ミナカヌシに国づくりを頼まれたイザナギは、珠飾りが綺麗に装飾されたアメノヌボコを右手に持ち、神殿の前で呆然と立ち尽くしていた。

『国づくりをしてこい』とか言って、こんな矛を渡されたけど、コレ一本で何ができるって言うんだろう。

イザナギ

つーか、
そもそも『国』って一体なんなんだ。

イザナギは取り敢えず、自分たちが降りる場所が必要だと思った。

だって地上にはまだ島すら無くて、海の上に油みたいなよくわかんないものがプカプカとクラゲみたいに漂っているだけだったのだ。

イザナギは、イザナミを連れて天浮橋に向かった。ココからは『葦原の中つ国』がよく見える。

すると、葦原の中つ国を見たことのなかったイザナミが無邪気にはしゃいだ。

イザナミ

ねぇ、イザナギ!見て見てっ!!
水の上になんか変なのが浮いてるっ。
気持ちわるーい!!

イザナギ

・・・・・ 超かわいい。

彼女のおかげで少しだけテンションの上がったイザナギは、ミナカヌシに言われた通りアメノヌボコで地上をつっつくことにした。

早速、2人は空を飛んで地上に近づくと、アメノヌボコを海に突き刺し、『こおろこおろ』とハイテンションにかき回して引き上げた。

すると矛の先から塩がしたたり、みるみるうちに固まって小さな島ができた。

思ったよりも簡単に島ができたので、イザナギのテンションは更に上がった。せっかくなのでその島の名前を考える。

イザナギ

ねぇ、イザナミ。この島、オノゴロ島って名前にしない??ここに神殿を作ろうよ。
そこで一緒に住むんだ!

イザナミ

わぁ!楽しそぉっ!!

彼の提案をイザナミは大喜びで賛成してくれた。

早速2人はオノゴロ島に、高天原に届きそうなくらい大きく神聖な柱を立てて、それを中心に横幅が12mもある立派な神殿を建てた。神様だから2人だけでも神力で、なんでもできちゃう。

超うらやましい。

こうして神殿ができあがると、イザナギはずっと前から気になっていた疑問をイザナミに投げかけた。

イザナギ

・・・・ねぇねぇ、イザナミ。

イザナミ

なに?

イザナギ

君と僕って一緒に生まれたのに、
なんか形が違う気がしない??

イザナミ

ん〜。そうね。

イザナギ

君ってどうやって生まれたの?

イザナミ

え〜。う〜んと・・・なんかね、なりなり〜って感じで生まれたんだけど・・・・

イザナギ

だけど?

イザナミ

あのね、私の体、なりなり〜って成り切らなくって、なんか足りないところがあるの。

イザナギ

へぇ!!
僕の体もなりなり〜って生まれたんだけど、なんか、なりなり〜って成りすぎちゃって、余計なものがくっ付いてるんだ!!

イザナギ

ずっと気になってたんだけど、何でなんだろ??

好奇心旺盛に目を輝かせるイザナギだったが、正直なところ、イザナミはその答えを知っていた。
だが、ここは取り敢えず知らないフリをする。

イザナミ

うぅん・・・なんでかしらね?

しかし、イザナギは早々に答えを導き出してしまう。

イザナギ

ねぇ!
もしかしたらさ、君の足りたいところを僕の余計なところで埋めたら、なんか良いことが起きるんじゃないかな??

イザナミ

えっ!?ヤんのっっ??

イザナギ

ん??やる??何を???

予想外の展開にイザナミは戸惑った。

イザナミ

いやいやいやいや・・・・女子の足りないところを男子の余分なところで補う『アレ』って言ったら『ソレ』しかないだろう。

そう思いながらも念のため確認をする。

イザナミ

・・・・・本当に分からないの?
カムムスビ様に『まぐわい』のこと、あれやこれや詳~しく聞かされなかった??

イザナギ

まぐわい??なにそれ

イザナミ

いや・・・だから・・・その・・・・・

イザナギ

・・・・・?

イザナミ

・・・・・・・・まぐまぐするやつ。

イザナギ

??

イザナギ

だから、まぐまぐってなんだよ・・・
さっさと教えてよ。

イザナギは少しイライラした様子で答える。どうやら本当に分からないらしい。

イザナミ

うぅん・・・・・・・・わかった。
じゃあ、教えてあげる。

イザナギ

やった!

イザナミ

でも、その前にしたいことがあるの。

イザナギ

何?

イザナミ

・・・・・・・・結婚。

イザナギ

結婚??

イザナギ

わぁ。楽しそうっ!!
なんだか、大人な展開だね!!

イザナミ

いや。
まぐわう時点で大人な展開なんだけど。

とイザナミは思ったが、そこはスルーした。

イザナミ

取り敢えず、籍さえ入れてしまえばこっちのものだ。

彼女は結婚式の準備をそそくさと進めた。

こうして準備が整うと早速、日本初の結婚式が始まった。

イザナミはいつもより豪華な衣装を身に纏い、とっても幸せそうだ。そんな彼女に見とれていたイザナギは、いざ本番になるとガチガチに緊張した。

2人はまず、神聖な柱の前に、背を合わせて立った。

そして、柱の周りをイザナギは左から、イザナミは右からくるりと周り、出会ったところでハイテンションのイザナミから声をかける。

イザナミ

まぁ!なんて素敵な方なんでしょうっ!!

続いてイザナギがドキドキしながら、ぎこちない返事を返した。

イザナギ

ワァ。なんてキレイなヒトなんだ。

こうして、日本初の結婚式は、あっさりと終わった。

イザナミ

よし!これで、結婚成立ねっ♪

イザナミはとっても満足気だ。一方のイザナギは一瞬で終わってしまった結婚式に戸惑っていた。

イザナギ

え??早っっ!!
本当にこれでいいの??てか、僕の方から、声掛けた方がよかったんじゃない??

イザナミ

いいのいいのっ!
さっ、お布団に行きましょ♪♪

イザナミは、イザナギの手を引っぱりさっさと寝室に向かった。

イザナギ

えっ??イザナミ??
ちょと待ってよ!!何すんの????

イザナミ

何って、
まぐまぐするに決まってるじゃない。

イザナギ

え、だから、まぐまぐってなにって??
なっ、なっ、えっっ、何何何????・・・ちょ・・・待っっっ・・・・・!!

こうして2人はトントン拍子に初夜を迎えた。

すると、イザナミはすぐに身籠り出産をした。

しかし2人の間に最初に生まれた子供は、ヒルのような形をした『ヒルコ』だった。ちゃんとした島にならなかったので、仕方なく小さな船に乗せて海に流すことにした。

2人はまたまぐわったが、次の子も海にふよふよと浮く泡のようで、できそこないの『淡島』だった。

こうして2回もちゃんとした子供を産めなかったイザナミは意気消沈してしまった。

イザナミ

・・・・・・・

いつも笑顔のイザナミが体育座りのまま動かない。

てゆうか、すんげー負のオーラが出ている。めっちゃへこんでる。

イザナギ

・・・・・・・

イザナミ

・・・・・・・

イザナギ

そうだっっ!!

イザナミ

!?

イザナギ

高天原へ行こうっっ!!!

イザナミ

!!

困ったイザナギは彼女を励まそうと、2人で別天つ神に相談しに行くことにした。

ミナカヌシ

わぁ〜!おかえりなさぁ〜い!!

2人が久しぶりに高天原に戻ると、ミナカヌシが優しく迎え入れてくれた。

事情を話すとミナカヌシはおもむろに雄鹿の骨を取り出し、さくらんぼの木の枝で火を焚いて炙りはじめた。骨に入ったヒビを見ることで、不調の原因を占うことができるのだ。さくらんぼの枝が煙を上げ、もくもくと甘い香りが充満する。

ミナカヌシはピリピリと亀裂の入った骨を見ながら、2人に質問を投げかけた。

ミナカヌシ

うーーん・・・もしかして、結婚式の時、イザナミの方から声をかけた??

イザナミ

はい・・・

そうイザナミが答えると、たまたま同席していたオネェのカムムスビが、横から間を入れずに声を上げた。

カムムスビ

んもぉ!それじゃぁダメよ!

イザナギ

へっ!?

カムムスビ

プロポーズは男性からしなくっちゃ!!

イザナミ

なっ!!

イザナギ

なるほどっ!!

こうして、子供がうまく産めなかった原因にえらく納得した2人は、カムムスビに何度も何度もお礼を言うと、最後までアドバイスを言い切れなかったミナカヌシの哀愁漂う後ろ姿を横目に見ながらオノゴロ島に戻った。


余談だが、ミナカヌシの出番はこれで終わりだ。

ミナカヌシ

え。

さてさて。

家に帰ると2人は再び結婚の儀式を行った。神聖な柱をくるりと周り、今度はイザナギの方から声をかける。

イザナギ

わぁ!なんて素敵な女性なんだ!

そして、イザナミもこれに答えた。

イザナミ

まぁ!なんて素敵な殿方なんでしょう!!

こうしてサラッと2回目の結婚式を終えた2人がまぐわうと、今度は次々と立派な島が生まれてきた。

2人は最初に産まれた島を『淡路島』と名付けた。うまく形にならず、海に流してしまった淡島を忘れないようにと思いを込めた。

次に生まれたのは伊予の島『四国』。
この子は、体はひとつなのに顔が4つもついていた。なのでそれぞれに、エヒメ、イヒヨリ、オホゲツ、タケヨリと名前をつけた。

次に、隠岐の島。

次に、筑紫の島『九州』。
この子も体がひとつのくせに顔が4つもあったので、それぞれに、シラヒ、トヨヒ、ヒムカイ、タケヒと名前をつけた。

そして、壱岐島、対島、佐渡島、大倭豊秋津島(本州)と次々に日本の島を産んだ。

これらの島々は

イザナミ

可愛い可愛い『大八島国』ちゃん♪♪

と呼ばれた。

だいたい国の形ができ、イザナミは大満足だった。

しかし、

イザナギ

いや!まだ人が住むには狭いよっ!!
狭すぎるよっ!!!

というイザナギの必死の訴えによって、2人はまたまぐわい、吉備の児島、小豆島、大島、姫島、知訶島、両児島を産んだ。

こうして何も無かった海の上に島々が並び、今の日本の元となる形ができあがったのだった。

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