藍人の言葉を聞いて、理衣は唖然としていた。

もう一度その言葉を言ってほしいと望みながら、声を出すことが出来なかった。

石井 藍人

いまさら、って感じだよね……。僕、理衣の事、好きだ

秋野 理衣

本当に? 恋愛の感情だよ? 藍人、ほんとうに……?

石井 藍人

うん、自分でもびっくりしてるんだ。理衣をここまで止めようとしてる理由……やっと気付いたんだ

秋野 理衣

藍人……

もう、戻る覚悟はできていた。

でも、理衣はまだ嫌だ、と思いはじめていた。

秋野 理衣

こんなタイミングは、あんまりだよ……

石井 藍人

だから、僕はやっぱり理衣に石に戻ってほしくないよ……。一緒に探そう、人間のままでいられる方法を

でも、と。駄目なのだ、と。

理衣は、ううん、と首を振った。

秋野 理衣

もう、いいの。覚悟はできてる。藍人がこの石を持っててくれるんでしょ? それに、好きって言葉も聴けた。もう、十分だよ……

秋野 理衣

……でも、最後に、もう一回

理衣の気持ちが通じたのか、藍人の身体は自然と動く。

ふたりのくちびるが重なった瞬間、理衣の瞳から涙が溢れ始めた。

秋野 理衣

ありがとう、藍人。もう、戻らなきゃ……

石井 藍人

あ、理衣……!!

涙が、ゆっくりと、石へと落ちていく。

理衣の体が半透明になり、すこしずつ石に吸い込まれ––––––––消えた。

石井 藍人

あ……

藍人は、訳もわからないまま、号泣していた。

涙が止まらない。

なぜ泣いているのかも、もうわからなかった。
溢れて止まらない涙の理由が、まったくわからなかった。

それでも藍人は、目の前に転がっていたエメラルドを手に取る。

理衣の言うとおり、藍人はもうすべてを忘れてしまっていた。

でも、藍人はこの石が大切なものだということだけは理解していた。

手に取り、握りしめる。

石井 藍人

なんで、なんで涙が止まらないんだ……

暑さも忘れ、その場所で、泣き続けた。

いつの間にか夕日が地平線の向こうへ消えそうなほど沈み、景色はそれまで以上に紅に染め上げられていた。

真っ紅な景色の中で、藍人はひたすら、泣き続けた。

泣かないで

石井 藍人

……っ!!

それは、もう誰のものかはわからない言葉だったけれど。なぜかとても愛おしいひとのもののように思えて。

石井 藍人

……うん、泣いていられない、よな

藍人は涙をぬぐい、真っ紅な空を見上げ、呟いた。

石井 藍人

––––––––好き

Fin.

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