岡部麒仙

ニート生活からの脱出を賭けて小説を書いています。応援よろしく。

極夜のトワイライト

早乙女星香は大学受験を控える身で十二月を迎え、ラストスパートに備えていた。そんな夜、両親が留守にしているため誰もいない家に帰るはずだったが、予備校から帰宅する途中で偶然コインロッカーに遺棄された乳児を発見する。星香はろくに考えもせずに誰もいない自宅に乳児を連れて帰り、名前がわからないので仮にベイビーと呼んで世話をするが、自分がなぜ軽はずみにこんなことをしたのか自問する。そして、去年の夏の出来事を回想するのだった。去年の夏休みに星香は彼氏の遠峰渉の家で宿題をしていたが、そこで二人は一線を越え、望まない妊娠をしてしまう。その経験は星香の心に傷を残し、それから一年が巡っても過ちを悔み、同時に子供がいれば温かい家庭を運んでくれるという幻想を持つようになったのだ。星香はそれを想い起し、自分がそんな感傷に胸中を満たされて、こんなことをしていることに気付く。星香はベイビーのこれからの行く末を案じ、自分の手元に置いておきたいという想いを募らせるが、何もできない自分の無力さを痛感する。事態がこうなった以上、警察に届けなければならないが、実の両親のもとに送り返されても幸せな結末は待っていない。それでも翌日には両親が帰って来るため、残された時間が迫っていた。そんな時、眠りに落ち、夢の中で自分の娘と称する少女に出会う。星香は少女に過ちを詫びるが、少女から愛する心は不滅で転生を続けるという教えを諭される。星香は少女に来世でめぐり会うことを懇願し、少女もそれに応えて消えていく。目を覚ますと夢の内容を反芻し、自分が昨日からこんな行動を取っている本当の理由を悟る。時刻は午前五時になり、別れの時が来た。星香はベイビーを抱えて夜明け前の街を歩いて交番に向かう。その途中で朝日が昇り始め、夜空に光が差し込んでいく。星香は暁の光を全身に浴びながら、自分の心にも夜明けが訪れたのを感じる。そして、過去に囚われていた自分と決別し、やっと自分の心に秘めた答えにたどり着く。最後はベイビーを交番に届け、二日間の子育てを終えるとともにベイビーの幸せを願って別れを告げるのだった。

2018.07.02 完結 (5)
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海沿いの町

 池谷亮太は十八歳まで広島県で生まれ育ち、今年から東京の大学に進学した。夏休みになって帰省し、地元の友達の折坂達也の家を訪ね、そこで達也の姉、千鶴と再会する。亮太は千鶴が何をしているか知らなかったが、母親から千鶴がお見合いをすることを知らされる。帰宅する途中、そのことを考えながら千鶴と初めて出会った日のことを回想する。それは亮太が八歳の頃のこと。近所で夏祭りがあったが、亮太は両親とはぐれて迷子になっていた。不安になりながら歩いていると、その場で偶然出会った千鶴に助けられ、林檎飴を買ってもらったり二人で水面を見つめると愛が実るという伝説の池を見たりした後、迷子センターに案内してもらったのだ。それが二人の初めての出会いだった。それから数日後、亮太は達也からテレビゲームをやろうと誘われ、初めて訪れた折坂家で思いがけず千鶴と再会する。その日のうちにすっかり折坂姉弟と意気投合した亮太は千鶴のことも姉のように慕うようになり、それ以来十年に及ぶ家族ぐるみの付き合いが始まった。亮太は千鶴がお見合いをすることを思うと複雑な心境になるが、明日から夏祭りが始まると知って決心し、千鶴を夏祭りに誘い出す。亮太は十年前の出会いをなぞらえるように思い出の場所を二人で巡った後、自分の気持ちに一区切り付けるために伝説の池の前で千鶴に告白するが、遠距離恋愛になるから自分の気持ちは実らなくてもいいと言ったため、千鶴も答えずに二人の関係は昔のまま変わらずにいる。その翌日、今度は千鶴の方がお見合いを控える身でありながら亮太をデートに誘って亮太を驚かせる。当日を迎えると、千鶴はデートをしているとは思えない子供のような奔放なキャラクターを存分に発揮して亮太を翻弄する。そして一通り満喫した後、千鶴も本当は亮太のことが好きで今日は最後に思い出を作りたかったと打ち明けるが、亮太はその想いを受け容れることをためらう。明後日、亮太が波止場で海を眺めていると、お見合いを終えたばかりの千鶴がふらりと現れ、潮風に吹かれながら二人で素直な気持ちを語り合う。そこで千鶴はお見合いの件を見送り、亮太との恋を選びたいと言い出す。そして、やっと通じ合えた二人の恋が始まるのだった。

2018.06.24 完結 (5)
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ゴーストライター

 村瀬龍星は大学教授になることを夢見ているが、いまだ非常勤講師のままで複数の大学を転々として不安定な生活を送っていた。そんな時、郷須都雷太という名の得体の知れない男と知り合い、彼が束ねるグループで大学教授が発表する論文のゴーストライターをやって生計を立てている。村瀬は学生の頃は一流大学として名高い帝都大学で美学を専攻したが、表象文化論という分野にも興味を示していた。これは目新しいことに興味を持つ若者を魅了し、たちまち有力な派閥を形成したが、その急進性は指導教官の大道寺を初め保守的な研究者から異端視された。そこで村瀬はうわべでは美学の研究をしているふりをしながらゴーストライターとして表象文化論の論文を書いていたのだ。そんなある日、大道寺から本郷大学の専任講師に推薦されるという辞令が舞い込む。村瀬はこれからは自分の名義で著書や論文を書いて論壇の寵児になってやるんだという気概に燃え、妻の雪奈と喜びを分かち合う。同時にゴーストライターをやめることを郷須都に告げ、そのグループを去る。しかし、本郷大学を訪れた村瀬は初めから講義の内容をめぐって主任教授の山倉と対立し、その一方で助手の北沢から指導教官の後ろ盾を失って万年助手に収まったと打ち明けられて、専任講師になっても自由に研究できないんだと思い知らされる。実際に本郷大学に赴任してからも卒業論文を書く学生たちと面談をして、美学と表象文化論の対立に巻き込まれる中で自分の将来におびえて萎縮し、大学院に残るために書きたいテーマで卒業論文を書けない姿を見て、大学では学問の自由なんて保証されていないんだと実感する。そして、ある学生の指摘から山倉が発表した論文が実は自分がゴーストライターとして書いたものだと気付き、このことを告発して山倉を主任教授の座から追い落としてやろうかと画策する。こうして悩んでいることは雪奈にも見透かされるが、雪奈にも自分らしい人生を歩んでと言われ、自分は何をしたいのかをあらためて考え直す。そして、ゴーストライターをやっていることを初めて告白して雪奈にプロポーズした日のことを回想し、自分の本当の気持ちを取り戻す。最後は本郷大学の専任講師を退職して、何にも囚われない自由の文士としてゴーストライターに戻るのだった。

2018.06.10 完結 (7)
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女の思秋期

 早見千恵は東京の高校で国語の教師をしており、夫の俊夫と娘の沙樹と平凡な家庭を営んでいる。沙樹には高校の同級生で葛西直紀という彼氏も出来て、誕生日に祝いに来てくれるように一家は皆それなりに幸せな生活を送っている。ある夏、千恵は自分の母校である高校の同窓会に出席するために広島に帰郷する。それには青春のほろ苦い記憶も宿していた。千恵は高校生の頃は成績が優秀で、かつては東大に進学して大学教授になる夢を描いていたが、当時付き合っていた西村隆と別れることをためらい、広島に残りたいという気持ちも残していた。夢を取るか恋を取るかの岐路に立たされたが、最後は隆と別れて東京へ行くという選択肢を選んだ。しかし、東大を卒業してもその夢は叶わず、過去の決断に微かな後悔の念を感じるのだった。同窓会で隆と再会した千恵は二人だけでお互いの人生を語り合い、かつては感じなかった不思議な感情を呼び起こす。その後、ミュージシャンになる修行をするために高校を中退したいという夢を語る生徒の話を聞き、人の幸せについて考えさせられる。その一方で父親の急病の一報を知らされ、再び帰郷して再会した隆から、夢を求めない方が平穏でいられるという人生観を聞かされ、現代的な煩悩について考えさせられる。それでも沙樹が将来について悩んでいないことにとりあえず安心する。やがて沙樹が習っているピアノの教師の仲介で、沙樹がウィーンの音楽大学に留学する話が持ち上がる。以前は平凡な人生を歩むと言っていた沙樹も急にそれに興味を示し始め、千恵は沙樹が今の幸せを捨ててでもかつての自分と同じことを繰り返すのかと思い、一時は反意を示す。千恵は何とか沙樹を説得しようと、直紀と密会して思い留まらせるように働きかけるが、そんなやり方に不満を持った沙樹とも衝突する。そして、沙樹と直紀は彼らの答えを両親に報告する席を設ける。その場で沙樹も直紀と別れても留学することを希望し、直紀も沙樹の夢を後押ししたため、千恵もそれ以上引き止めることはできなかった。千恵の心には過去に封じ込めていた感情が再びわき起こり、人生が揺り動かされるのを感じる。三月になって高校を卒業すると、沙樹は空港で一同に別れを告げて旅立つ。千恵は空港で沙樹の幸せを信じて送り出すしかないのだった。

2018.05.22 連載中 (6)
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白百合シンドローム

 河村由梨は広島県の平凡な町で暮らす平凡な中学生で、ドラマのような恋愛に憧れながらも、これと言って変わったことがない日常を送っていた。ある日、くじ引きで当たったためにやりたくもない文化祭の実行委員に任命され、自分の不運を呪う。そんな時、幼なじみの篠崎鳩美から誰もいない学校の屋上に呼び出されて告白され、それを境に平凡な日常が急転し始める。由梨は突然のことに戸惑い、禁断の世界に踏み入れることにためらいを感じながらも、空気のようにあるのが当然で特に意識していなかった鳩美の存在が急に浮上し、そのことが脳裏から離れなくなる。その夜、自分が幼稚園で鳩美と初めて会った日の夢を見て、二人の始まりの記憶を思い出し、心がざわめき始める。翌週、文化祭の実行委員のミーティングで偶然同じく実行委員になった鳩美と会うが、なぜか意識してしまい、いつも通りに接することができない。そんな経緯を過ぎる中で揺れ動く自分の感情に気付き始める。そして、ふとしたことから鳩美が美男子としても知られる生徒会長の若王子樹とも親密な関係にあることを偶然知ってしまい、あの告白は何だったのかと思い、心境が激しく動揺する。同じ頃、既に離婚して今は離れて暮らしているが、それからも度々会いに来てくれた母親が由梨を高級レストランに連れ出し、再婚して東京に引っ越すことを告げる。由梨は母親との別れを受け入れるとともに、自分の前を往来する人が絶えず通り過ぎて行くことに諸行無常の摂理を感じ、切なさに満たされる。それと同時に愛する対象を求めている自分に気付き、鳩美のことが好きなんだとやっと自覚する。それから数日後、鳩美が登校中に車にはねられて入院してしまう。急いで病院にお見舞いに行った由梨は鳩美が軽傷ですんだことに安心し、その場で鳩美から樹との本当の関係を知らされ、二人が恋仲になったと思い込んでいたのは誤解だったと気付く。その夜、鳩美と初めて会った日の記憶を思い出し、常識に囚われなかった自分の感情を呼び起こす。そして、鳩美の告白を受け入れることを決意した由梨は鳩美が退院すると学校の屋上に呼び出し、素直な想いを告げ、その場で愛を誓った二人は結ばれることとなる。

2018.04.27 完結 (4)
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恋色季節風

 由梨は幼い頃から父子家庭で育ったが、父が亡くなったため高校生にして天涯孤独の身となり、広島にある伯父の家に引き取られることになる。この家で暮らすのはこれが初めてではなく、七歳の頃、父が海外出張に行ったとき二カ月ほど預けられたことがあった。当時、由梨は従兄の聖二に想いを寄せていた。それが由梨の初恋だった。その新しい家庭で暮らすうちに由梨は当時の感情を再び呼び覚ましていく。そんなある日、近所にある薔薇園を通りかかったとき偶然、物や場所に宿った残留思念を読み取る超能力、サイコメトリーに目覚め、幻想の中で自分が聖二とその姉、涼子と寄り添う情景を見る。由梨は子供の子頃にささやかな愛情を注いでくれた涼子を姉のように慕っていたが、後にふとしたことから涼子だと思い込んでいたその人物が実は死別した聖二のフィアンセ、伊織だったことを知ってしまう。由梨は七歳の頃、伊織ともよく会っていたことを思い出し、短い間だったが三人で過ごした幸せな日々を思慕するが、同時に聖二がまだ過去の記憶を引きずっていることに嫉妬と苛立ちを感じるようになる。やがて再婚して三年前に東京に引っ越した母親が会いに訪れ、由梨を引き取りたいと言い出す。由梨は突然のことに戸惑い、故郷や聖二から離れたくないという想いを募らせ、自分の境遇を受け入れられずに思い悩むが、それでも実の母親が引き取ると言う以上は抗えない。漠然とした不安を抱えながら最後の時を過ごす中で東京の高校に転校する準備が進み、友達にも別れを告げて、これまで人生に一区切り付けるが、東京に行く前日に聖二が胃潰瘍で入院してしまう。医師によると、病状は軽いが本人に生きようとする気力がないため回復しないのだという。由梨は生きる希望を失った聖二を前に伊織の言葉を伝えれば励ませると思い立ち、薔薇園におもむいて最後に伊織との記憶を伝えようとサイコメトリーする。その時、死期が迫っても最後まで希望を捨てずに気高く生きようとした伊織の生き方に共鳴し、二人への嫉妬や心のわだまかりが溶け出していく。同時に自分の運命を受け入れ、過去に囚われていた自分と決別して未来へと歩み出すことを決意する。そして、病室の聖二に別れを告げ、未来への希望を胸に秘めて東京へ旅立って行く。

2018.04.14 連載中 (10)
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