廃墟は人の気配を感じさせない。人工物が朽ち果てて家としての機能を果たしていない。
 俺は何故、ここに来てしまったのだろう? 少し時間をさかのぼろう。あれは確か放課後の教室――

鮫野木淳

さて、帰ってアニメでも観るか

 俺が帰ろうとした時、藤松が凪佐を連れて話しかけてきた。

藤松紅

オッス、鮫野木。凪佐をあの店に連れて行こうと思ってな

鮫野木淳

ほう。そう言えば、あの店に凪佐と行ったこと無ったな。テストも終わったし、ちょうど良いか


 凪佐はおどおどしながら話す。

凪佐新吾

鮫野木くん、僕はカフェに行くんだよね?

鮫野木淳

そうだよ

藤松紅

カフェだぜ

凪佐新吾

本当に?

鮫野木淳

本当さ、騙されたと思って来いよ。面白いぜ

凪佐新吾

面白い?

 そうして、俺達はカフェに向かったんだ。

ミミタン

お帰りなさいませ、ご主人様!

凪佐新吾

······!?

鮫野木淳

よっ、ミミタン。ただいま

藤松紅

オッス、ミミタン

ミミタン

鮫野木様に藤松様、お久しぶりです。そちらのご主人様はお友達ですか?

鮫野木淳

おう、凪佐って言うんだ。この人はミミタン。ここのカフェ止まり木のメイドさんだ

ミミタン

はじめまして、凪佐様! ミミタンと申します

凪佐新吾

は、はじめまして

ミミタン

席にご案内します、ご主人様


 鮫野木達は案内された席に座る。店の中は落ち着いていて、コーヒーの良い臭いが漂う。レトロの感じが男心をくすぐる。

ミミタン

ご注文はお決まりましたか?

鮫野木淳

そしてこのメイドである

ミミタン

······? 鮫野木様、ミミタンはメニューではありません

鮫野木淳

おっと、失敬。コーヒーをたのます

藤松紅

俺もコーヒーにするか

凪佐新吾

僕はカプチーノで

ミミタン

かしこまりました。コーヒー二つにカプチーノ一つですね

 ミミタンはメニューを確認した後、厨房に向かう。厨房にはダンディズムという言葉が似合う男性がコーヒーミルでコーヒー豆を潰していた。

マスター

······

凪佐新吾

鮫野木くん、あの人は?

鮫野木淳

あの人はこの店のマスターだよ

凪佐新吾

そうなんだ、あの一つ聞いて良い?

鮫野木淳

何だ?

凪佐新吾

ここって、メイドカフェなの?

鮫野木淳

嫌、ミミタンが特殊なだけさ。コーヒーは別格においしいぜ

凪佐新吾

そうなんだ


 俺と凪佐が話していると、突然、藤松が話に割って入ってきた。

藤松紅

ところでさ、お二人さん。これ気にならないか?


 藤松が取り出したのは、今朝、配分されたプリントだ。藤松はプリントをテーブルに置いた。

凪佐新吾

このプリントがどうかしたの?

藤松紅

プリントじゃなくて、廃墟だよ

凪佐新吾

それがどうかしたの?

藤松紅

行ってみないか、三人で

凪佐新吾

えー、嫌だよ。怖いし、それに鬼灯先生が行くなって言ってたじゃないか

藤松紅

まだまだ、子供だな凪佐は、行くなと言われたら行きたくなるだろ? なぁ鮫野木!

鮫野木淳

えっ! そ、そうだぜ。漢なな廃墟の一つや二つ、探索するのが普通。ああ、好奇心が廃墟に行けって行ってるぜ

鮫野木淳

おいおい、俺は何を言っているんだ

藤松紅

その通り、ここで乗らなきゃ漢が廃るぜ

凪佐新吾

わかったよ······僕も行くよ

藤松紅

ハハッ、そうこなくちゃな

鮫野木淳

何で聞く前提に話が進んでいるんだよ?


 すると、ミミタンが注文した飲み物を持ってきた。

ミミタン

お待たせしました、ご主人様。コーヒー二つにカプチーノ一つです


 テーブルに注文した飲み物を置いた。

ミミタン

ごゆっくりどうぞ

藤松紅

サンキュー


 ミミタンは伝票を置いて、厨房へと戻る。

藤松紅

さて、これを飲んだら、早速行くぜ

凪佐新吾

やっぱり僕は行きたくないよ~

藤松紅

何だ、凪佐。怖いのか?

凪佐新吾

藤松くん、鮫野木くんは怖くないの?

鮫野木淳

――っ

藤松紅

そんな訳ないだろ、なぁ鮫野木!

鮫野木淳

あ、当たり前だろ


 俺だって行きたくなかった。この時、上手に断っていれば、あんな事にならずにすんだのだろう。見栄なんか張らずに正直にいれたら、どんなに良かったか······。

エピソード2 廃墟の中は······。(2)

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