発光が収まる。
発光が収まる。
変わらず、この空間の中心に、死の塊は佇んでいた。
ふにゃあ~
にゃんもふが鳴くと、赤髪の女を包み込むように緑色の粉が舞う。蘇生スキルの発動エフェクトだった。
ただし、1分間一切の攻撃から守り切らなければならない。
LEVEL500オーバーのこの女を一瞬で死に追いやったこの魔女から。
ほとんど無謀とも思える目標を掲げ、その為の計画を立てようとしたところで、再び空間が凍り付くような気配が背筋を撫でる。
つまりは、それが合図だった。
ゆっくりと、ゆっくりと。わずか10センチにも満たない空白を、彼女の持つ白い剣が縫う。
その切っ先が、足元の水面に触れる。
極白の死が襲いかかる。
くそっ!
その攻撃が一体どんなものかも分からないままに、けれど確実に訪れる死を拒むようにコバルトジャックを振るった。
そのおかげで不可視のはずの攻撃が見える。
水面に触れた白い剣が眩い光を放ったまさにその瞬間に、彼女は腰に差したもう1本の黒い剣を振るっていた。
その様は居合切りの達人。瞬速のその一撃は、小さな俺の剣など全く時間稼ぎにもならなかった。
その刃がと刃が触れ合った瞬間に、コバルトジャックはバラバラに粉砕した。
いや、正確には。
粉砕したように見えたそれは、まるで無数の糸の様に極細に離散し、しかしそれらは繋がったまま確かに居合の一撃をからめとっていた。
糸と糸が絡まり合い、黒の剣を話さない。
彼女が放った白い光はとっくに晴れていた。
そんな音とともに、視界の端にメッセージが表示される。
ハートカウンターによる属性獲得のお知らせ。
オリジナル属性『ネバネバ』を獲得しました。コバルトジャックに自動的に付与されます。
何だこのふざけた属性は!?
思わず叫んでコバルトジャックを振るう。と、剣先から飛び出した納豆のような糸の束が中央に立つ女にまとわりつき、動きを封じる。
だから、未だこの糸に絡まったままの黑い剣を握る。
うえっ。何だこの感触。納豆みたいで気持ち悪い
絶大な不快感を抱きながらも、さらにその剣を握る手に力を込め、振り切る。
青い光が体を貫通すると、彼女はオレンジ色の光となって離散した。
LEVEL604
経験値を得てレベルの上昇を確認したところで、隣に横たわっていた女ががばっと起き上がった。
うわっ。って、私死んでたの!?
ああ。たったの一撃でな。ちなみにあのボスは俺が倒したぞ。そのおかげでレベルも上がった。聞きたいか? 俺のレベルが今幾つなのか
そそそそんな事より一大事よ。今蘇生する直前にちらっと見えたんだけど、現実世界の私たち、今ヤバい状況よ。ちょっとここでセーブしてログアウトしなさい!
あん? このクエストは限定解放だぞ? 時間内に終わるように急いだほうが
いいから早く! でないと死ぬわよ!!
そう残してログアウトした女に呆れつつも、セーブをして俺も彼女の後を追った。
――目を開く。
辺りを見回すが、別に崖っぷちに立っているわけでも、交通量の多い道路に立っているわけでも、不良集団に囲まれているわけでもなかった。
おい。ログアウトまでさせたくせになにもないじゃねえか。一体どういうつもりだ?
いいから、ほらあっち。見てみなさいよ
俺の言葉に反省の色も見せず指を差す女。若干の苛立ちを覚えながらもその指の差す方向に目をやる。
――美しい夕日だった。
俺たちは広い広い真っ白な砂浜に立っていて、真正面に広がる海の向こうに、オレンジ色の夕日が沈みかけていた。
あの仮想世界よりも幻想的な、現実の夕日。
どれくらいの間言葉を失っていただろう。夕日からは目を離さずに、隣に立った赤髪の女は言った。
ほら、今日って4月1日でしょ? だからさ、さっきのはエイプリルフールの可愛い嘘ってことで、大目に見てよ
そう言って笑う彼女の横顔も、夕日に照らされて赤く染まっていた。
――ああ、そうだな。ありがとう
それだけ言って、またお互いに黙ったままずっと夕日を見つめていた。
やがて、太陽が完全に海の底に沈み切り夜の帳が下りた頃、俺たちはどちらともなく再びゲーム世界に舞い戻った。
そうして、俺の視界の端に、こんなメッセージが送られていた。
お気に入り80達成記念によるボス撃破ドロップの選択
氷幻魔のドラゴンスレイヤー
闇の墓標
召喚獣神龍
シン・アスカセラさん、コメントありがとうございます...♪*゚
私もイラストがたくさんある中で、この神龍の格好良さに惹かれました(´。✪ω✪。 ` )