【3】第1の試練:レンガの謎






















































廊下をしばらく行くと、
うさぎがひとりで
立ち尽くしているのを見つけた。




深見 美登里

ああよかった
無事ね、うさぎちゃん

美登里が安堵の声を上げる。

その声に振り返ったうさぎは
引きつった顔で叫んだ。

綺羅星 うさぎ

無事!? 全然無事じゃないわよ!


まさか
ふたりっきりになったのをいいことに
虎次郎がなにかしたのか?

と思いかけたが、

来栖 康青

虎次郎くんは?

綺羅星 うさぎ

知らないわよ!

その虎次郎はいない。













深見 美登里

広いお城みたいだし、迷ったんじゃないかしら

来栖 康青

彼なら匂いだけでうさぎちゃんの居場所を突き止められそうですけどねぇ

綺羅星 うさぎ

やめてよ気色悪い

度を越えたつきまとわれ方を
気持ち悪いと思うのは
アイドルでも一般人でも同じだろう。


オッサンは場を和ませようと
言ったのかもしれないが、
こればっかりは
俺もうさぎに同意する。


























綺羅星 うさぎ

そんなことより大変なのよ!!



不在を
「そんなこと」で片づけられてしまった
オタク青年を
いささか気の毒に思いながらも

剣持 朱梨

なにが?

「大変」のほうが気になる俺も
似たり寄ったりだったりする。


剣持 朱梨

トイレットペーパーのかわりに切った布が置いてあったとか?

綺羅星 うさぎ

あのね。アイドルはトイレになんか行かないの

綺羅星 うさぎ

じゃなくて!

ひとりボケツッコミで
切り返してくれた
アイドルの鑑(かがみ)は
違う違う、と足を踏み鳴らすと、






キッ! と
俺を睨みつけた。








綺羅星 うさぎ

出口よ!!
出口がないの!!

来栖 康青

はい?

綺羅星 うさぎ

だから出口!
外に出る扉がないのよ








「嘘だろう?」



そんな思いで
俺たちは互いに顔を見合わせた。











































来栖 康青

……ホントだ。出口がない



あれから1時間ほど経っただろうか。

うさぎの言葉に半信半疑ながらも
俺たちは出入り口を探した。




だが、
外へとつながる扉は何処にもない。

当然のように
部屋の窓ガラスには鍵もなく、
しまいには
割ることまで試みたけれど



椅子を投げつけても
壊れるのは椅子ばかりで
透明なガラスには傷ひとつつかない。


来栖 康青

もしやバリアーでも張ってあるのかねぇ

剣持 朱梨

古ぃよオッサン



マジで冗談でも言わなきゃ
やってられない気分だ。



だってそうだろ?

出入り口が無いんじゃ
俺ら何処から入ってきたんだよ、
ってことになる。










綺羅星 うさぎ

あとはこの階段の上……



ぐるりと渦を巻く階段の先は
闇に閉ざされていて
何階まであるのかもわからない。
















そんな時、
上のほうから時計の鐘みたいな
音が聞こえた。



その音は
狭い螺旋階段の壁の
あちこちにぶつかり合って

気味の悪い合唱のように
いつまでも鳴り響いた。





綺羅星 うさぎ

ひっ!

来栖 康青

どうやら上には時計塔みたいな鐘があるのかもしれないな


耳を塞いでうずくまるうさぎの横で
オッサンは
階段の上に潜む闇を見上げる。


深見 美登里

だったらそこから出られるんじゃない?

美登里の意見に
杏子が首を横に振った。

小鳥遊 杏子

駄目。途中で階段が無くなってるの

深見 美登里

どういうこと?






杏子が言うには
この階段は途中から崩れてしまっていて
それ以上、上ることができないらしい。






だが、

剣持 朱梨

お前、ひとりでそんな危ねぇとこ行くなよ



こんな得体のしれない城で
不用心な。

見えないところでなにかあったら、とか
少しは考えるべきだろう?






こう見えて空手の有段者でした、
なんて隠しスキルも無いことくらい

幼馴染の俺は知ってる。



小鳥遊 杏子

う、うん。ごめんね




「つい気になって」と
杏子は肩をすくめた。


























来栖 康青

しっかし、こうなるとお手上げだ。
一度応接間に戻ってみようか。
「応接間に集え」ってことだし

深見 美登里

そうね、虎次郎くんも戻ってるかもしれないし……キリオさんにもこのことを伝えるべきだわ




知れば知るほど
身動きが取れなくなっていく。



出口探索を諦めて
大人組が踵を返しかけた時、

綺羅星 うさぎ

ねえ! これはなに!?

うさぎが声を上げた。
















見ると、彼女は
壁を作っているレンガのひとつを
凝視している。




来栖 康青

どしたー?

来栖 康青

! ……これは……!

























そのレンガには
なにかで彫ったような
文字が刻まれていた。










剣持 朱梨

なんだこりゃ




その奇妙な文字列を見ようと
俺たちが押し合ってのぞき込む中、

来栖 康青

7人……ってのは俺らのことだろうな

オッサンが顔を強張らせた。











綺羅星 うさぎ

首ってどういうこと!?
さらし首みたいに首切って、ってこと!?




最初に悲鳴をあげたのはうさぎ。

綺羅星 うさぎ

やだもうあたし帰るっ!!

泣き叫ぶうさぎを抱き寄せながら
杏子が呟く。

小鳥遊 杏子

でも、これを解かなきゃここから出られないってことじゃない?

深見 美登里

……そうね、きっとこれを解けば出口が見つかるはずよ



ひとりが取り乱すと
まわりは割と冷静になるものだ。


杏子に続いて美登里も
RPGで行き詰った主人公に助言する賢者
みたいなことを言う。















暗号を眺めていたオッサンが
頭を掻いた。

来栖 康青

う~ん、なにかの文章みたいだね

来栖 康青

イ・ケ・フ・ク・ロ・キ・タ……
池袋北? 池袋来た?

来栖 康青

池袋北を服着た老けた夫婦来た。不思議な九九、意識聞け果物……??

意味不明な単語の羅列は
呪いの呪文でも
唱えているみたいに聞こえる。

来栖 康青

なんだこりゃ

深見 美登里

これはそのまま読むのかしら?
きっと解き方があるはずよ

深見 美登里

「7人の首」がなにを意味してるのか。
それがわかれば……

剣持 朱梨

解いてみなきゃ始まらねぇ、ってことだな





俺たちは暗号を見直した。

これを解けば
出口につながるなにかがわかる。




かもしれない。





















■試練1■

この暗号を解くと、ある文字列が現れます。
そこから導き出される人名は誰でしょう?





A:キリオ=ブラウン

B:立花 虎次郎

C:綺羅星 うさぎ

【3】第1の試練:レンガの謎

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