崩壊は、サルバーレに留まらず、ゲームの世界全てを巻き込んだ。

世界に残ったのは、たったの四人。ただし、人を越えた彼らを差し引いてだが。

サルバーレの王

お、おい。一体この世界はどうなってしまったんだ!?

イフリート

慌てんなよ主様。あんたは俺の力で守られているんだ

 白い世界に残る、王とその聖人。

 イフリートは足を投げ出して腰を下ろし、王は立ったまま慌てふためいていた。

サルバーレの王

それで、聖人よ。これから私たちはどうすればいいんだ?

イフリート

安心しな。そろそろ”やつ”が出て来るさ

サルバーレの王

やつ・・・やつとは一体誰の事だ?

 イフリートは呟く。

「めんどくせー」

 そう言って彼は、空を見上げる。

 空も同じように白かった。どこまでも白く、白く。白く——

 その一点が、紫に染まっていた。

イフリート

”やつ”だよ。俺を生み出した親でもあり、この世界のバランスを司る——『神』

 白の世界を、さらなる白き輝きが覆う。その一瞬で、上空の紫の点は消えていた。

 翼が羽ばたく音がした。

 ——神。

 この世界における絶対的な存在が、その空間を席巻する。

やあやあみんな。お困りのようだねぇ

サルバーレの王

こ、子ども? こんな小さな女の子が、この世界の神なのか?

そうだよー。残念なことに、このゲームの製作者の中にロリコ・・・いやいや変わり者がいてね。でもでも、これでも神だからね。この世界で一番強いんだぞ?

サルバーレの王

で、では神様。何故この世界は、こんなになってもまだ終わらないのでしょうか? もうプレイヤーなど残っていないというのに

イフリート

いやいや主様

 王の言葉に、今まで黙っていたイフリートが口を挟む。

イフリート

あんたの後ろにいるじゃないか

サルバーレの王

後ろ!?

 王は飛び上がり、飛びのいて背後を振り返る。

 そこには白い世界が広がっていた。

だけど、

   だけど。

だけど——

里宮 一真

やあ、ばれてしまったか

くノ一

だから言ったんですよー。こんな子供騙しの忍術はすぐに気付かれるって

サルバーレの王

貴様!? どうしてここに!? どうして生きているんだ!?

里宮 一真

ん? どうしてってそりゃあ——

 王の問いかけに、やっぱり俺はそう答える。

里宮 一真

——俺が天才だから、だろーぜ

おー! 君がレベル198からスタートして、いきなり世界を壊してくれたルーキーくんだね!?

 くノ一の体を突き飛ばし、神が俺の元にやって来た。さっきまであった翼はしまわれている。

里宮 一真

って言っても、あんたが俺にこんなバカげた力を与えたんだろ?

いやいやそれがね。ほとんど事故みたいなものなんだよ。ちょっと力の調整を間違えたみたいな?

 そんな事をさらりと言ってのけるあたり、やはりまだ馬鹿な子供なのかもしれないな。

里宮 一真

まあどうでもいいけど。なあ、それより一つ聞きたいんだが——

 無駄話が続くのも退屈なので、俺は早々に本題に入ることにした。

里宮 一真

あんたが神なんだって? あんたの事故のせいでこっちは退屈でいらいらしてんだ。一発ぶん殴っていいか?

ふははーっ! 本当に面白いね君は。だけどそれは出来ない。残念だけど君は『神殺し』のスキルを持っていないだろう?

 『神殺し』。何だその素敵スキルは。

里宮 一真

どうやって手に入れる? それもお前が振り分けるのか?

違うよ。神の私にも手が付けられないスキルが五つあってね。その一つが『神殺し』。そのスキルを持ってないと、私に危害は加えられないんだ

里宮 一真

ふーん。じゃあもういいや。取り敢えず王冠くれよ。それをもらえばゲームクリアなんだろ? そのあとで『神殺し』を手に入れるまで何度もプレイしてやるさ

まあ例えそのスキルがあっても、私に勝てるとは思わないことね。いいでしょう。王冠を授与します

 神は王冠を取り出す。俺は神の前にひざまずく。神はゆっくりと、俺の頭にその王冠を持っていき——

里宮 一真

せいっ!

 思い切り神の頭にチョップを振り下ろす。

ぶにゃ!?

 神はよろめきこける。だけど、俺の右手は神には届かなかった。こいつは勝手に驚いただけのドジだ。

里宮 一真

ははーん。俺のオートガードみたいなもんか、なるほど。つまりこれは『神殺し』でしか破れないと……了解りょーかい

 冷静に事象を分析する俺だが、神はどうやらご立腹だったらしい。

もうふざけるなよお前~! 次にゲーム始めた時は、全ての能力を平均値以下にしてやる~!

 言いながら、神は王冠を俺の元へ放り投げる。どうやら嫌われてしまったようだ。俺の頭に被せてくれる気はもうなくなったらしい。

 そのまま神は頬を膨らませ足をドタバタさせながら俺に背を向け、大股で——怒りを体で表現するかの様に——ドシドシと歩いてその場を去って行く。

里宮 一真

やっぱり子どもじゃないか

 俺は溜息をつき、その後ろ姿から視線を外し、王冠を見て、それに手を伸ばし——

 パリーン。そんな音が響いた気がした。

 ずぶり。そんな音を聞いた気がした。

 視界は真っ赤に染まった気がした。

 確信は持てない。何が起きたかは分からなかった。

 ただ、一つ。

 俺たちプレイヤーの為に辛うじて持ちこたえていた、この真っ白な世界が——

——唐突に終わった。

 

 

 目を覚ます。そこは、見知らぬ森の入り口だった。
 そばに大きな赤いゴミがあったが、それには目をやることは無い。

里宮 一真

いたたたた……何だ? 二周目か?

 痛む頭を押さえながら、右手の時計のようなものを確認する。

 ステータス画面を開き、唖然とした。

レベル:382(+82)
属性:オーバーエレメント
役職:時の魔術師
特殊スキル:反射(1.5倍)
現在の役職:旅人
エクストラスキル:『神殺し』

 だけど、俺が見たのは、こんなどうでもいいようなものじゃない。画面上部でスクロールされている一文。お知らせのようなものだ。

 そのタイトルに、俺の目は釘付けとなっていた。

「瀕死の神が失脚したことによる、大幅なルールの変更」

 ふと横を見る。真っ赤な大きなゴミがあった。

 それは、瀕死で血だらけの、元神の女の子だった。

 

里宮 一真

おいお前!? どうした? 何があった!?

・・・・・・

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