華は、雄介を前にして固まっていた。
華は、雄介を前にして固まっていた。
覚悟を決めてきたはずではあったが、やはり緊張は隠せない。
ね、なにしに来たわけ?
あ、あのね……
すごいうわさだよね、華。昔のほうが、よかったと思うけどねえ……
……っ!!
ま、俺は今もあの子に一途だから。ほいほい相手を変える華とは違うの。じゃあね
ちょ、ちょっと待って!
引き留める華を前に、雄介は冷静だった。
なに? 弁解の余地はないと思うけど? でもよかった。俺、あのまま付き合ってたら浮気されて終わってたのかもしれないから
私、私はね……
今でも、雄介のことが好きなの……
……は?
あの日のことがショックすぎて、それでも好きって気持ちを隠すために、わざと歪んだ性格を作って自分を偽ってたの
ほんとうは、ずっと、雄介のことが好きなままなんだよ……
そこにはもう『くろいはな』と呼ばれたはいなかった。
なにかを吹っ切ることができた彼女は、偽物の自分を捨てて、ほんとうの想いをすべて打ち明けた。
……そうだったとして、俺はどうすればいいの?
雄介は戸惑っていた。
それは、いきなり想いをぶつけられたからではなかった。
俺の事、恨んでないわけ? あんな態度取った俺を、憎んでないの?
恨んでないよ。突っぱねられるかと思って、不安で、怖かったけど、でも、今こうして話を聴いてくれてる
いいの、それだけで十分だよ
……悪かった
え?
俺だって、後悔しなかったわけじゃない。でも、俺は彼女を守らないといけなかったんだ。その理由は言えない。誰にも言わない約束なんだ
でも、これだけは言わせて
ほんとうに、ごめん。最低だったと思う。さっきは今の華を責めるようなこと言ったけど、俺だって同じようなもんだよ
……あんなことしておいて今更だけど、俺、華のこと、好きだった。大好きだった
……っ
華は涙をこらえることが出来なかった。
決心して会いに来て、ほんとうに良かったと、安心したのだった。
雄介はその涙を見て、ひたすら自分を責めた。
噂を聞いて、華のことを軽蔑さえしていた。
……でも心のどこかで、それは自分の所為なんじゃないかと思っていた。
原因は確かに自分の犯した裏切りだった。
でも、恨んでいないと彼女は言った。
華は、恨んでいないと言ってくれた。
雄介は華の頭にそっと手を乗せた。
ごめんな……
これ以上してはいけない、と自分を抑える。
俺に、これ以上なにかをする権利はない
華は、乗せられた手にほっとした。
別に謝ってほしかったわけではなかった。
それでも、華は偽り続けていた心を捨て、やっと本当の自分を取り戻せたような気がしたのだ。
最終話へ、続く。