カフェ止まり木、商店街の一角に落ち着いた雰囲気の店に大人が集まる。店内のレトロな雰囲気に似合わず、三人の大人は雰囲気は悪かった。

六十部武蔵

久し振りです。大学院を修了以来ですね

鬼灯先生

そうだな、出来れば生徒達が無事ならな

六十部武蔵

そうですね


 白衣を着た男性がメガネをクィと上げた。

吉良助教

先輩の妹さんも確か

六十部武蔵

はい、と言っても彼女は自分から……ですけれどね

ミミタン

ウチも、雪音ちゃんが……

鬼灯先生

メイドが落ち込んでいるんじゃない。私の指導のせいだ

ミミタン

鬼灯のせいじゃないよ

六十部武蔵

そうですよ。置いてしまったことは仕方ありません。今は彼らを助ける方法を考えるのが、優先かと


 白衣を着た男性はカバンから、封筒を取り出した。その封筒の中身を机に広げた。

吉良助教

これは何んですか? 六十部先輩

六十部武蔵

先輩はよしてくれ、吉良くん。もう学生じゃ、ありませんし。気軽に……武蔵と呼んでも良いですよ。吉良くんの自由に呼んで下さい

吉良助教

いや、俺の中で六十部先輩が定着してるから、どうも……

鬼灯先生

今はそんなこと、どうでも良い。武蔵、その書類は被害者の名簿だな

六十部武蔵

はい、その通り、これはK・S記念病院で預かっている五人の学生。そして、被害者の名簿です

 武蔵が机に広げた二十四枚の書類の中に鬼灯の良く知っている顔が合った。

六十部武蔵

小斗雪音、久賀秋斗、鮫野木淳、凪佐新吾、藤松紅、そして六十部紗良。この六名は現在、K・S記念病院にて入院、昏睡状態です

鬼灯先生

それは知っている。今さらなんだ

六十部武蔵

彼らが倒れていた廃墟、その廃墟に噂があるのは存知で?

鬼灯先生

ああ、人が消えるだっけ

六十部武蔵

はい、噂はそうですが、真実は廃墟内での気絶です。私、個人で調べたんですが廃墟で気絶した患者は彼らを入れて二十四名になります。残りの十八名は……死亡しました

ミミタン

それって、ユキちゃんはどうなるの?

六十部武蔵

最悪の場合は……亡くなるでしょう

ミミタン

……そんな


 美見は膝をついてた。

吉良助教

だ、大丈夫ですか、小斗先輩

ミミタン

うん、私は大丈夫だよ


 吉良は美見に手を貸した。

鬼灯先生

わざわざ、それを言いに呼び出したのか、場合よっては怒るぞ

六十部武蔵

いいえ、私は報告するために呼んだんです

鬼灯先生

報告?

六十部武蔵

ええ、吉良くん。アレを見せて下さい

吉良助教

はいはい、ちょと待って下さい


 吉良はタブレットを取り出して、アプリを開いた。

吉良助教

これを見て下さい


 タブレットには(廃墟取り壊し中止 その定義)と書かれた、文章が長々と記述されていた。

鬼灯先生

なんだそれは?

吉良助教

要約すると、ある工事会社に廃墟の取り壊しをやめるように脅した書類のコピーです

鬼灯先生

お前、大学で何、研究してるんだっけ?

吉良助教

まあまあ、これも見て下さい


 吉良がタブレットを操作して、ある図面が映された。

鬼灯先生

あの廃墟の図面か、良く手に入ったな

吉良助教

まぁ、それなりに苦労しましたからね

ミミタン

この図形がどかしたの?

六十部武蔵

それがですね、ここを見て下さい

 武蔵はタブレットに映る図面を指で指した。その場所は地下室を指していた。

ミミタン

地下室?

鬼灯先生

地下があるのか、それにしては広いな

吉良助教

はい、妙に広いでしょ。実はこの地下、家が建てられる時に急遽、倉庫として作ったらしいんですよ

鬼灯先生

それで

吉良助教

実は、この地下室の情報を何者かに消されていたんですよ

鬼灯先生

何かあるのか? あの廃墟に

吉良助教

恐らく、廃墟には誰かの大きな野望を感じますね。それか、廃墟の地下に――

六十部武蔵

吉良くん、言い過ぎだ、確かに何者かの息がかかっていますけど。あくまで可能性です


 武蔵が話しに割って入る。

六十部武蔵

吉良くんの悪いところだ、何でも陰謀説やオカルトのせにしないで下さい

吉良助教

えー、そんなー

鬼灯先生

ハァ、武蔵。お前の悪いところ全部、言ってやろうか

六十部武蔵

私に悪いところはありませんけど?

鬼灯先生

そういうところだよ

六十部武蔵

そうなんですか!


 武蔵はまるで、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

鬼灯先生

たく、しょうがない奴だ

鬼灯先生

美見、ブレークタイムだ。ブラックを頼む

吉良助教

なら、俺も

六十部武蔵

……私も頼む


 美見は慌てて、反応した。

ミミタン

は、はい。待っててすぐ入れてくる


 美見は厨房に向かっていった。

鬼灯先生

さて、コーヒーを飲んだら、続きを話そうか

六十部武蔵

そうですね

鬼灯先生

……


 コーヒーを待つ時間、人時の緩やかな時間が流れた。私の生徒達、クラスは違うが同じ学校の生徒、今もお前達は眠っている。私はお前達に何が出来るのだろう。大人として先生として……。

エピソード10.5 先生の憂鬱

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