【23】選択





























扉の向こうで鐘の音が聞こえる。









来栖 康青

あー……もう2時か。腹も減るってもんだよな



オッサンは腕時計で時間を確認すると、
再度ドアノブに手をかけ



そして、回した。








来栖 康青

……








来栖 康青

……へ?

剣持 朱梨

どうしたよ?

来栖 康青

いや、ええと



なにか確認するみたいに
ドアを開け閉めしている。

剣持 朱梨

オッサン?

来栖 康青

あ、いや、ええと


歯切れ悪く口籠っていたオッサンは
それから
困ったような顔で口を開いた。


来栖 康青

……廊下がない

剣持 朱梨

はあ!?



俺はドアを開けた。


















































そこにあったのは螺旋階段だった。






























剣持 朱梨

どういうことだよ!

来栖 康青

んなこと俺が聞きたいって!!



あり得ない。
「どっきり」にしたって
手が込みすぎている。


耳を澄ましていたわけではないけれど
廊下のセットを螺旋階段に入れ替える
となると、音だって立つ。

気づかないはずがない。









パニクっていたオッサンは
やがて
ぱたり、と真顔に戻った。


来栖 康青

って、美登里さんは?


















廊下がない。
と言うことは




























配膳室へは、行けない。





















来栖 康青

ちょっと待てよ、シャレになんねぇ


オッサンは
ドアノブに手を伸ばし
また引っ込めるという謎動作を
繰り返している。




どうしたらいいか
わからないのだろう。

なんせ扉を開けたら
全く違う場所になってるんだから。



行けなくなった場所に
知り合いが残っているんだから。






剣持 朱梨

さっき……鐘が鳴ったから?






ステンドグラスの時を思い出した。



あの時は
時計の針が重なるその時だけ
隠し通路への道が現れたけれど、

それと似たようなことが
起きたのだろうか。
















正しい答えなら
精霊の時計は道を開き













間違った答えなら
永遠に同じ時を彷徨う。



それはあの本にも
書かれていたことだ。














でも


来栖 康青

今まで普通に廊下だったよな。
なんで!?




何故、今になって。
それは俺も思う。








物語が進んでいくように
新たな展開に
入ってしまったのかもしれない。















これを打破するには、

剣持 朱梨

そうだ、「さらなる答え」ってのがわかれば今の状況を変えられるんじゃないのか!?



暗号の指示に従うしかない。








剣持 朱梨

正しい答えを示せば時計は道を開いてくれるんだろ?

来栖 康青

おお! そうか!!





正直言って、それで配膳室への道が
現れるかどうかは知らない。

でも他に打てる手がない。






暗号を作っている奴の
手の上で踊らされているようで
癪だけど……


























俺たちは顔を突き合わせるようにして
本の挿絵と額装した絵と見比べた。



しかし
1度解いてしまった問題は
どうしてもその答え――

――薔薇の色と額縁の文字に
目が行ってしまって
それ以外が全く思いつかない。







そうこうしている間に



また遠くで鐘が鳴った。
















来栖 康青

……時間経つの早くね?

剣持 朱梨

うん。そう、だよな


気持ちの問題だろう。
でも、

まるで
「くだらないことに費やす時間は
短縮してやった」
とでも言われたようだ。










そんな時、










扉の向こう側を
ものすごい勢いで叩く音が聞こえた。











剣持 朱梨

美登里さんかもしれない!





鐘が鳴ったから
また変化があったのだろうか。

俺は扉を開け……
















































閉めた。
























押さえた扉ごしに
獣の唸り声がする。

扉に爪を立てている音がする。

剣持 朱梨

なんだ今の!?

離れたらブチ破られる。


そんな思いで
俺は扉を押さえ続けた。















黒煙を噴き上げている
巨大な犬の形をしていた。

しかし
どうみても普通の犬ではない。





どうみても……

俺たちに危害を加えそうな、

剣持 朱梨

廊下と配膳室はどこ行っちまったんだ!?





わからない。

配膳室に取り残されたままの
美登里の消息も。







その間にも


さっきの犬が立てているのであろう
音が聞こえる。


この扉を……破ろうとしている。


















小鳥遊 杏子

ねぇ……こんな時になんだけど、
「さらなる答え」って薔薇が緑だってことなんじゃないかしら





巨大な獣の出現に
息を呑んで固まっていた杏子が
おそるおそると言った感じで
呟いた。


剣持 朱梨

え?

小鳥遊 杏子

だからレンガにしても剥製にしても、今までの暗号は「あたしたちの誰かが消える」ってことを言ってたじゃない?

綺羅星 うさぎ

そうよ! 今度はきっとあの女が消える番なんだわ!

剣持 朱梨

!!




言われてみれば確かに
「薔薇が緑」だから、という意味では
今まで考えていなかった。


額縁の暗号を解くための目印。

その役割だけにしか
使ってこなかったけれど



レンガにしろ剥製にしろ
もともとは杏子が言うような意味が
盛り込まれていたわけで











あの時も

来栖 康青

消えたのは虎と狼。
虎次郎とキリオを消したっていう意味なんじゃ……

綺羅星 うさぎ

そんな……そんな、それじゃこれからこうやってひとりずつ……

って会話があったほどで――











綺羅星 うさぎ

あの女が消えるのよ! それで正解なんでしょう!?


天井を――正確にはその向こうにある
時計塔を睨むようにして
うさぎが叫ぶ。

綺羅星 うさぎ

早く正しい道を出してぇぇぇぇっ!!

来栖 康青

待て! それじゃ美登里さんは見殺しにするのか!?

うさぎの叫びを遮るように
オッサンも声を張り上げる。





時計に、


精霊の時計に
うさぎの声が届くのを
阻止しようとするみたいに。



来栖 康青

鐘の音で外が変わっただろう?
あれだ、また鐘が鳴れば今度こそ配膳室が、

綺羅星 うさぎ

もっと酷い事態になったらどうするのよ!!

綺羅星 うさぎ

だいたい、いつまでここにいるつもり!?
ドーナツとか完全にくつろぎムードじゃない!
あんたらが動かないから精霊の時計が怒ったんだわ!!








さあ、どうする?


A:次の鐘が鳴るのを待つ。


B:美登里を置いて
      進むことを選ぶ。

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