亀の恩返し

26.薬を買わない。


























商人のような笑みで
魔女がこちらを見ている。




ごめんなさい
でもやっぱり買えません

はあ!?


魔女の申し出を断ると
彼女は
目を見開いて素っ頓狂な声を上げた。

あんた今なに聞いてたの!?
願いが叶う薬なのよ!?

そんな貴重な薬を使う資格は私にはないんです

いや、資格とか関係ないから!
というか使ってほしいわけ!
使ってくれないと話が進まないでしょ!?

でも私には叶えたい願いもない

太郎さんは!?
乙姫に取られて泣き寝入りするの?

太郎さんはもう浜に帰りたいとは思っていない





太郎さんの様子を見てわかった。


太郎さんは竜宮城で
乙姫様と面白おかしく暮らすのが
幸せなのだと。



私は

私の役目はもう終わったんです。
これからは普通のカメとして余生を送ります

だーかーらー!!
無駄に長生きするくらいならあたしに頂戴って言ってるの!!


魔女は声を荒げかけ、




それから、思いついた! と言いたげな
顔をした。

そうだ! だったら
新しい人生を願えばいいじゃない!
もうこの世に未練もないでしょ?

……



突拍子もない提案に
私はあんぐりと口を開けた。


あの薬は
別の人生を願うこともできるのか?

美女になって男どもに貢がせる?
針の剣を持って都に上る?
悪いタヌキをボコボコにしちゃう?

どんな人生も思いのままよ?

……


それも……いいかもしれない。

どんな人生を望む?









































































本当にありがとうございました

患者さんの笑顔が私どもの喜びですから

でも本当に本物みたい!
どこかからちぎってきて貼りつけた、みたいな~






ここは私の病院。
美容整形、そのなかでも豊胸を
専門にしている。

手術跡がわからないくらい自然、
触り心地も本物、
などの理由で口コミが広がり
なかなかに繁盛させてもらっている。

でも先生はお上手ですもん

そう? ありがとう


この看護師も元・患者。
私の腕に惚れこんで
助手をしてくれている。
















彼女たちは知らない。
私が

「鬼」だということを。




そして
彼女らが喜んでつけている「乳」が











爺さんの頬についていた
「こぶ」だということを。















魔女には感謝しなくちゃね

新しい人生をくれたことに。




やっぱり誰かのために尽くす人生だけど
これはこれで結構楽しい。


















さて、と。
また「こぶ付きの爺さん」を
調達してこなくっちゃ!














- おわり -

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