イザナギはイザナミを失った悲しみから、息子のヒノカグツチを殺してしまった。しかし、ヒノカグツチを殺しても、イザナギの悲しみが癒えることはなかった。
まだ心のどこかでイザナミが生きいてるような気がして、どうしても彼女の死を受け入れることができない。
イザナギはイザナミを失った悲しみから、息子のヒノカグツチを殺してしまった。しかし、ヒノカグツチを殺しても、イザナギの悲しみが癒えることはなかった。
まだ心のどこかでイザナミが生きいてるような気がして、どうしても彼女の死を受け入れることができない。
いっそこのまま自分も死んで死者の国へ行こうか・・・
なんて暗い考えが頭によぎったその時。ふとあることを思いついた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 死者の国?
そうだよ。バカだな ・ ・ ・ ・ 何で気づかなかったんだ。
黄泉の国に行けばいいじゃないか!!
イザナミを迎えに行こうっ!!!
『黄泉の国(よみのくに)』とは、根の堅洲国の中にある死者の国だ。
共食が済んだら大変だ!急がないと!!
『共食』は死者が黄泉の国の住人になるためにする儀式のこと。この儀式で黄泉の国の食物を食べると、現世には戻れない決まりになっていた。
イザナギはいてもたってもいられず、黄泉に行く準備を急いだ。黄泉の汚れから身を守るため、みづらを結い、お守りに髪飾りや腕輪などを身につけた。
準備が整うと、すぐに出雲の奥深くにある黄泉の国へと飛んだ。そして根の堅洲国と続く『黄泉比良坂(よもつひらさか)』の手前に降り立った。
あれ ・ ・ ・ なんかうまく飛べない
どうやら根の堅洲国では空が飛べないらしい。イザナギは仕方なく黄泉比良坂を駆け下りた。
するとその先に、岩山を掘って作ったような、立派な御殿が見えた。中心にある岩の扉が、きっと黄泉の国への入り口だ。
ハァ ・ ・ ・ ハァ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 着いた。ここだ ・ ・ ・ ・ ・ ・
まだ昼間だというのに薄暗く、寒気がする。
おい!誰かそこにいないか??
・ ・ ・ ・ イザナミ!いないのか?
石の扉を叩きながら叫ぶと、声が反響し冷たく響いた。
返事はない。
イザナギはさらに声のボリュームを上げた。
イザナミ!!イザナギだ!!!
迎えに来たんだ!!
・ ・ ・ ・ ・ ・ 誰もいないのか?
うそ。本当にイザナギなの ・ ・ ・ ・ ?
イザナミっっ!!
それは、大好きな大好きなイザナミの声だった。嬉しさで思わず涙が滲む。
なんだよ、すぐそこにいたんじゃないか。
こんなに早く君の声が聞けると思わなかった
・ ・ ・ また君の声が聞けるなんて ・ ・ ・ ・ ・
しかし、扉の向こうのイザナミには、喜んだ様子は無い。イザナギは不安になり、再び彼女に呼びかけた。
君を迎えに来たんだよ。だって、僕らの国づくりはまだ終わってないじゃないか。
一緒に帰ってまた国をつくろう!!
イザナギ ・ ・ ・ ・ ごめんなさい。
私、あなたと一緒に帰れないの
なんで
だって ・ ・ ・ ・
私もう、共食しちゃったから ・ ・ ・ ・
それは予想していた最悪の事態だった。
しかし、扉のすぐ向こうにいる彼女をそう簡単に諦められるわけがない。
な ・ ・ ・ ・ ・ 何言ってるんだよ!飯を食ったくらいで戻れなくなるものか!!
・ ・ ・ ・ イザナギ ・ ・ ・ せっかく迎えに来てくれたのに ・ ・ ・ ・ ・ ごめんなさい ・ ・ ・私がまだ共食を終えていなければ ・ ・ ・ ・
まだ大丈夫だよ ・ ・ ・ ・ ・ ・
イザナギ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
無理だよ ・ ・ ・ ・ ・
イザナミは力なく答える。
そんな ・ ・ ・ ・ 嫌だよ。
僕はただ、また君に会いたいだけなんだ・ ・ ・ ・ 君に触れたい。抱きしめたい ・ ・ ・
だって、こんなに近くにいるのに ・ ・ ・ ・ ・君も同じ気持ちじゃないの?
それは ・ ・ ・ ・ ・ ・
もちろん私だって嬉しいよ。
だって、大好きなイザナギが迎えに来てくれたんだもん ・ ・ ・ ・ でも ・ ・ ・ ・ ・ ・
長い沈黙が続き、イザナミがやっと口を開いた。
ハァ ・ ・ ・ ・ ・ ・ わかった。黄泉の神々に、戻れないか相談してみる ・ ・ ・ ・ ・ ・
よかったっ!きっと大丈夫だよ。僕も一緒に行くっ!!
ダメっ!!!
イザナミは強く拒絶した。予想外の反応にイザナギはひるむ。
え ・ ・ ・ でも ・ ・ ・ ・ ・ ・
っっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ イザナギに ・ ・ ・見て欲しくないの ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 私のこと ・ ・ ・
??
だって、その、まだ、ちゃんと準備してないし ・ ・ ・ ・だから待っている間、絶対にこの扉を開けないでね。絶対に ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・?
約束よ。
え ・ ・ ・ ・ ・ あぁ ・ ・ わかったよ。
こうしてイザナミは、黄泉の神々の交渉へと向かい、イザナギは扉の前で待つことになった。
イザナギはずっとずっと、待って待って待ち続けた。しかし、いつまでたってもイザナミは帰って来なかった。
扉に向かって何度か声を上げたが誰の返事もない。外は今頃、真夜中だ。
やっぱ、さっきのイザナミの様子はおかしかったよな。
黄泉の神々とモメているのか??
大丈夫かな・ ・ ・ なんか、イザナミだけじゃ言いくるめられちゃいそうだし ・ ・ ・ ・ ・ ・
あぁ、超、想像できる。
んあぁー!!やっぱり、心配だ ・ ・ ・ !!
僕も説得しに行こう!!!
黄泉を敵に回しても無理矢理連れて帰ってやる。
そう決心したイザナギが岩の扉をこじ開けると、冷たい空気と共に何かが腐ったような臭いが流れてきた。中は鍾乳洞のようになっていて、灯りも無い。
イザナギは髪に挿していた竹のクシを一本取り、火を灯して先に進んだ。
しかし、進めど進めど何も無かった。辺りには死臭が漂い、鼻がもげそうなほどだ。イザナギはさらに奥に進んだが、それでも何も無い。
一度戻って、もう少しイザナミを待とうか
と考え始めたその時、彼の足に何かが引っ かかった。
痛てっ!
・ ・ ・ ・ なんだこれ?
イザナギが『ソレ』に明かりを近づけると、『ソレ』は大好きな人の声を発した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ イザナギ?
うっ ・ ・ うあああアアアアァァァ!!
そこには目が落ち窪み、あちらこちらが腐りウジの湧いたイザナミの姿があった。
ブツブツと気持ち悪い音でウジが呻き、彼女の腐ったところからは、まがまがしい雷神が8体も湧き出ている。
うそだ ・ ・ ・ ・ 嘘だろ?
・ ・ ・ ・ ・ ・ イザナミなのか??
・ ・ ・ ・ ・ 何で入って来たの?
・ ・ ・ こんな姿、イザナギに見られたくなかったのに ・ ・ ・ あの時のままの私を見ていて欲しかったのに ・ ・ ・ ・ ・ ・
彼女が手を延ばしてきた。イザナギは思わず振り払う。
うわっ、触るなっ!!
そんな ・ ・ ・ ・ 酷い。だから ・ ・ ・ だから入らないでって言ったのに ・ ・ ・ ・ ・
私にこんな恥ずかしい思いをさせるなんてひどい。酷すぎる ・ ・ ・ 酷すぎるよ ・ ・ ・
ヒドイ ・ ・ ヒドイひどいひどい ・ ・ ・ ・ ・
イザナミは何かが壊れてしまったかのように同じ言葉を繰り返している。
恐怖からイザナギが一歩後ずさると、彼女の声がピタリと止んだ。
イザナミ ?
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ コロシテヤル。
辛うじて残っていた彼女の片目と目が合った。
イザナギは自分でも情けないと思うほど大きな悲鳴を上げると踵を返し、一目散で出口へと走った。
>邪神官さま コメントありがとうございますmm
ポンポン生まれすぎて結局数えきれなくなって、「八百万の神々」ってまとめられる結果になりましたw
いつも楽しく拝読させていただいています。とっても読みやすく、且つ分かりやすいです! ちらほら知っているところもあり、どのように描かれるのかが楽しみでもあります。続きも楽しみにしています!
>村咲アリミエさま コメントありがとうございます!!楽しんでいただけて、とっても嬉しいです^^♪
これからも頑張りまーす!!
neneさま
ありがとうございます!ほんと、日本の神様って人間っぽいですよね〜。これからもよろしくです♥