鮫野木が目覚めた日から、K・S記念病院に二日間、検査入院をしていた。目覚めて、最初に驚いたことは廃墟で倒れたから二日経っていたこと、倒れていた鮫野木達を廃墟の外に運んだ一人に鬼灯先生が居たこと。それと、入院中、鮫野木を担当してた先生が六十部紗良の兄、六十部武蔵先生だった。

 武蔵先生は優しく、協力的に接してくれる。俺か体験したあの街での出来事を信じてくれた。どうやら、オカルトに詳しい友人が居るらしく、信じられたようだ。

 退院をしてから、普通に学校に通った。最初だけ注目させたが普段と変わらず過ごした。

鮫野木淳

無力だな


 金曜日の放課後、鮫野木は休んでいた時の授業の復習をしていた。

鬼灯先生

手が止まってるぞ

鮫野木淳

あっ、すみません。考え事してて


 責任を感じた鬼灯先生が休んでいた分の勉強を見てくれている。

鬼灯先生

そうか、今日はあと一時間で終わりだからな。もう少し頑張れ

鬼灯先生

それに、日曜になれば吉良が色々と手間ましが終わって……それでも会えるか分からんがな

鮫野木淳

鬼灯先生、それだと……それだとみんなを待たせてしまう

鮫野木淳

俺はどうしても、早く園崎桜に会わないと行けないんだ!

鬼灯先生

それが難しいと、何度言ったら分かる?

鬼灯先生

鮫野木、最初に園崎桜に会おうとして病院を抜け出した時、どんなに肝を冷やしたか……

鬼灯先生

何度も言うが園崎の家は鮫野木、お前が思っている以上に危険ないんだ! 本来なら会うことも出来ない

鬼灯先生

鮫野木――手帳の中身、見たんだろ?

 鮫野木は検査入院していた時、担当の武蔵先生に頼んで六十部の手帳を見せてくれるように頼んだ。武蔵先生は何か思い込んで、次の日には手帳を持ってきてくれた。

 手帳を見ると六十部は園崎家のとこをかなり調べていた。手帳には園崎家は古くからの政治に関わっているらしく、この世界では名を知らない人はいないようだ。

 ネットで調べたら、テレビで観たことがある顔が出てきた。よく調べていく内に政治にうとい鮫野木にでも、園崎の凄さが分かった。

鬼灯先生

直接、政治に関わっていないとはいえ、鮫野木が会おうとしている人は政治家の奥さんだ。それは分かってるのか?

鮫野木淳

それでも、俺は早く――会わないと

鬼灯先生

自分の生徒に危険なことをさせたくないのさ

鮫野木淳

鬼灯先生、俺は待つしか……ないのか?

鮫野木淳

俺は五日も、待ったんだ

鬼灯先生

――我慢しろ。会う時間は来る

鮫野木淳

……はい


 鮫野木が廃墟に行って、一週間経っている。あっちはどのぐらい経っているのだろう? みんなは無事だろうか。

鬼灯先生

……鮫野木、良いから続きをやれ

鮫野木淳

でも……

鬼灯先生

やらないと、お前だけ来年、二年生のままな

鮫野木淳

……分かりました。やりますよ

 渋々、受け入れて残りの時間、勉強を続けた。

 日が変わって土曜日の朝、鬼灯先生から電話が掛かってきた。十時に学生服で学校の前に来るように言われて、鮫野木は急いで制服を着替えて学校に向った。

 一時間ほどかけて、学校に着くと校門の前に赤い車が止まっていた。その赤い車の前に鬼灯先生が立っていた。

鬼灯先生

おお、来たか

鮫野木淳

あの、何のようですか?

鬼灯先生

なーに、園崎桜に会いに行くだけだ。さ、乗れ


 鬼灯先生は手招きをして、鮫野木を呼んだ。良く鬼灯先生を見ると化粧をしていた。

鮫野木淳

えっ! 行けるんですか?

鬼灯先生

行きたがって奴がそんなリアクションをするな

鮫野木淳

でも、日曜日にならないと、分からないじゃ

鬼灯先生

昨日、突然。吉良から電話があって、園崎桜に会えるようになった


 突然、会えるようになる物なのか、急に怖くなってきた。

鬼灯先生

昼の十二時にレストランで待ち合わせることになっている。鮫野木、来るか?

鮫野木淳

行きます

鬼灯先生

なら乗れ、シートベルトちゃんと付けろよ

鮫野木淳

はい


 ポケットからカギを取り出して、車のロックを外した。

鮫野木淳

運転できるんですか?

鬼灯先生

何だ? 免許証ならあるぞ

鮫野木淳

は、はぁ


 鬼灯先生は車に乗ってエンジンをかける。鮫野木は後部座席に座って、シートベルトを付ける。

鬼灯先生

シートベルトは付けたな


 バックミラーで鮫野木がシートベルトを付けていることを確認して、鬼灯は車を走らせた。

鬼灯先生

鮫野木。途中で吉良を拾っていく。お礼を言うんだぞ

鮫野木淳

はい、分かりました


 数分後、道の端に車を止めた。そこに居た吉良を車に乗せた。吉良を乗せるとすぐに車を走らせた。

吉良助教

どうも、君が鮫野木くん?

鮫野木淳

はい、あの、ありがとうございます。吉良さんが色々としてくれたおかげで俺は園崎桜に会えます

吉良助教

うーん、それは僕の手柄じゃないんだ

鮫野木淳

どうしてです?

吉良助教

今日、園崎桜に会えるのは協力者が決めたからさ

鮫野木淳

協力者ですか

鬼灯先生

ちぃ

 協力者に会った時の出来事を思い出して、鬼灯の顔色が曇る。

 六十部から聞いた協力者は一体、何者なのか。鬼灯先生の様子だといい人ではなさそうだ

エピソード29 まだ決まらない未来(1)

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