光が部屋を照らす。光は徐々に強くなりソファーで寝ている鮫野木に当たる。その暖かい日差しで目が覚めた。ソファーからゆっくりと起き上がると同時にリビングに人が入ってきた。
光が部屋を照らす。光は徐々に強くなりソファーで寝ている鮫野木に当たる。その暖かい日差しで目が覚めた。ソファーからゆっくりと起き上がると同時にリビングに人が入ってきた。
あっ、おはよう。淳くん、早いね
ん……そうだな
鮫野木は首を抱え、眠気を押さえて答えた。
ソファーの手すりに頭を置いて寝てたせいで首が痛かった。首を手で押さえてないと落ち着かないでいた。
ユキちゃん
なに?
今、何時?
眠くて上手く喋れない鮫野木の質問に音は思いつきで答える。
そうだね。五時ぐらいじゃないかな
五時? 五時か
うん、顔、洗ってきたら? 目、覚めるよ
……うん
鮫野木は眠気と戦いながら洗面所で顔を洗う。冷たい水で気持ちが引き締まった。顔を洗って、リビングに戻ると小斗が話しかけてきた。
おはよう
ああ、おはよう。おかげで目が覚めたよ
そう、ところで首どうかしたの?
小斗の目線は首元を向いていた。
ちょと寝違えてな、そんなに痛くないから心配しないでいい
実際に首を押さえてなくても、さほど痛くはない。けど、手を置いていると落ち着くから置いているだけだ。
鮫野木は首から手を離した。
そう? なら少し手伝って欲しいんだけど、いいかな
ああ、いいぜ。何をすればいいんだ
簡単なことだよ。野菜を洗って、切って、お皿に盛るだけだから
サラダか、それぐらいなら作れるぜ
本当に?
なんだ、野菜を洗う洗剤はどれ? みたいな展開を期待してたのか、残念だな俺は料理が出来る系、男子なんだぜ
えー、初耳だな
ソルトとオリーブオイルの出番があれば呼んでくれ
鮫野木は腕を高く上げて手を狐みたいにした。
はいはい、あんまり調子に乗らない
ユキちゃん
小斗は軽く聞き流してキッチンに向う、高く上げた腕を下ろして鮫野木もキッチンに向った。
小斗の料理を手伝っていると目覚まし時計が鳴り響くのがわかった。時計の音が鳴り終わると二階から続々と降りてきてみんながダイニングに集まった。
しばらくして、朝ご飯も完成した。完全に日が昇りきっり、朝ご飯にはふさわしかった。みんなでそろって食べる朝ご飯は美味しい。ユキちゃんが作った料理が美味しいのは当たり前として、それとは違う何かがあると思う。
朝ご飯を食べ終わり、鮫野木達は家を出る。目的地は野沢心の家だ。目的地までは、そう遠くではない。三十分もしないうちに付くだろう。
鮫野木達は六十部を先頭にして、列になって移動していた。
上手くいくかな
何言ってるの、作戦が全部上手くいくわけないじゃない
先頭にいる六十部は足を止めずに話した。
おいおい、六十部が考えたんだろ
考えたわ。けれど、上手くいく可能性なんて、誰が保証してくれるの
それを言われると
六十部は一度だけ振り返る。その時、六十部と目が合った気がした。
推測で考えたその場しのぎの作戦は上手くいかない物よ
だから、臨機応変にやるしかないの
頑張るしかないか
そうね。頑張らないとね
そうこう喋りながら歩いて気付いたことがある。NPCに出会わないことだ。昨日もそうだったがNPCと出会っていない気がする。
街にNPCでも人が居ないと静かな物だ。足音ぐらいしか聞こえてこない。
なあ、六十部。この時間帯はNPCは居ないのか?
NPC? そうね
六十部は腕時計を確認して答えた。
私の記憶違いではなければ、現れているはずよ
NPCがどうかした
この世界に戻ってきてから、一度も会っていないんだよ
一度も?
秋斗と小斗が話に割って入る。
サラッチ、ちょといい
何?
実はアンノンのせいでカゴメ中学校の近くまでにしか行けなかったんだ
おかげで淳くんと会えたんだけどね。でも、昨日は人と会っていないの
二人ともNPCを見ていないのね?
そんなんだよ。サラッチ
うん
どうやら二人ともNPCを見ていないらしい。何かの予兆か? いやいや、いくらなんでも考えすぎだ。ただNPCを見ていないだけで偶然さ。
なんとも言えないわね。作戦に害は無いわ。このまま行きましょう
サラッチが言うなら
不安を抱え歩き続けた。住宅地を向け、大通りに出た。大通りを進むごとに奇妙な気持ちになる。
そのはずだ。普通なら車や大勢の人が居て、騒がしいのが当たり前の大通りが、とても静かで道路と建物しか無く、当然のように人の影も無かった。
奇妙な空間を抜けようと歩いていると、遠くの曲がり角から人が出て来た。鮫野木は、その人を見て表情が曇った。
名も無き者
すぐにわかった。その女性が名も無き者だと、咄嗟に足を止めた鮫野木達に名も無き者がこちらに近づく。
アレが……名も無き者か
知ってたのか、藤松
藤松は頷いた。
知ってる。俺はアイツに騙されて野沢心を殺そうとしたんだ
なるほど
藤松が野沢を殺そうとしたのは俺と再会する前、名も無き者と出会って上手いこと言われ騙されていたんだな。
あの人が名も無き者なの?
そうだけど、どうした
あの人って、カゴメ中学校の外に居た人じゃない
――そうか、あの時の
小斗の証言で思い出した。何処かで見たことがある顔だと思ったら、会っていたとは、名前は確か……高須紫崎だっけか。
なあ、六十部。どうする? 早くも作戦通りにいかなそうだけど
そうね。とりあえず鮫野木くんだけでも野沢心のところまで行かないとね
だな、お前が行くべきだ
気合いを入れてくれたのか藤松は鮫野木の背中を叩いた。そうこうしている内に名も無き者が近づいて話し出した。まるで、人を見下すように。
その様子だと、私の正体を隠す必要は無いようだな
君らが何をしようとしているかは想像つくよ。ここから出たい、元の場所に帰りたいだろ
……そうだな、勿論帰りたいよ。ここに居るみんなと野沢とな
そうかい
鮫野木の答えに名も無き者は不満そうな顔をした。
君達は帰ることは叶えよう。だが、野沢心は帰さない
どうしてだ、人間の感情を知るためか
そうとも
嘘を付くな、お前は感情を知るために野沢を閉じ込めてるんじゃない
言いがかりはよせ、私は人間の感情を知りたいだけだ
名も無き者の気迫に足が震えそうだった。
なら、感情を出しすぎだぜ。鏡を見てみろよ。感情を知らなきゃ、そんな顔なんてしない。顔に出てるぜ人間らしい感情が
人間らしいだと
名も無き者の気迫がさらに強くなった。怒りや憎しみといった感情が伝わってくる。
私が人間らしい感情を待っているだと、俺が人間らしい感情を待っているだと
俺は人間ではない。私は人間ではない。僕は人間じゃない。人間じゃない。人間じゃない人間じゃない人間じゃない人間じゃない人間じゃない人間じゃない人間じゃない……私はお前達とは違う
今までたまった何かが崩れたように騒いだ。落ち着きを取り戻し、名も無き者は話しかける。
屈辱だな。人間にここまで言われると……なら、隠す必要は無い。確かに人間の感情を知るために野沢心をここに閉じ込めた訳じゃない
空を見上げ、笑顔で話した。
今日という日は素晴らしい日になる。鍵は完成した。門はすでにある
名も無き者は徐々に高らかに声を上げる。遠くに居る何者かに届くように。
はぁぁぁあ、まもなく鍵は門を開き、偉大なる混沌の源にして我が主!! 長い年月の時を超えて、ようやく出会えますね
チェックメイトだ。人間、君達は何も出来ない
もし、邪魔をするのなら、消えてもらう
邪魔しなくても、消えてもらう
君達に新しい世界は見ることは無い
ビルの隙間、裏路地、木の影、電柱の影、あるとあらゆる影から人の形をした影のような物が現われる。
……
ここで、アンノンかよ
じゃあ、後は任せたよ。本当は君達を帰すつもりだったんだけど、気が変わった
残念だったね。さようなら
名も無き者は振り替えり、この場から居なくなった。残ったのは大量のアンノンと鮫野木達ぐらいだ。アンノンは鮫野木達を囲み始めている。
……
……
たく、言いたいことだけ言いやがって、雑魚に処分を任せるのかよ。小物が良くやる奴だよな、鮫野木!
藤松は強く鮫野木の背中を押した。鮫野木は押されて二、三歩前に出る。
おい、何をするんだ
何って、走って行けよ。ここは俺に任せろ
でも
いいから行け! お前が助けろ
――わかった
鮫野木はアンノンを避けながら野沢の家に向った。
サラッチ、ユッキーも行って
そうだよ。行ってきて
久賀は六十部の背中を凪佐は小斗の背中を押した。
行こう。紗良ちゃん
えっ
小斗は六十部の手を取って、鮫野木を追う。六十部は小斗に手を引かれて上手く走れない。
待って、雪音さん。私はあそこに残らないと
駄目、それは駄目
どうして
淳くんを一人にすると何をするかわからない。それに
それに?
私が淳くんを一人にしたくないから
……
淳くん。何も考えてないから手当たり次第にやると思うの、だから教えてあげて、紗良ちゃんは頭がいいから
私は勝てそうじゃないわね
それ、どういう意味?
忘れて、あと歩きにくいわ。手を離してくれる
あっ、ごめん
小斗は足を止めて手を離した。六十部は体制を正して小斗と一緒に鮫野木を追いかけた。
これを仕え
藤松は近くにあった宣伝に使う旗を凪佐に渡した。
旗は意外と重く感じる。これを振り回して上手く戦えるだろうか。
ナギサちゃん、重いならこっちにする?
ううん、いいよ。そっちの方が重そうだし
ハッハ、そうか。まあ、このバットは私の相棒だからな
久賀は金属バットを優しく頬で摩る。
相棒って、それが
私にとって相棒なんです~
フッジーこそ、そんな装備で大丈夫か?
大丈夫だ。問題ないって、言わせるな
藤松は旗をアンノンに向ける。アンノンは三人を取り囲んで徐々に迫ってきている。
……
……
凪佐、怖くないか
怖くないよ。僕も男だもん
いいね、ナギサちゃん。男らしいね
アンノンが三人に手を伸ばしてきた。三人はお互いに背を向けてアンノンに立ち向かう。戦い方は頭に入っている。完全に倒すことは出来ないが頭を崩して動きを止めることは出来る。
出来ることを出来るだけやる。それだけだった。