ーー希望神殿・廊下
シルフを助けなきゃ…ただ、それだけで前に進んでいた。フェードがかかるように薄く視界を侵食していく闇は、僕の恐怖を優しく包み込んでくれているようだった。
…正直なところ、このふたりの願いを叶えたところで、本当にシルフを助けてもらえるなんて思っていなかった。彼女は、自分の願いを叶えることしか考えてない…それは、妖精の方もきっと同じ…彼女の願いを叶える…ただそれだけ…。
ーー希望神殿・廊下
シルフを助けなきゃ…ただ、それだけで前に進んでいた。フェードがかかるように薄く視界を侵食していく闇は、僕の恐怖を優しく包み込んでくれているようだった。
…正直なところ、このふたりの願いを叶えたところで、本当にシルフを助けてもらえるなんて思っていなかった。彼女は、自分の願いを叶えることしか考えてない…それは、妖精の方もきっと同じ…彼女の願いを叶える…ただそれだけ…。
結局のところ、僕だってそうだ…シルフを助けたいなんて二の次で…本当は、もうこんな馬鹿げたことを終わりにしたいだけなんだ…だって、僕はもう…
諦めるのか?
!
どうした奏者さん?
……声が…
声…?
何も聞こえないぞ?幻聴じゃないか?
………
奏者アルマ…聞こえているだろう?
だ、だれ…?
?
…はぁ、末期だなぁ…
足は止めるなよ、奏者さん
もう分かっているのだろう?奴らが、お前を利用するだけ利用して、お前の願いを叶える気がないことなんて…
…わかってる…でも…僕に何が出来るって言うのさ?もう、何も、出来ることなんてないのに…
『ある』と言ったら?
え…?
お前は、どんな目に遭っても、それを勝ち取る気はあるか?
…どういう事?
願いを叶える権利を、2人のスコアホルダーから奪え
そんなこと、僕に出来るの…?
出来るさ。お前ほどの強さがあれば…そうして、こんな馬鹿げたことを企てた神に復讐してやれ…お前には、その力がある
神に、復讐する力…
作り直してやれ、こんな世界を…身勝手で残虐な神が作り出した、この世界を…
作り直す…僕が…?
そうだ。願いの権利を奪え…そうすれば、お前はこの世界の新たな神になれる…命の生死は愚か、その動向だって、お前の思うままだ
…生死さえも、僕の思うまま…じゃあ、シューも…?生き返らせることが、できる…?
ああ、出来るさ…なぜなら、お前は神なのだから…出来ないことなど、何も無い
…………
おーい、奏者さーん?足が止まってるぞ-?
…はやくして。あいつに追いつかれたら元も子もないのよ?
……こせ
なんだって?
言いたいことがあるならはっきり言ってちょうだい。もう時間がーー
………よこせ
!?
願いの権利を、よこせ
ーー希望神殿・廊下
いやに静かな空間だった。アルマが抵抗せずに連れて行かれてしまった証拠だろうか?廊下はつい先ほど磨き上げられたかのように、砂埃一つなかった。
一歩一歩踏み出す度に足音が反響し、ちょっと耳がおかしくなりそうだった。
アルト、もう一息よ!頑張りましょう!!
うん!
もしテナと戦う事になったら…相手は女の子だ。正直あまり傷つけたくはないから、話し合いでことを解決しようと思う。事情をゆっくり話せば、きっと彼女だってわかってくれる…はず。確信はないけど、何もしないよりよっぽどいい…!
ここだわ…
…ここが、希望神殿の…
そこは、金を基調にした大きなドーム状の部屋だった。煌びやかな雰囲気は、ものすごい圧がかけられているようで、少し居心地が悪い…。
辺りを見回し、アルマたちを探す…が、どこにも姿が見えない。そこに人がいたような形跡もなくて、狐につままれたような感覚を覚えた。
だれもいない…?
…まさか、もう遅かった…?
そ、そそそんなこと!!…ない、と、思うけど…
うん、そんなことないよ。
まだ遅くない。
うわ!?
きゃっ!?
背後から急に声がし、俺たちは驚いて振り向いた…するとそこには…
やあ、アルト。遅かったね。
あ、アルマ…!?びっくりさせるなよ…
アルマ!!無事だったのね…!良かったぁ…!!
うん…えへへ、心配かけてごめんね。僕は大丈夫だよ。
アルマは何か嬉しいことでもあったかのように、軽い足取りで俺たちのところまで駆け寄ってきた。にこにこと笑う彼に少しの違和感を覚えるも、その正体はつかめず終いだった。
アルト…
…うん、わかってる
あの、アルマ…俺、話したいことがあって…
うん!僕も、ちょうど話したいことがあったんだ…あとで聞いてくれる?
うん、いいよ。
それでその…話って言うのが…
うんうん、なぁに?
違うわアルト、それも大事だけど…そうじゃなくって…!
ルナがいつになく自信なさげな声で言う。ちょっとへっぴり腰な気もするけど…どうしたんだろう?
………アミスたちは、どこ?
え…あっ…!
慌てて周囲を改めて観察する。テナのあの感じから、彼女はどうしても奏者が欲しかったはずだ…なのに、もう一人のスコアホルダー…俺と、奏者が接触しているのに何もアクションがないなんて…おかしい…明らかにおかしい!!
ねえアルト、言わないんなら、僕から話していい?
アルマ…?まって、テナとアミスは…
願いの権利を僕にちょうだい
…………は?
何を…言ってるんだ、彼は…?
アルマ…?どういうことよ、それ…?
…あのね、もう一人の神様が、僕に教えてくれたんだ。二人のスコアホルダーが願うことを放棄した場合、その権利は番人や奏者に回るって…
でも…アルト、君がすんなりここに入ってこれてるってことは、シルフはもう…
…それは…
シルフは大丈夫。今、手当を受けてるはずだよ。
ひどい怪我だったから…
シルフは生きてるの!?
そっか…良かった…!
………
シルフがいるなら…大丈夫だね。
だからね、アルト。願いの権利を僕にちょうだい
…アルマ、願いの権利っておいそれとあげられるものじゃ…
じゃあ、僕を殺すの?
う…
君は願いのために、僕を殺すの?また、そのナイフで僕は切り裂かれなきゃならないの?
そんなの…僕、もういやだよ
それにね、アルト。君の願いも叶うようにしてあげるよ。僕はその方法を知ってるんだ!
人殺しをしてまで自分の欲を満たすのと、確実な方法で、何も手を下さずに願いを叶えるの…どう考えたって、後者の方が気分が良いだろう?
ね?だから…
アルト…
ルナが戸惑いがちに俺を見る…確かに、アルマに願いの権利をあげれば、俺はアルマに手を下さず願いを叶えることができるだろう。こんなところで嘘をつくとは思えないし…でも、本当にそれでいいのかな…?
…アルマ