青春いりませんか?

青春、いりませんか?

茜色の空の下で
微笑むのは季節外れの転校生




オレの瞳は彼女に固定されたまま
動かない





美少女という言葉で表してはいけない
美しい芸術品のように、

そこに在る





手を伸ばせば、
シャボン玉が割れるように
消えてしまいそうだ



もしかすると
幽霊の類かもしれない






こういう存在は

悪い、寝言に付きあっている暇はないんだ……急いでいるんでな

関わってはいけない

待って!

ひゃぁ

間抜けな声に振り返ると

あいたたた

少女が尻もちをついて転んでいた

いや、待て待て……何もないところで……どうして突然転ぶんだ?

ずっと同じところに立っていたので足が固まって……いたた

おっとっと

よっと

フラついていて危ないなぁ

よし、大丈夫です。立ちっぱなしというのも足に悪いですね

ずっと立っていたって、どのくらい?

1時間程

それは、お疲れ様。それじゃあ

待ってください!

欲しいですよね? 青春!

要らないよ

嘘はつかないでください!

嘘じゃない

何のために学校に行くのですか? 青春するためですよね

勉強するためだ

それもありますけど

それだけでは物足りないのでは?

私が貴方に青春を提供します

………

妙なことを言い出す少女

オレが睨んでも
全く動じる様子がない

やはり彼女は
関わってはいけない相手だ




電波系?

メンヘラ?


そんな単語が脳裏に浮かぶ





今ならまだ、
振り切って
逃げることが出来たかもしれない







それなのに
何故かオレは彼女に問いかけていた

あんたは青春しているのか?

………

その質問にはNOと答えます

じゃあ、他人に構っている余裕はないだろ、自分が青春しろ

貴方がひとりでしたから

……

転校初日、私は教壇からクラス全体を見まわしました

貴方は誰とも目を交わさず、言葉も交わさず、転校生の顔も見もせず誰もいない校庭を眺めていました

お昼もひとり、休み時間もひとり、貴方が誰かといるところは見ていません

人の事を観察するなよ、気持ち悪い

ひとりでいる方が楽なんだよ

ごめんなさい……私と同じでしたから、つい見てしまいました

同じ?

私はずっと一人でした。友達なんていません。欲しいとも思いません。むしろ邪魔なくらいです。勉強の妨げになります。それなのに青春に憧れてしまいました

最近読んだ本には青春という言葉が何度も出ていたので、そこまで良いものなのかと

………

成績が良ければそれで十分だと思っていた。そんな私が青春に憧れたって良いですよね?

……ああ、個人の自由だからな

でも一人では青春ができません

青春をオレとやるつもりなのか?

はい

クラスの女子には声をかけたのか? オレより同じ女子の方がやりやすいだろ

新年度ならともかく、夏休みも終わっているのですよ。完成されたグループに加わるなんて難易度が高いです。はっきり言って面倒です。

そう、だな

それに、友達になりたいのではありません。青春がしたいだけです。

青春をするために友達になってください、なんて言えません

オレになら言える、と

はい………

ごめんなさい、迷惑ですよね?

具体的には何をするつもりで?

そこまで聞かされたら断れないだろ? それにオレも気になってしまった……青春とはどういうものか

ありがとうございます!

だが、オレも研究と実験の日々で世間に疎いから青春とは何なのか想像できない

実は私も分からないのですよ。だから青春について一緒に研究しましょう

研究?

好きですよね、研究!

ですから、研究の為に青春同好会を作るのです

なるほど……同好会は最低5人のメンバーが必要のはずが?

残り3人を集めましょう

オレたちのような異分子を3人か……3年や1年にも当たってみるか

同好会結成の為にメンバー集めをする、これが青春の始まりです

少女はオレの手を両手で包み込む



どうしたのですか?

温かい……あんたは人間だったんだな

え?

人間以外の何かかと思った……

ど、どうしてですか?

え?

オレは言葉を失った





「美しすぎるから」





なんて、言えない




それに、


こうして女の子に
手を握り締められたのは
初めてで

その、手を離して貰えるかな

微かな温もりが

両手から伝わってくるだけで



恥ずかしい

もしかして、潔癖症?

無闇に男の手を握らない方が良いぞ……冷静な思考ができなくなる。フリーズしそうだ

あ……

何の御用ですか?

青春

いりませんか?

おしまい

お題:冒頭文「●●●いりませんか?」

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