だから、彼が目を閉じるだけで、黒前の間近で爆発が起きた。




黒前 雪弥

く、炎属性・・・

 だから、彼が腕を伸ばせば水流が巻き起こった。

黒前 雪弥

今度は水属性か!?

 だから、彼が右手を天にかざせば星が降る。

黒前 雪弥

こんな属性、俺は知らんぞ

 だから、彼は圧倒的な力でもって、黒前をねじ伏せる。






ディーゼル

ちょっと黒前、大丈夫?

黒前 雪弥

お前は他の連中の相手をしていろ! こちらに構っている暇はないはずだ。こいつは、俺が抑える

里宮 一真

へー。こんなに圧倒的な差でも、諦めないんだ。だけど、結果は見えている

黒前 雪弥

うるさい。神のスキルを持つ俺が、負けるはずがないだろう!! ここに宣言する。現時点を持って、この空間は『神の領域』となる。その王は、俺だ!!

 黒前がそう叫ぶ。『神の領域』。この世界を掌握する神ですら手の届かない、たった五つだけの特別なスキルの内の一つ。

 その領域では、王である使用者、つまり黒前以外はいかなるスキルも発動できない。そしてそれは、神までも。







 だけど。

 なのに。










里宮 一真

うざい。俺の前で王を語るなよ。お前はせいぜい召使が限界だ

 彼が、右手を前に突き出し、何もない空間を強く握る。握りつぶす。

 それだけ。たったそれだけの事で——

 そんな音がするのだ。そして彼は、何事もなかったのように、当然だといった顔でスキルの力を振りかざす

 だから、彼が右手を振り下ろすと、今度は雷が落ちた。





黒前 雪弥

何故だ! 何故お前はスキルを使える!? 俺の許可もないはずなのに!!

 ついに耐え切れなくなった黒前が、大声で怒鳴った。すると彼は、すました顔で、こう答えるんだ。






里宮 一真

ああ俺、『神殺し』のスキル持ってるから、『神』が付くようなスキルも全部、関係なくぶっ壊せるんだよ

『神殺し』。『神の領域』同様、神ですら手の届かない五つのスキルの内の一つだ。

 本来は、神に仇なす為のスキルであるが、こんなところでも効力を発揮できるらしい。

里宮 一真

だからお返しだ。『神殺し』の俺が、お前に負けるはずはない

黒前 雪弥

・・・仕方がないか

 彼の勝利宣言に、黒前は小さくため息をついた。だけどそれは、諦めなんかではなく。

 どちらかというと、最後まで渋っていた奥の手を出すかのような・・・

 黒前は右手の剣を背の鞘にしまう。そうして、両手を天に掲げた。

黒前 雪弥

後悔するな、里宮一真よ。たとえ、大切なものを失ったとしてもな

 とても低い声だった。地の底から這い出て来るかのような重さを持った。

 その声で。両手を天にかざしたまま、黒前は言い放つ。








黒前 雪弥

万人に等しい天罰を。『アポカリプス・ゼロ』!!

 言って、叫んで。両手を振り下ろして。






































 空が割れた。

 世界の色は、黒に変わった。









エリシア

なんやのんこれ!?

 割れた空からは、大地を引き裂くような音が。












黒前 雪弥

慌てるな。運命は既に決まった

里宮 一真

何をした?

 彼の問いに、黒前は淡々と答える。









黒前 雪弥

天罰だ。天上の意志により、ここに存在するプレイヤー全員の中から一人が選ばれる。その一人に、天より隕石が降るだろう。たとえお前の反射をもってしても、防ぐことはできない

里宮 一真

その相手は、お前が選ぶわけじゃないんだな

黒前 雪弥

ああ。確率は、全てのプレイヤーに同率だ。故に俺も、その一人ではあるがな

里宮 一真

・・・そうか、分かった。それなら——

 その返答を聞いて、しかし彼は笑っていた。勝利を確信した顔で、言葉を紡いだ。









里宮 一真

この勝負、俺たちの勝ちだ

 彼の意図したこと、それは、彼がハートカウンターによって手に入れた、彼だけのスキル。

『確率変動』

 つまり、このスキルを使えば、確実に黒前に対象を決定できる。

黒前 雪弥

ふん。何を考えているかは知らんが、せいぜい余裕を感じているがいい

 けれど、黒前はこのスキルを知らない。そのために、結果の見えているこの勝負にを前に、声高くこう叫んだ。











黒前 雪弥

時は来た。今こそ、天罰よ下れ!!

 そして。















































 そして。



























































 ——なのに。









 割れた空から、一つの巨大な塊が降る。

 だけど、彼は自分が持つもう一つのスキルのことを意識していなかった。

 いや、考慮には入れていたけれど、最悪の場合を想定してはいなかった。

『不幸ランダム』

 そしてもう一つ。彼は気付いていなかった。

 対象となるのはプレイヤー。つまり、いくら不幸ランダムが働いても、カティアやエリシアのような、ゲームの中の住人は対象にならない。そう、考えていた。

 だけど、もう一人。いたのだ。彼が知るプレイヤーが。

 だけどその存在に、彼は気付いていなかった。













































くノ一

・・・え?

里宮 一真

くっ!?

 駆ける。気付いた時にはもう、足が動いていた。

 自分のせいで、あの神との闘いに巻き込んでしまった彼女の元へ。









黒前 雪弥

させるか! ディーゼル、聖人を!

ディーゼル

分かったわ!!『聖人召喚』!

里宮 一真

邪魔をするなっ!!

 だけど、聖人は現れなかった。

 表れたのは、唯の人。









黒前 雪弥

一体何が?

 その人影を無視して彼は少女の元へ辿り着一本の剣を構えた。

里宮 一真

『雷撃の聖剣』よ、全てをなぎ倒せ!!

 ああなるほど、そういうことか。彼はまたもやオリジナルスキルの一つを使っていたのだ。

『強奪』

 だから『人』が召喚され、剣は『聖剣』となった。

 彼の振るう剣が、巨大な隕石をも凌駕する。直撃し、その軌道を大きく変える。

 その先には、黒前とディーゼルが。

 そんな音とともに、世界は白へと色を変える。もうすぐ彼の腕の小さな機械には、勝負の結果が表示されるだろう。

 そんなことを考え、私は彼の方を見た。彼も私を見ていた。しょうがないから手でも振ってやろう。

 だけど、彼は振替して来なかった。必死で何かを叫んでいるが、ここまで聞こえない。一体何を言っているのか、数歩進んでようやく聞こえた。





























 ——どうやら私の名前を叫んでいるようだった。そんなことしなくても、どこへも言ったりはしないのに。

 私の気持ちを伝えるために、彼の元へ行こう。そう思って踏み出した足が——














































 そのまま崩れ落ちた。

 何だろう。痛いなぁ。体に力が入らないや。

 あれ? お腹から血が出てる。どうしたんだろう・・・

 薄れゆく意識の中で、私を呼ぶ彼の声が聞こえた。




















































































































里宮 一真

カティアーー!!

カティア

・・・

Re:9th.勝利の先にあるもの

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