幾何学的な背景の世界で、もはや聞き慣れたとも言える音が鳴った。

　画面を見る。『ハートカウンター』の発動、なんてタイトルだった。

　心なしか前回からカティアが冷たい。そんなに怒っているのだろうか。

　お気に入り数が１５に達しました。新たなスキルを一つ、獲得できます。その候補を是非コメント欄へどうぞ。何もなかった場合、今回の発動は無効となります。
　また、今後もお気に入り５つ毎に同じイベントが発生します。次はお気に入り数が２０を達成した時です。

※スキル反映は、厳密な審査の下で実行するか否かを判断させてもらいます。

　さらに速度が増し、俺の声は虚空に消える。

　その頃・・・
　エリシアは——

　ひたすらにご馳走にむさぼり付いていた。

　背後に佇む黒い影。しかし、エリシアはその姿に気付いていない。

　その人影は、彼女に向ってゆっくりと手を伸ばし——

　彼女の肩を叩いた。振り返った先にいたのはディーゼル。さらなる器を後ろに用意しているところを見ると、ご馳走の追加だろうか。

　気付けば一緒に宴会を楽しんでいた旅人はみんな眠っていた。疲れていたのだろう。食事に夢中のエリシアははなっからそんな人のことなど気にしていなかったが。

　言って、彼女は器の蓋を開けた。

　一目では、何の料理なのかが分からなかった。

　誤魔化しに気付かれないかと冷や冷やしていたエリシアだったが、ディーゼルが注目したのはそこだった。

　地雷、というものが人の中には存在する。それは文字通りの爆発物ではなく、人の感情（主に怒りや悲しみなどの負の感情）を誘発するスイッチの比喩として。

　だから何のことはない。ディーゼルにとっての地雷がフレーレの王の名前であり、エリシアがその地雷を踏んでしまったというだけのこと。

　だから、仕方がなかった。

　いきなり水の塊が襲いかかり、その体を海底に叩きつけられたとしても。

　その衝撃で、肺の中の酸素が一気に外へと吐き出される。人は激しい衝撃を受けると呼吸が困難になると聞いたことがあったが、実際に体験するのは初めてだった。

　ゆっくりと、周囲の水を操りながら、ディーゼルはエリシアの元へ歩み寄る。

　水が渦を巻く。水の都の主は、水の魔法を操る。至って当然のことだ。だけど。

　森の国の王は、闘うためのスキルも魔法も有していない。あるのは、『アルティメットしりとり』の唯一つ。

　だから——彼女に残された道は一つだった。

　だけど——

　空間を丸ごと支配されたような感覚。一瞬の空気の変化で、彼女の唯一の手段は発動権を失った。

　低く冷たい声。ディーゼルの背後から、一人の男が表れる。

　水の渦が迫り、男が雷撃を放ってきた。ゆっくりと、だけど確実にエリシアの元に迫って来る。

　どうすることも出来なかった。身体能力が優れているわけでもない。頼みの綱の『アルティメットしりとり』も封じられた。

　目を閉じる。自分が死ぬ瞬間なんて、見たくもなかった。目を閉じても聞こえる音を防ぐため耳も両手で塞いだ。

　色も音も感覚も、彼女の世界から全てが消える。残ったのは、どうしても消せないこの恐怖だけ。それも、もうすぐ消えるんだ。

　エリシアはさっきまで食べていたご馳走のことを思い出しながら、ゆっくりと運命を受け入れる覚悟を決め。

　塞いでいた耳にまで、何かが砕けるようなそんな音が聞こえた。

　同時に、自分を圧迫していた思い空気が消えるのを感じる。

　目を——開く。

　視線の先には、ふてぶてしい笑顔の少年。こんなピンチに駆けつけるなんて、この人はどこぞの漫画の主人公でも気取っているのか。

　でも——

　偽物の世界を吹き飛ばし。

　——彼がこの場を席巻する。