イザナギとイザナミがまぐわうと次々に島が産まれ、日本の元となる形ができあがった。

イザナミ

・・・・♪♪

なんとなく国の形ができ、イザナミはとってもご満悦だった。

イザナギ

・・・・・・・・

しかし、そのおかげで最近ご無沙汰になってしまったイザナギは、どうもテンションが上がらずにいた。

そんなある日。

イザナミ

イザナギ、見て見て~!

魚や穀物を両手いっぱいに抱え、イザナミが満面の笑みで走って来た。

イザナギ

え??どうしたの?その魚??

イザナミ

さっき、ヒトがココに来てね、『島を作ってありがとう』って、これくれたの!!

イザナギ

は?ヒト??人間っ??
この島に住んでるの??いつの間に???

実のところ日本神話には、人間の起源がどこにも載っていない。

イザナギ

神話としてどうなんだ。

という疑問は残るが、古事記の後半になると、神様の子孫が普通に人間として活躍してるので、たぶん、みんなどっかで、なりなりして生まれてきた神様から自然に産まれて来たのだろう。

イザナミ

細かいことは気にしないのっ!!

イザナミの癒し系笑顔が光る。

イザナギ

ま、いっか。

イザナミ

そんなことより私ね、この島に暮らす人たちのこと、幸せにしたいの。

イザナギ

・・・・・・!?

イザナミ

だって、私たちが産んだ島に住んでくれてるんだもの!!

イザナギ

え・・ソレ・・・・・

イザナミ

??

イザナギ

めっちゃ良い考え!!
僕もみんなを幸せにしたいっ!!

イザナギは、何かひらめいたようにハイテンションで同意した。

イザナミ

本当っ??よかったぁ~!
イザナギ最近、元気無かったから・・・

イザナギ

はぁ??いやいや、気のせいですよ。

イザナギ

でも、これから忙しくなるな!!

イザナミ

イザナギ

だって、みんなを幸せにするためには、たくさんの神様が必要だろ??

イザナギは嬉しそうに二カッと笑って見せた。

こうして、島を産み終えた2人は、続いて神々を産むことにした。

1番最初に産まれた神様は『よくぞ大事を成し遂げたっ!!』って感じの名前の神様だった。

なんだか褒められた気分になった2人は更にヤル気を出し、バンバン子供たちを産んでいく。

まずは、人々の暮らしを守るために、家に関わる神々を産んだ。

イザナミ

地盤基礎の神、戸の神、屋根の神、建物の神、風木から家を守る神!!

続いて、

イザナギ

オオワタツミとか、海系の神々!

イザナミ

川と海を分ける神と、川系の神々!

イザナギ

水系もろもろ!

イザナミ

風系の神!木系の神!

イザナギ

オオヤマツミとか、山系もろもろ!!!

イザナミ

・・・ゼェゼェ・・

イザナギ

あ、あと、野の神っっ!!!

と、ポンポンポンポン産んでいった。

また、子供たちも自分に関わる神を次々と生んで、孫もできた。

と言ってもイザナギとイザナミは全然老けない。

イザナミ

だって、神様だもの☆

そして、子供たちはどんどん大きくなり、次々とオノゴロ島を旅立った。

みんなが離れて行くのは寂しかったが、日本の島々が豊かな自然に囲まれていくのを実感できて2人はとっても幸せだった。

しかし、そんな幸せな生活は、ある日突然の終わりを迎えてしまう。

イザナミが生産に関わる神々を産んでいると、思わぬハプニングが起こったのだ。

という爆発音と共に神殿中にイザナミの悲鳴が響いた。

イザナギ

イザナミっ!?どうしたのっ!?

別室にいたイザナギは、慌ててイザナミが出産をしていた産屋に駆け込んだ。

イザナミ

・・・っっ・・・・・・

イザナギ

・・・・・・・・・・・うそ・・・

そこには下半身を灰に覆われ、気を失っているイザナミの姿があった。

火の神であるヒノカグツチを産んだ時、イザナミが陰部に大火傷を負ってしまったのだ。

彼女はなんとか一命を取り留めたものの、高熱が治まらず病の床に臥してしまった。

その日以来、イザナギは毎日毎日イザナミの看病に努めた。しかし、病気は一向に治る気配が無い。

それなのにイザナミは、神産みのことばかり気にしていた。

イザナミ

どうしよう・・・まだみんなが幸せになれるだけの神様が揃ってないのに。

イザナギ

・・・大丈夫だよ。神産みは君が元気になってからでいいじゃないか。

イザナギは安静にするよう促したがイザナミは苦しみもがくと、嘔吐し糞尿を垂れ、そこからも鉱山の神、土の神、生成の神を生み出した。

彼女のこんな姿見ていられない。

イザナギ

イザナミ、神産みはもういいって!お願いだから、じっとしててよ・・・・・

イザナギは、この急な展開に着いて行けないでいた。だって、ついこの前まであんなに元気だったのに。

あの何気ない幸せな日常が遠い昔の奇跡みたいに感じた。日に日に痩せ細っていく彼女を見ると、胃がキリキリしてどうかなりそうだ。

そして、その日のイザナミは一段と衰弱して見えた。

彼女は最期の時がすぐそこまで近づいて来ている事を感じていたのだ。

イザナミ

イザナギに、ちゃんとお別れ言わなくちゃ・・・

イザナミは、上半身を起こそうと試みたが、もうそんな体力すら残っていなかった。

それを見たイザナギは、そっと彼女の肩を抱いた。その身体は切なくなるほど軽かった。

イザナミ

イザナギ・・・・ごめんね。
国づくり、最後までできなくて・・・・・・

イザナギ

なんだよ急に。
そんなことで謝らないでよ。イザナミが元気になることの方が大事じゃんか。

イザナミ

うん・・・・・・・・ありがと。

イザナミ

でも、私がいなくなってももう大丈夫だよ。だって・・・あなたと、たくさんの子供達がいるもの・・・・・

イザナギ

・・・・何だよそれ。止めてよ。
まるで、お別れみたい。

イザナミ

・・・・・

イザナギ

嫌だよ・・・・・・君がいない国なんて作ったって意味が無いじゃないか・・・・・
何のための国づくりかわからない・・・

だって・・・君がいなくちゃ・・・・

そう言いながらも、どうにもならない状況に、イザナギの目からは大粒の涙がポロポロと溢れてきた。イザナミは申し訳なさそうに笑った。

イザナミ

ごめんね・・・・
ずっと、見てたかったなぁ・・
・・・このくにのこと・・・

イザナギ

そんな・・・嫌だよ・・・
ずっと一緒に見守っていこうよ・・・・

イザナミ

うぅん・・・・
あと・・・お願いね・・・・・

イザナミの声がどんどん小さくなっていく。

イザナギ

嫌だ・・・
だめだよ、イザナミ・・
お願いだ・・・・・目を閉じないで

イザナミ

・・・・・ナ・・ギ・・・・・・
・・りが・・と・・・

イザナギ

イザナミっっ!!
だめ・・・・死なないで・・お願い・・お願いだから・・・ねぇ・・イザナミ・・・

イザナミ

・・・・・・

イザナミは静かに息を引き取った。

しかし、イザナギは彼女を抱きしめながら語りかけ続けた。

イザナギ

イザナミ、イザナミ、愛してる。
大好きなんだ・・ねぇ、イザナミ・・・・・逝かないで・・・

イザナギは何度も何度もイザナミの名前を呼んだが、彼女はもう動かなかった。

イザナギ

嫌だ・・・嫌だよ・・・・
だって、こんなに好きなのに!!
こんなに愛してるのに!!

なんでたった一人の息子のために大切な君を失わなきゃいけないんだっっ!!!

イザナギは周りも気にせず大きな声で泣き叫んだ。

彼の目から、あまりにもたくさんの涙が溢れ出たので、その涙から泉の神が生まれるほどだった。

しかし、枕元で腹這いになって泣いても、足元で腹這いになって泣いても、どんなに大声でわんわん泣いても、彼女は動かなかった。

そこで仕方なく出雲の比婆山にお墓をつくることにした。

イザナギは彼女のお墓の前で呆然と立ち尽くした。

そして自分でもどのくらい経ったのか忘れた頃、後ろから声がかかった。

ヒノカグツチ

父上・・・・あの・・・・・
俺のせいだ・・俺のせいで・・・

それはイザナミの火傷の原因となった火の神、ヒノカグツチの声だった

イザナギ

・・・・・・

ヒノカグツチ

・・・・・・

長い沈黙が流れる。

ヒノカグツチが重い空気に言葉を発することができず押し黙っていると、イザナギは下を向いたままゆっくりと振り向いた。

イザナギ

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・あぁ・・・

イザナギ

・・・・そうだよ。

そう言って、顔を上げたイザナギと目が合うと、ヒノカグツチは思わず後ずさった。

ヒノカグツチ

・・・・

覚悟をして声を掛けたものの、もう頭の中も心の中もがぐちゃぐちゃで苦しくて痛くて言葉が出て来ない。

そうしている間に、イザナギは一歩づつ一歩づつ近づいてきた。

イザナギ

そうだよ・・・お前さえ・・
お前さえ生まれなければイザナミは死ななかったんだ・・・・

イザナギ

・・お前さえ・・・・

イザナギ

生まれて来なければっ!!!!!

そう声を荒げながらイザナギは十拳の剣を抜きヒノカグツチに襲いかかった。

ヒノカグツチ

・・・・

ヒノカグツチは覚悟を決め目を瞑った。

ヒノカグツチの首が宙に飛んだ。イザナギは怒りに耐えられず、自分の息子を殺してしまったのだ。それでもイザナギの心は収まらず遺体をバラバラに切り刻んだ。

イザナギ

お前さえ・・・・・・
・・・・・・お前さえっっ・・!!

ビチャビチャと音を立て、辺り一面に血が広がった。その血からは次々に8人の神が生まれ、バラバラになった亡骸からも8人の神が生まれた。

火の力をコントロールするための神々だった。

イザナギ

・・・・・・・・

ヒノカグツチがぴくりとも動かなくなるとイザナギは途方に暮れ、天を仰いだ。


そしてまた、たくさん泣いた。

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