とりっくおあ!
とりっくおあ!
いたずら いりませんか。
いたずら? は?
そう。それが叶わない場合、僕はお前を食べてしまいます。がおーーっ
間に合ってます! お帰りください!
薄夕暮れ。帰宅途中の通勤路。人通りの少ない住宅街で、わたしはおかしな子供に絡まれる。
まったく、遊んでるのは構わないけど人と時間を考えなさいね。忙しいお兄さん捕まえてないで、近所の子供がいるでしょ。
僕はおばけだぞ。夜でも遊んじゃうんだ。
おばけならしょうがない。
とでも言うと思ったか! 悪いこと言うのはこの口か! この口か!
ふひぇ~~~ひっぱややないで~~
それでは、いたずらを開始します。とっても怖いんだからね。覚悟してよね。
ほっぺた真っ赤にして何を威張っているんだか。
いたずら内容を説明しま~す。
1! 毛根死滅の刑!
2! 体臭強化の刑!
3! 少女から嫌悪される刑!
どれにしよおかなあ~?
なにそのおじさんをピンポイントに狙ったような嫌がらせ! 鬼め!
おばけだぞ。がおおっ
ふ、ふん! 君はまだ小さいから知らないんだろう。脅せば言うことを聞くと思ったら大間違いだ。
ところで、このカバンの中にロイズのチョコレート入ってるんだけど、お嬢さんお一ついかが?
わーーい!
でもね。――いいんだ。いらない。
?
そんな格好して。いたずらがどうとか言って。……ハロウィンのマネごとがしたかったんじゃないの?
別に遠慮はいらないよ。お菓子くらい。これだって、同僚からの貰い物だし……
“施し”は、もうもらってるから。
おじさんと、ちょっとだけ遊んでみたくなったの。
じゃあね。ばいばい。
おじさんはまだこっち来ちゃだめだよ。
ま……待ちなさ――
どこからか響く鈴の音。懐かしい、気がした。
気を取られて我に返ったその時には、もう少女の姿はなくて。
ただ、足跡だけ。
途端。
暗転。明滅。世界が。
何もかも。戻ってきてしまった。
あいつがいなくなって……ずっとわたしはこうやって部屋にこもって……
時計……あれから、もう、3日……?
はっ……腹が減るわけだ。
叱ってくれたって言うのか……?
カーテンを開く。
まぶし……い、な……
ああ……ありがとう。わたしも、歩き出さなきゃな――