亀の恩返し

22.薬を持っていない。

























薬……?

やだ、忘れちゃったの!? 願いをひとつだけ叶える薬!
売ってあげるって言ったでしょ?


ああ、そんなのもあったかもしれない。

私はゴミ箱から拾い出すように
記憶を引っ張り出した。



あまりに胡散臭いから
記憶にも残していなかった。

ほら、これよ!


魔女は懐から小瓶を取り出すと
私の目の前で振ってみせた。


おぼろげな月明かりを反射して
ゆらり、ゆらりと光っている。

その光が時折
魂が抜けるように小瓶の外へ漏れて
そのまま、

ふっ、と消えていく。

お代はカメの齢。
支払ったからと言って即死するわけじゃあないわ
人間程度の命は残しといてあげる


引き換えるものが命だと聞けば
誰だって二の足を踏むだろう。

それを見越してか、魔女はそう言う。

お買い得だと思わない?
だいたい1万年も生きてどうするのよ


さらに畳みかけてくる。



そう言う魔女さんは何故カメの齢が欲しいんです?


私は逆に魔女に尋ねた。


そんな素晴らしい薬なら
大金を積んででも欲しがる者はいる。


彼女は何故、私に売りたがるのだろう。
本当に長生きしたいという
だけなのだろうか。

他の意図も勘繰りたくなる。




そんな私に、魔女は笑う。

そりゃあ長生きすればいろんな研究ができるじゃない
研究すれば薬が作れる。みんな喜ぶ。私も儲かる。いい話でしょ?


なるほど。

魔女の言うことは一理あるかもしれない。




私のようになんの才能も無い者が
長生きするより
魔女が同じだけ生きてくれたほうが
世のためにもなるだろう。













私は













A.薬を買う。

B.買わない。

22.薬を持っていない。

facebook twitter
pagetop