もういーかい
まーだだよ
もういーかい
まーだだよ
おや、お客さんかい? 最近じゃここはめったに人が来ないからな。歓迎するぜ。
――って言いたいとこだが。この俺が見えないのかな。よく見てみな……“立ち入り禁止”だぜ。
何を守っているのかって?
知らん。
おいおい、ずっこけるところか? 俺をなんだと思ってんだ。俺はただの境界線。目も耳も、ありゃあしないんだ。
そんなに知りたいなら、こっそり覗いてもいいんだぜ? それくらい大目に見てやるよ。
どうだい、なかなかのもんだったろう?
他に何も取り柄のない俺だけど、こうやって大切なものを守れること。ちょっとした自慢なんだ。
いつだったかな。前に俺が仕事したときの話だけど。
beautiful...!
おいおい、押すなよ。貴重な品なんだからな。よせ、よせってば。体重かけるなよ。
美術館かどこかで歴史ある名作が公開されてさ。俺が警備をしたんだよ。
あのときの客の様子ったら、見ものだったね。みんな魂奪われたみたいに作品に見入ってさ。
世の中には、こんな風に人を夢中にさせるものがあるんだって、びっくりしたっけな。
え? 目がないのに客の様子なんて分かるのかって?
おいおい、混ぜっ返すなよ。人間の心の動きくらい、わかるさ。
作品が直接見えなくたって、どんな素晴らしいものかわかるってもんだよな。なあ?
今回は本当に長ぁく警備してるからな。きっととんでもない秘宝なんだろうぜ……!
…………
お……?
おい、なんで解くんだ? 俺はまだ――
もういーよ
……!
――――
ああ……そうだったのか……
ありがとうよ。ここまで足を運んでくれて――
――――――
ナンチャイさーん!今回も参加させてもらいました。役目に誇りを持つ道具たち。これを読んで、少しでも道具たちのこと大事にしてもらえたらな、なんて。なんつて!