化け物の足元に、立体の文字が浮かび上がった。この化け物の名前と、レベル。この塗り変えられた世界でのレベルがどれほどのものかは分からないが、あのゲーム世界を基準にすると、最高時の俺をもってしてもとても太刀打ちできるものではなかった。
ああああああああ!!!
邪龍ベルガムート LEVEL999
化け物の足元に、立体の文字が浮かび上がった。この化け物の名前と、レベル。この塗り変えられた世界でのレベルがどれほどのものかは分からないが、あのゲーム世界を基準にすると、最高時の俺をもってしてもとても太刀打ちできるものではなかった。
それでも対峙する極悪の化け物に向かって、正面を切って飛び込む。剣を構え、胸の辺りの黑いプロテクターの下に露出した、紫色の肌をめがけて振りかざす。
対して、邪龍は無防備に右腕を軽く振るう。その一振りはギリギリ俺の頬を掠めるくらいの距離を通過し、その爪先が固いアスファルトに軽々と突き刺さる。
そんな音が遅れて響く。邪悪な一振りの軌道をなぞるように、空気が引き裂かれかまいたちと同じような現象が起きる。
ザアアアアッと俺の服が小さく引き裂かれた。頬に焼けたような熱が走り、そこから温かな赤い液体が流れ出る。風の勢いに一気に後ろに吹き飛ばされた俺の体は、五度ほど地面を水きりの石の様に跳ねた後、近くにあった建物に激突した。
衝撃で、その建物は原型を想像できないほどに崩れ落ちた。
ぐっ……
剣を持つ右手は、丁度肱の所に瓦礫が乗っていて思うように動かせなかった。左足の感覚も、軽く痺れてしまって上手くつかめない。
目の前に積み重なった瓦礫を無視して浮かび上がるカーソルには、俺のステータスが表示されていた。
里宮一真
LEVEL1
名前の下には、HPゲージが表示されている。今は、ほとんど十分の一まで削られていて、ゲージは赤色に変わり点滅している。ピーピーと、警告音まで頭の中に鳴り響いていた。
圧倒的な戦力差だった。気力だけではどうにもなりそうもない。それを確認して、小さく息を吐いて。
があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!
それでも、全身に力を込めて、身体を押し潰す瓦礫を全て薙ぎ払い、飛び起きる。
頬を流れる地を拭い、ぷるぷると震える左足を力一杯叩き、力なく垂れ下がる右腕に無理やり力を込め剣を構えて、眼前に立たずむ怪物を見据えて。
目の前に絶望が迫っていた。
ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
化け物の口から吐き出された最大の火炎が、辺りを巻き込みながら俺に襲いかかる。
何処にも逃げ場はない。かと言って、この限りなく現実に近い世界で敗北して俺の身に何が起きるのかも分からない内には、どうしようもなかった。
それでも、俺の本能が叫び、豪炎に向かって一気に突っ込む。まず伸ばした剣先が炎に触れ、一瞬で解け落ちた。
そのまま右手が突っ込み、千切れるような痛みが襲いかかる。
HPゲージがそれだけで減少し、すぐに目では捉えられないほどになる。
そして。
ほら、何ぼさっとしてるのよあなた!! 同じ炎属性同士だとしても、レベルが違い過ぎる。もうもたない。いつ崩れるかも分からないわ! 飛ぶわよ!!
いきなり現れた彼女に強引に腕を掴まれ、身体を思い切り引きずられる。
世界が丸度ごと回ったような気持ちの悪さに襲われ、思わず目を瞑る。
ほら、いつまで胸にしがみついてるのよ。いい加減離れなさい
その言葉に目を開くと、先ほどの近未来的な都市とは打って変わって、古めかしい城下町の一角へと景色は変貌していた。
それからようやく落ち着き、何やら頬に小さな柔らかい膨らみが当たっていることに気付き、慌てて飛びのく。
誰だお前?
恩人に向かって乱暴な物言いね。相変わらずあんたはコミニケーション能力がないんだから。その様子じゃ、友達いないでしょ、里宮一真?
おい待て、どうして俺の名前を知っている? お前みたいな生意気な女、俺は覚えがないんだが
あら。ついこの前会ったばかりだというのに、随分な物言いね
言って、彼女は一度某大学教授の通称ガリレオたる彼の様に、右手を顔の前に当て、深く息をはいて言った。
ここに宣言する。現時点を持って、この空間は『神の領域』となる。その王は、俺だ!!
一瞬、彼女に白い髪の人物が重なった気がした。
なっ!?
言葉に詰まった俺が、数秒後に今まで発したことのない程の大声で叫んでいた。