~ 幸福の王女様 ~

それはうだるような暑い、夏の日だったんだ――

びいいいいええええええ

海辺の町。静かに押し寄せる波音。それをかき消すように、君は泣いていたね。

ど、どうしたの……世界が終わりそうな声あげて。

僕は君の言葉がわからないから。できることの少なさにただ、ただ歯がゆくて。

だから、一生懸命考えて、精一杯の励ましをしたんだ。

あげる。だから泣き止んで。

う? お花……くれるの?

……かわいい! かわいい!

りゅう君と喧嘩して悲しかったけど、どうでもよくなっちゃった!

わーい! お花! かわいい!

切り替えが早いなあ。別にいいけど。

じゃあね。君が元気になったら、僕の役目は終了だ。

!?

待って! 遊ぼうよ!

遊ぼうよぉ……

うぇぇえ、えっ……ひぐっ……

だーーーもっ わかった、わかったから!

やったー! わーい! かけっこしよう!

あっっっ

止める暇もあればこそ。

それーー! 水鉄砲だよ!

水鉄砲と言うには あまりにはしゃぎ過ぎた水柱が僕に襲い来る!!

いっぱい遊んだ。次の日も。次の日も。

やれやれ、どこに隠れたの? こんな草むらに隠れたら探せないよ……

バア!!!

ぎゃああああ おばけ!

アハハハーーーー! 引っかっかた! アハーー!

あのね、いくら温厚な僕といえど限度があるのだよ……

これ、あげる!

えっ――――

それはそれは、小さな花の冠。

この前のお礼だよ。アハーー!

そう言って駆けていく君。もう、本当に勝手なんだから。

だけど、その日の君は違っていたね。

……

どうしたの。深刻そうな顔して。君らしくもない。

ご本を読んだの……君をずっと引き止めちゃ、いけなかったって。

そんなの、あたしたちの、あたしのわがままだって……

わけがわからない。だから僕は一歩踏み出して。

早く! 早く行ってよ!

もう、夏は終わりなんだよ! ここにいちゃいけないの!

な、なんでだよ。僕はここにいるよ? 君が望むまで。

キライキライ! あんたなんてキライ! だから早く行ってぉおお!

なんでなんでなんで。

なんで、あんなに仲良かったのに。

あの笑顔も見せかけだったって言うの。しょせん、一緒にいられない生き物だったって。

僕は悔しくて悔しくて、大きく翼を広げ、飛びたったんだ。どこまでもどこまでも。遥か彼方まで。

ようやく気づいた。僕は――ワタリドリだったんだって。

ワタリドリは旅をする生き物。一箇所にはとどまれない。どれだけ仲良くなっても全てはやり直し。

さよならとさよならを重ねて、別れを告げる。

でも―――

知らなかった。木の葉が落ちて、世界が白く染まって。草木が芽吹いて。

もう一度、この季節がやってくるなんて。

そして――――

――――――――――!!!

また、こんな幸せが訪れるなんて、ぜんぜん、知らなかったんだ――――

幸福の王女様

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