亀の恩返し

14.
乙姫に太郎を帰すべきだと進言する。

























乙姫様
太郎さんはいつまで竜宮城にいらっしゃるのでしょう

無粋なことを申すよのぅ

あの男が飽きるまで何年でも何十年でも、もてなすのが竜宮城のならいじゃ

客人に「帰れ」と言うつもりかの?

乙姫様は楽しげにお笑いになった。



まわりにいるのが魚ばかりの竜宮城で
足を持つ者は他にいない。



だからだろうか。

乙姫様は太郎さんを
いたく気に入っているように見えた。






贅の限りを尽くして客人をもてなすのは
竜宮城のならいではあるけれど

それ以上に……


そなたもあの男がいてくれたほうが嬉しかろう?

それは……そうですが


太郎さんが喜んでくれるのは嬉しい。

ここにいれば
何年でも何十年でも
面白おかしく暮らしていられる。



朝から晩まで働く必要もない。



でも

太郎さんには母君がいらっしゃいます

息子さんが帰らないままでは心配なさっていらっしゃるでしょう。
だったらせめて、母君もここに、



こっそりと様子を見に行った浜で
「太郎が行方不明になっている」と
噂になっていることを知った。

たったひとり残された母が
心配しているとも聞いた。

わらわが感謝の意を伝えるは太郎ただひとりじゃ

母親がなにをした? なにもしてなかろう?

息子ひとりを朝から晩まで働かせて……

見てみぃ、太郎様の幸せそうなお顔を。

それでもお前は太郎様をあの貧しい暮らしに帰すと言うのかえ?

……

































私はぼんやりと空を見上げた。






太郎さんが喜んでくれるのは
嬉しい。


太郎さんには
楽しく暮らしてもらいたい。


竜宮城にいれば
そのどちらも叶う。










……なのに

私は……太郎さんの幸せを喜んでいない












……わかる。
私が今の状況を心から喜べない理由。

乙姫様に取られちゃわないようにね















……












私は

乙姫様に

妬いている。

















……



もし私に

乙姫様のような2本の足があったなら



乙姫様のような美貌があったなら



乙姫様のような
豊満な身体があったなら







乙姫様のように
太郎さんと






……



私には2本の足はない。
あるのは水を掻くためのヒレ。


泥のような色の甲羅。








私は






A.もう一度乙姫を説得する。

B.諦める。

14.乙姫に進言する。

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