そして、僕達の車はホテルの前に静かに停止した。
周囲には僕達以外の姿はない。
ただ、ホテルの特徴であるライトアップされた時計塔だけが静かに時を刻んでいる。
先ほど衛星で確認した際には数えきれない程並んでいたGEM所有の高級車は一台残らず退散していた。
げに恐ろしきは、GEMの実行部隊のその練度。そして、当主ではないイリスの命令を即座に聞き入れるというその忠誠心。
イリスは馬鹿だが、その周りは凄まじく優秀だ。ちょっと笹宮さんと冥の関係が思い浮かぶが、イリスは笹宮さんと違って面くらいしか取り柄がない。
僕が出る前に念のため外に出て辺りを探っていた東雲が静かに後部座席の窓に顔を近づけ、唇だけ動かして声を出さずに報告する。