この国の歴史は世界がまだ未完成で、神様すらいなかったところから始まる。

現在の日本は『神様の住む天界』『人間の住む地上』『死者の住む冥界』の三層に分かれているけれど、その頃はまだ気体と固体すら分かれていなくて、カオス状態の世界がどこまでもどこまでも広がっているだけだった。

それから長ーーい長ーーーい時間が経ったある日、ふいに天と地が分かれた。
すると、どこからともなく天に1人の神様が、なりなりと生まれてきた。

彼の名前は、天御中主神(アメノミナカヌシノカミ)。

ミナカヌシ

はじめまして。

ミナカヌシ

名前長いから、『ミナカヌシ』って呼んでもらえたら嬉しいな。

ミナカヌシは『天の中心のリーダー!!』って感じの名前の神様だ。最近では、『宇宙の神様』だなんて言われている。日本で一番最初に生まれたので、ミナカヌシこそがこの国で一番エライい神様ってことになる。

ミナカヌシ

へへ・・・・・

・・・・・・のだが。

彼がそんな扱いを受けるシーンはココから一度たりも出てこない。

ミナカヌシ

え。

まぁ、言ってしまえば空気な神だ。

影がめちゃめちゃ薄い。薄すぎる。

もぅ、薄すぎて見えない。

最高神なのに。

可哀想なくらい空気。

正直、名前負けしてる。

そんな神だ。

ミナカヌシ

・・・・・

彼は生まれてからしばらくの間、天にふよふよと浮いて

ミナカヌシ

ぽーーーー

ミナカヌシ

ーーー

ミナカヌシ

ーーーーーー

ミナカヌシ

ーーーーーーーーー 。

っとしていたが、特にすることもなかったので、とりあえず姿を隠すことにした。

ミナカヌシ

・・・・・・・

それからしばらくすると、また1人。なりなりと神様が生まれた。

彼の名前は高御産巣日神(タカミムスビノカミ)。

タカミムスビ

こんにちは。

『命を生み出す』っていうステキな意味の名前を持つ神様だ。

タカミムスビ

でも、呼びづらいので最近は『高木神』って呼ばれています。

タカミムスビは身長がひょろーっと高くて、まさに『高い木の神様!』って感じ。どうも鳥に好かれる体質らしく、気がつくと2〜3匹の鳥が彼の周りをピヨピヨと飛んでいる。『頭の中に巣があるんじゃないか』と、疑いたくなるくらい、常に周りに鳥がいる。

タカミムスビ

・・・・・いやいや。

しかし、見た目はふんわりした癒し系だけど、根はしっかりしとたリーダーシップのある神様だ。

正直、ミナカヌシなんかより、よっぽど最高神っぽい。天の上からいつもこの国のことを見守ってくれていそう。

実のところ、ミナカヌシの存在が薄すぎて、結構な数の神様がタカミムスビが本当に最高神だと思っているらしい。

タカミムスビ

・・・・・・いやいやいやいや。

しかし、その時はまだ他に誰もいなかったので、タカミムスビも生まれてからしばらくして姿を隠してしまった。

タカミムスビ

では。

その次に、なりなりと生まれたのは、神産巣日神(カムムスビノカミ)。

カムムスビ

よろしく。

彼は結構ゴツい顔つきをしているのだけれど、女性っぽい派手めの服ばかり着ていて、お節介なくらい面倒見が良くって、イケメンが好きで・・・と、まぁ、なんとなく遠回しに表現してみたものの、言ってしまえば『オネェ』だ。

カムムスビ

あぁん??

とは言っても、このころはまだ『性別』という概念が無く、ミナカヌシも、タカミムスビも、カムムスビも、『独神(ひとりがみ)』とよばれる男でも女でもない存在だった。

なので、カムムスビは

カムムスビ

アタシは地上のオネェより女に近い存在なのよっっ!!!

と、常日ごろから主張している。

カムムスビはイケメンに対しての情報網が素晴らしく、彼に聞けば旬なイケてるメンズの萌えポイントや、『え、そんなことどうやって調べたの??』ってくらい詳しい個人情報までコト細かく教えてくれる。

ちなみに『ムスビ』にはエッチな意味も含まれていて、しかも彼自身、下ネタが大好きなので、ちょっとでも突っ込んだ話を聞いてしまうと、かなりマニアックな話題になるので注意が必要だ。

カムムスビ

いろいろ教えてあ・げ・る★

そんないつもハイテンションのカムムスビだが、この時はまだしゃべる相手もいなかったので、しばらくして姿を消してしまった。

カムムスビ

・・・・またね。

この『ミナカヌシ』『タカミムスビ』『カムムスビ』の3人は、これから生まれてくる、たくさんの神様の中でも大切にされていて、『造化三神(ぞうかのさんしん)』って呼ばれている。

さらに、この3人の後にも2人。なりなりと宇麻志阿斯訶備比古遅神(ウマシアシカビヒコヂノカミ)と天之常立神(アメノトコタチノカミ)っていう神様が現れて姿を隠した。この『造化三神』と、新しく生まれた2人を合わせた計5人の神様が『別天つ神(ことあまつかみ)』と呼ばれる特別な神様だ。

そしてここからも、とにかくたくさんの神様が、なりなりなりなりなりなり生まれてくるのだけれど、別に全員を覚える必要は無い。

だって、日本には『八百万の神々』が住んでいるのだ。

正直、覚えていられない。

いや、覚えたくもない。

それに、この先も話の中に出てくるのはタカミムスビとカムムスビくらいなものなのだ。

あ、あと、空気なミナカヌシがちょっぴりだけ。

ミナカヌシ

え。

さてさて。

こうして神様が増えてくると、おしゃべりも増え、そのうち天界は『高天原(たかまがはら)』、地上は『葦原の中つ国(あしわらのなかつくに)』、冥界は『根の堅洲国(ねのかたすくに)』と呼ばれるようになった。

地上はまだ固まっていないものの、植物らしきものが生えてきて、なんとなく世界も形ができてきた。そして、その世界の成長に合わせるかのように、さらにいろいろな神々が生まれてくる。

まずは、天と地の境界に成長を司る独神が2人生まれた。

そしてその次にやっと性別のある、男女ペアの神様が生まれてくる。

雲の神様が2人、泥の神様が2人、生命の神様が2人、エッチの神様が2人。

なんだかやっと自然の中に命が芽吹きそうだ。

そしてその中で一番最後に生まれたのが『お互いを誘う神様』。

伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)だ。

名前くらいなら聞いた事があるだろう。

なんせこれから日本の島々を産む神様なのだ。

そして、ここまでに生まれた2人の独神と、男女5組のペア神は合わせて、『神代七代(かみよのななよ)』って呼ばれるようになった。

こうして神々の数が増えると、高天原はだんだん活気に満ちてきた。

みんなの神力で神殿やいろんな施設を造ったり、田んぼや畑を造ったり。まだこぢんまりとはしているものの、なんだか和製の天空の城みたいだ。

しかしその一方で、葦原の中つ国は全く栄える気配が無かった。

海は広がっているものの、島も人も見当たらない。それを不思議に思ったミナカヌシは、タカミムスビとカムムスビを呼びつけて会議を開いた。

ミナカヌシ

ねぇねぇタカミぃー。葦原の中つ国ってば、海の上に油みたいのがぷかぷか漂ってるけど、あれ、なんか、さみしくない??

タカミムスビ

そうですか?

ミナカヌシ

だって、誰もいないんだもの。あれさ、自然とか、動物とか、人間とかでもっと賑やかに、わぁーって感じにできないかな??

タカミムスビ

いやぁ・・・我々は空に浮かべるからいいですけど、浮かべない人間があそこに住むのは難しいんじゃないですか?

タカミムスビ

せめて地面が固まっていれば生活のしようがありますが・・・

カムムスビ

あら。それならいいアイテムがあるわよ。

タカミムスビ

カムムスビ

『アメノヌボコ』っていう珠飾りの装飾が素敵な矛があるんだけど、地を固める神力があるの。確か、倉庫に置いてあったと思うわ。

このように3人は葦原の中つ国を盛り上げるにはどうしたらよいかを話し合い、その結果、末っ子のイザナギとイザナミを降ろし、国づくりをさせることに決めた。

ミナカヌシは早速イザナギとイザナミを呼びつけ、地上に国を作るよう命じた。そしてイザナギに神アイテム『アメノヌボコ』を手渡す。

ミナカヌシ

はい。コレで土地を固めて国をつくってきておくれ。

イザナギはその矛を受け取ると、まだあどけなさが残る顔の上にハテナを浮かべながら質問した。

イザナギ

え・・・・ "くに"って、 神とか、王とか、人とかがいるやつですか?

ミナカヌシ

そうそうそんな感じ。何か困ったことがあったら、いつでも帰っておいでね。

なんて、適当に答えてミナカヌシは2人を送り出した。

でも、実のところミナカヌシにも『国』って何なのかよくわかっていなかった。

ミナカヌシ

だって、この頃はまだ人間どころか島すら存在しなかったんだもの。

ミナカヌシ

しょうがないよね?

こうして、『日本』ってゆう小さな島国は、神々の気まぐれから作られることになった。

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