亀の恩返し

3.諦める。

























しかし

……


ならどうしようというのだろう。
私は所詮、カメ。


涙や色香で
太郎さんを動かすこともできなければ

巧みな話術で
太郎さんを説得することもできない。












地上に戻ったら、
太郎さんには朝から晩まで労働の日々が
待っている。



竜宮城の暮らしになれた太郎さんが
あの暮らしに戻ることができるだろうか。




なにかにつけて竜宮城と比べて
悲観し続ける人生を送ることには
ならないだろうか。


……


漁師として生きるのと

竜宮城で過ごすのと


どちらが正しいか、なんて
私にはわからない。


……


太郎さんの人生を
決められるのは太郎さんだけ。

それが私にとって
良くないものに見えたとしても



私と太郎さんが
違うものであるように





私が願う太郎さんの幸せは


私の罪を隠すための
ものでしかないのだろう。








笑っていて。太郎さん。
ずっと



永遠に……




































それから数年後。
竜宮城は歓声に沸き立っていた。

乙姫様バンザイ!

太郎様バンザイ!



今日は竜宮城の主である乙姫の
婚礼の儀が執り行われる。



乙姫に気に入られた太郎は
乙姫と結婚して
竜宮城の王になることを決めたのだ。

ささ、太郎様

いやぁ、本当に夢みたいだよ。こんなことってあるんだなぁ

ほっぺた引っ張ってみてくれるかい?

はい

あでででででで!



仲睦まじいふたりに
魚たちが歓声を上げる。


竜宮城の繁栄と
海の平和を願いながら



太郎さん、お幸せに……

これで……よかったのよ……

……


歓声に沸く竜宮城を
私はひとり、後にしたのだった。











- おわり -

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