

 河岡はヤマノの過去がどうあれ、ヤマノを信頼していることが言動から誰にでも分かった。ヤマノもそれを感じていた。

「適切に使わせてもらおう」

と言葉少なかったが、丁寧に受け取った。

 ドウサンは不可解なこの館の現象に寧ろ笑いが込み上げてきた。ふと天井を見上げると、この鍵穴のない牢の天井付近に鉄枷の鍵であろう小さな鍵があるではないか。勿論、鉄枷にはまっている者は取れない距離だ。

 そこへヤマノが現れる。ドウサンの姿を確認しすぐさま解放。ドウサンは笑い飛ばしつつヤマノに感謝を伝え、お決まりの情報交換をした。

 そして二人で室内をチェック。
 少しのカラクリはあったが、ただの牢獄だ。牢獄からの脱出。そういうのもありかもしれない。だが特出する部分はなかった。

 後はやはり一番奥の牢だろう。

 ドウサンが一番奥の牢獄へ足を向ける。
 開いていない牢獄の中では一番オーソドックスと言えるだろう。鍵が掛かっており、ガチャガチャと鉄格子を揺らしてみたが、当然力づくで開くことはない。

 近付いて始めて気付いたが、牢獄の中の壁に穴が開いているのが分かった。かつて囚人が脱出する為に命掛けで掘った形跡なのではないだろうか。
 ただこの牢獄に入る為の鍵を、二人は持ち合わせていなかった。

 リンはナビゲーターである白の処刑人に会いに来ていた。

「こんにちわ」

 リンの挨拶は完膚なきまでに無視された。腐ったゴミを見下すような鋭い視線をさらに尖らせてくる。

 リンはサイコロの一件で骨太な精神を得ていた。今殺される心配がないと高を括っているのか、白の処刑人になれなれしいとも言える態度だ。壁に掛けられた剣の前に屹立する白の処刑人を前にしても怖気付くこともなく、クルリと回り、ソファに深く腰掛けて休んでみせた。

 運命値+1



 そこへ竜喜がこの部屋に入ってくる。
 その竜喜にリンが、白の処刑人の無視っぷりを軽い感じで語る。竜喜はそのあっけらかんとしたリンの話ぶりに笑みを零し、白の処刑人に向かい口を開く。



「レジエレール・クァース」



 古代語を熟知していた竜喜の発音は、正しい発音と知らぬリンにも流暢に聞こえた。

「青き力を持って赤き命に灯を」



 白の処刑人はそれだけを語った。相変わらず寡黙で愛想がない。愛想がないのは当然と言えば当然。時間が経てば殺すといわれているのだから。

 だが流暢な発音で古代語を話す竜喜を前にしたせいなのか、白の処刑人は始めて瞳に色を灯したように問いを投げかけてきた。



「牢獄にあった物語は読んだか?」

 身近い言葉の問いだったが、問い掛け自体は始めて耳にした二人。偶然、竜喜がこの部屋に来る前に発見したあの三つ折りの紙にびっしりと書かれた物語のことだろう。



「知っている。今読ませてもらったばかりだ。まるで俺達の状況を暗示しているかの様に思えたよ」

 刻限を迫られた者の生き方を語る物語。それはあの物語を書いた者も竜喜達全員も一緒だと感じていた。



「あれを書き記した者は自分の友人。お前達と同じ状態であの手記を残した。そしてこの館の刻限は絶対。自分は無情にもその友人を手にかけた。間に合わなかった。善悪に迷い苦しみぬいた末、その道を選んだ。ただ奴の生き方は好きだった」



 竜喜とリンは、珍しく長々と語る白の処刑人をじっと見据えていた。突然の告白とも言える内容。二人は考えを巡らせる。すると、



「レジエレーラ・クォード、オォフロンヅ・レンヴァーグ」



 少し沈んだ声。それ以上は何も語らなかった。



 以前と違う言葉。竜喜はその意味を知っていた。『未知は示した』に加え『満ち足りた道を行け』だ。

 竜喜は古代語を知っているが、それとは別の感覚で、もう白の処刑人は何も語らないだろうと感じていた。

 白の処刑人をスポット調査できなくなった。

ハート型のダイヤ

これほどの大粒なら
本物と仮定すれば
もの凄い価値があるはず。
だが、何か儚さを感じる。
誰か自分以下の者と共に
使えるような気がする。

 優は早速ハート型のダイヤを調べる。誰かと共に使う? 同室の人を指定して使うのだろうか。効果は分からないが、おそらく悪い影響はないだろう。

 優が書庫に入った時、誰も居なかった。掲示板が更新されているかもしれないと思い駆け寄る。

同じ行動をしても
行動順の規則が
あるらしい

薬品は運命値で
効果が変わる

もう出口は近い

 ヤマノとアスカと竜喜もこの書庫に入って来た。皆で確認するが もう大した情報はなかった。そう思った瞬間、掲示板が傾いた。留め金か何かが外れたのだろうか。全員なんとなくもうこの掲示板が機能しないような感覚を覚えた。

 掲示板がスポット調査出来なくなった。
 ■運命値-5



「アスカさん、以前もらった白い粉なんですが……」

 掲示板を見て、薬品である白い粉末を一応調べて貰おうとする竜喜。アスカは勿論それに応えた。

白い粉末

効き目の薄い薬。
白い粉と言うと
勘違いされる一品。
特に「誰かに貰った」
などと言うと
周囲の人に二人共
白い眼で見られるかも。

 アスカの識別に優とヤマノが笑い、竜喜は照れくさそうに頭を掻いた。

 そして本命の隠し通路を探す前に、何度も試した適当に本を抜く作業。アスカの本は白い粉の本で、優とヤマノのじとっとした視線を感じた。



 センス・トラブルメーカーを所持

 ある書物が気になったヤマノ。手を伸ばそうとした時、後ろの棚にぶつかってしまった。

バサバサバサバサ!

 そこら一帯の本棚から書物が本棚から落ちる。ひと段落して納まったあと、頭上に分厚い本が落ちてきて酷く頭を打った。

 ■運命値-2



 頭をさするヤマノ。優が手を貸し立ち上がらせ、大丈夫かと尋ねる。ヤマノは自然な笑みで照れてみせた。

!?

 ヤマノが心配で近寄ってきていたドウサンが目を見開いている。

 本棚の向こう側に空間がある。ドウサンはヤマノに脇へ移動してもらい、その本棚をおもいきり前に引き倒す。衝動的に身体が動いたが、結果は発見に繋がるものだった。書庫の奥に通路を発見したのだ。

 四人は顔を見合わせる。黒の司祭から聞いた『この館の主』がこの先で待っているのだ。誰も異論を挟む余地などなく、全員でその隠し通路を進んだ。

 隠し通路はとても明るく現代的で、真っ直ぐ続いている。



 そのまま進むと、上に登る螺旋階段しかなく、そのまま昇るしかなかった。

 階段は長く続き、随分と上の方まで登ってきた。階段室の踊り場の窓でうっすら見えたあの離れの塔だろうとおおよその予測はたった。優の呼吸が乱れる頃、遂に頂上に到着したようだ。窓などなく、外の景色は一切見えない。少し残念だったが、この頂上の雰囲気は神秘的で心が落ち着いた。

 奥には椅子に座った誰かがいる。全員は緊張気味の心を抑え、そちらに足を進めた。

 奥にあった唯一の物は椅子、いや玉座とも言えるほど豪華なものだった。そしてそこに肘を付き座っていたのは、鮮血のように真っ赤なローブを着た女だった。

「我は赤の魔導士。この館の主人にして命を知るモノ。よくぞここまで辿り着いた。だが、そなた達の終わりは近い。我が見たいものは、避けられぬ終わりまでの限りある燃える命。示してみせよ」





 唐突に語り出し要求を突き付ける赤の魔導士と名乗る館の主人に、色々と聞こうとしていた四人は、困惑しながらも返答を探し求めた。



「限りある命……それってこの蝋燭じゃ……」

 優はそう頭に巡らせ、赤き蝋燭を恐る恐る差し出した。



 それだ!

 優以外の三人もこれに違いないと確信し、赤の魔導士の反応を待つ。

よし!
これで出られる!
しらねぇーけど、
絶対だ!
多分おそらく絶対だ!
急げよ、ほれ
何か言え!
こんな辛気臭ぇとこから
おさらばしてぇんだよ。

 ヤマノは緊張感漂うシーンでのナビンの声に少し気が和らいだ。

 ■運命値+1







 だが赤の魔導士は微動だにしなかった。

 ⇒ 尖塔の頂上へ移動可能になった。

 部屋の入口で分かった。窓からの陽の光がない。今は夜だと。

 月の光はうっすらと部屋の一部を照らしていた。昼に来た時に居た若い女は居なかった。あんなに大きなハープもどこにもない。

!?

 格子窓から入って来た風で、部屋の端で青い何かがヒラリと揺らいだ。月の光が届かぬ闇に何者かが立っていた。

 それは青いドレスに身を包んだ黒髪の――、いや……若い女の顔が三つある。背中に走る悪寒を止める術もなく、河岡は二歩後ずさりした。



「私達は善悪の顔を持つ青き邪神。数多の善悪は表裏一体。私達はいかなるモノにも縛れぬ。終末に向かうこの夜は私達の全てと言えよう。だが足りぬ。まだ何か……」



 青い邪神と名乗ったその女は、河岡を見透かすような眼を向けながらも、何も見ていないように感じた。



 河岡は何もかもお見通しのように青い指輪のネックレスを差し出した。

 すると青き邪神の三つの顔が一気に険しくなり、六つの目玉が燃え盛るように青く変わった。

 手元の青い指輪のネックレスは青い炎に包まれ、一瞬で燃え尽きた。河岡は差し出した手を反射的に熱く感じて振ったが、全く熱くないことに気付く。そして青き邪神の首元に、青い指輪のネックレスがいつの間にかある事にも気付いた。



 青き邪神は六つの目を閉じて、三つの口を同時に開いた。



「善悪に悩む必要はない」
「善悪に悩む必要はない」
「善悪に悩む必要はない」
「終末に向かう夜は長くもあり短い」
「終末に向かう夜は長くもあり短い」
「終末に向かう夜は長くもあり短い」
「私達は歩かなければならぬ」
「私達は歩かなければならぬ」
「私達は歩かなければならぬ」
「そして選ばなければならぬ」
「そして選ばなければならぬ」
「そして選ばなければならぬ」
「善悪に悩む必要はない」
「善悪に悩む必要はない」
「善悪に悩む必要はない」



 重なる声色は新たな声色を生み、幾つもの声色を生み出しているかのようだった。十秒にも満たぬ時間に、百の声を聞いた感覚の河岡。未だに幾つもの声が身体の中で響き、不思議な熱さを思い出すようだった。

 ⇒ ▼センス・青き炎を入手した。
 ⇒ ○青い指輪のネックレスを失った。

 三つ目の鐘が鳴り響く中、河岡の目の前で青き邪神は闇に姿を溶かし消えた。

1回移動と
3回アクション可能

【各部屋でのアクション】
室内調査  :部屋全体を調査
スポット調査:特定の場所を指定して調査
アイテム調査:アイテムを調査
アイテム使用:対象を指定してアイテム使用
センス使用 :特定の対象を選択しセンス使用
手番スキップ:任意の回数手番をスキップ


【マップ】どの部屋からでも移動可能
暖炉のある部屋 ◎調査済
 寝室     ◎調査済
 調合室    △閉鎖中
 書庫     ◎調査済
  尖塔の頂上
 食堂     ◎調査済
  酒樽倉庫  ◎調査済
 教会     ◎調査済
  隠し牢
 階段室    ◎調査済
  螺旋階段  ◎調査済
   地下聖殿 ◎調査済
   地下遺跡 ◎調査済
  格子窓の部屋◎調査済


【スポット調査】
隠し牢
 ・一番奥の牢獄

尖塔の頂上
 ・赤の魔導士

竜喜
▼センス  夜目 洞察力 
      古代語 迅速(移動+2)
●アイテム 白い粉末
■運命値  11

アスカ
▼センス  薬学
●アイテム 邪気を帯び浮遊する遺物
■運命値  2


▼センス  器用な指先
●アイテム 赤き蝋燭 ハート型のダイア
■運命値  0

ドウサン
▼センス  才能識別
●アイテム 
■運命値  -4

ヤマノ
▼センス  トラブルメーカー 強運
      元FBI(アクション常時+1)
●アイテム カード・スペード 鉄の指輪
■運命値  1

リン
▼センス  夜目
●アイテム 
■運命値  8

河岡
▼センス  薬学 アイテム詳細識別 青き炎
●アイテム 
■運命値  7

 めっちゃくちゃ進みましたー!
 ってかもうやる事殆どねぇー!
 明らかにやる事ない人は、何か起きそうなところで(まぁ二箇所しかないけどw)臨場感を味わいましょう♪

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