人で混雑し始めた、K・S記念病院は日常、そのままだった。フロントには老人や咳をしている人達、受付の人が患者の対応をしている。
 騒がしくなった病院に鮫野木は動揺していた。

鮫野木淳

これが、NPC? 本物ですよね?

六十部紗良

だったら、話しかけたら


 俺は近くに居た看護婦に話しかけた。

鮫野木淳

あの、すみません

看護婦

……


 無視なのか、そうじゃない。聞こえてないだけかも……。

鮫野木淳

あの! すみません。聞きたいことが

看護婦

……


看護婦は鮫野木に一切反応せず、何処かへ行ってしまった。本当に俺の声が聞こえてない用だ。

鮫野木淳

ゲームのNPCでも何か話すぜ

六十部紗良

これで分かった、この裏の世界は何者かの意思で出来たゲームみたいな世界

六十部紗良

彼らは、そう教えてくれたわ

 ゲームみたいなか……とんだクソゲーだな。自由に動けるが目的もクリア条件すら教えないでプレイヤーに丸投げ、しまいに倒せない敵キャラときた、現実の方がましだぜ。

六十部紗良

場所を移動しましょう、外の方が落ち着いて話せるわ

小斗雪音

ですね

鮫野木淳

ああ、そうだな


 三人は病院から出て、六十部に着いていく形で歩きながら話した。

六十部紗良

これから、君達はどうするの?

鮫野木淳

……友達を探します

六十部紗良

友達? 探すって事は、はぐれたの?

鮫野木淳

まぁ、途中で分かれて

小斗雪音

あの、同じ制服を着た二人組の男子、藤松くんと凪佐くん何ですけど、知りませんか?


 小斗が心配そうに六十部に質問をした。六十部は頭を横に振った。

六十部紗良

ごめんなさい。昨日は中学校で調べ事をして、鮫野木くんぐらいしか、その制服を着た人に合ってないわ

小斗雪音

そうですか

鮫野木淳

中学校で何を調べてたんですか?

六十部紗良

野沢心について

 ノザワココロ? どっかで聞いたことがあるような……。そうだ、あの廃墟に住んでるみたいな僕っ子か、思い出した。あの人を見下した態度、思い出しただけで、怒りが湧き出てきた。

鮫野木淳

あの僕っ子、じゃないくって野沢心がどかしました?

六十部紗良

もしかしたら、彼女がこの世界から脱出するための手掛かりかもしれないわ

鮫野木淳

あいつが

六十部紗良

そう、あなたも理由はどうあれ廃墟に入って、この世界に来た。その廃墟が、この世界の入り口としたら?


 裏の世界の入り口、そこに住む野沢心、彼女は俺が話しかけても返事をした、病院にいるただのNPCとは違う。もしかして、彼女は……。

鮫野木淳

ちなみに彼女は喋るNPCですか? それとも俺達と同じですか?

六十部紗良

そこ答えは、喋るNPCよ

鮫野木淳

重要キャラってか、僕っ子

六十部紗良

重要キャラ? そうね、彼女こそ、この世界の唯一の手がかり

鮫野木淳

マジかよ


 俺は頭を抱えた。野沢心が裏の世界から脱出するためのヒントかもしれないとは、まぁ希望が見えただけでの良しとするか。

鮫野木淳

そういえば、六十部さんはどうして、廃墟に入ったんですか?

六十部紗良

それは今、あなたに関係ある?

鮫野木淳

えーと、気になっただけです

小斗雪音

私も気になるな、真面目そうな六十部さんが廃墟に入った理由

六十部紗良

あら、そんなに気になるなら教えてあげるわ

鮫野木淳

……


 六十部は笑顔で答えた。
 俺の時の対応と小斗ちゃんの対応の違いは何なんだ。うわ、涙が出そう。

六十部紗良

小斗さん、私のこと、呼び捨てても良いわよ

小斗雪音

えっ、良いんですか?

六十部紗良

ええ、気軽に紗良と呼んで

小斗雪音

はい、じゃ私のこと、ユキちゃんって呼んでください

六十部紗良

ええ、分かったわ

鮫野木淳

何この差、しまいには泣くぞ!


 落ち込んでいる俺に六十部は話しかけた。

六十部紗良

おや、どうしたの? 鮫野木くん、まるで落ち込んでいるみたいよ

鮫野木淳

実際に落ち込んでいるんですが

六十部紗良

あら、そうなの


 うわー、本当に泣きそうだ。俺は涙を堪える。

六十部紗良

ふふ、冗談は置いて、私が廃墟に入った理由ね

鮫野木淳

はあ

鮫野木淳

冗談にしてはきつすぎるぜ

六十部紗良

理由は単純よ、私も友達を探して廃墟に入ったら、ここにいた。それだけ

小斗雪音

心配ですよね

六十部紗良

ええ。とても心配


 六十部は笑っていたが、どことなく悲しそうだった。気持ちは分かる、俺もアイツらと別れて後悔している。
 どうしてあの時、俺は逃げてしまったんだ。

エピソード10 裏の世界(6)

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