ドンガラさんと僕たちの代表が
一対一の一発勝負をして、
勝ったら背中に乗せてくれるという
ことになった。

ただ、ビセットさんは
何か気がかりなことがあるみたいで
眉を曇らせている。
 
 

トーヤ

どうしたんです?
ビセットさん。

ビセット

いけませんねぇ、
ソニア殿。
もう少し慎重になって
いただかないと。

ソニア

どういう意味?

ビセット

この勝負、
私たちが圧倒的に
不利なんですよ?

ソニア

どうして?

ビセット

だってこの勝負、
ドンガラ殿を
倒せばいいってワケじゃ
ないんですから。

ソニア

へっ?

シンディ

ビセットの言う通りよ。
浅はかというか、
敵の策略にはまったわね、
ソニア。

ソニア

意味わかんないんだけど?

 
 
ビセットさんの考えを察しているのか、
シンディさんも援護射撃をしながら
深いため息をつく。

それに対して首を傾げるソニアさん。
僕にもビセットさんたちが
どういう意図で話しているのか
分からない。

カレンとサララも
分かっていない感じかな。
 
 

シンディ

勝負に勝つだけなら
難しくないでしょう。
ソニアの実力ならね。

ソニア

とーぜんっ!

シンディ

でも勝ったあと、
私たちはドンガラに
乗せてもらって
北へ移動するのよ?

シンディ

ドンガラが
疲弊なり怪我なりして
万全ではない状態で
長旅をするのは
リスクが大きくない?

ソニア

……あ。

 
 
ソニアさんは
間の抜けたような声を漏らした。
でもようやくビセットさんたちの
話の意図が理解できたみたい。

僕もようやく分かった。
そしてそれはもっともな意見だ。

確かに勝負したあとのことも
考えていないといけない。
勝って終わりじゃないんだ。
 
 

カレン

でもそれなら
私たちが治療を
してあげれば
いいんじゃないですか?

ソニア

あっ、そうそう!
トーヤもカレンも、
シンディ自身だって
いるじゃない。

 
 
カレンの言う通り、
その意見は的を射ている。
当然、ソニアさんはそれに同意する。

でもシンディさんは治療する側だから
そのことを考えていないはずは
ない気がするんだよね。



――と思っていたら、
やはりシンディさんは
達観したような顔をして肩をすくめる。
 
 

シンディ

負けてヘソを曲げて
治療を拒まなければ
いいけどね。

ソニア

え……?

シンディ

私の施療院にも
結構いたわよ~?
薬を飲みたくないとか
治療を受けたくないとか
駄々をこねる患者さん。

カレン

な、なるほどですね。
あはは、確かに私にも
経験あります……。

トーヤ

う、うん、僕も……。
そういう患者さん、
説得するのが
大変なんですよねぇ。

 
 
うーん、さすが第一線で
治療をしてきたシンディさんだ。
まったくもっておっしゃる通り。

全ての患者さんが素直に言うことを
聞いてくれるわけじゃないのも
事実なんだよなぁ……。

なんかよく分かる。
ドンガラさんは
聞き分けがいいタイプでは
ないような気がする。
 
 

ソニア

そ、そこは無理矢理にでも
治療を――。

サララ

そんなことをしたら
急いで泳いでくれなくなる
かもですねぇ。

ソニア

…………。

ビセット

エグゾセさんが
おっしゃっていたでは
ないですか。
彼の性格を。

ビセット

頑固で偏屈……。

トーヤ

だから勝負に
勝てばいいってワケじゃ
ないんですね。

シンディ

そういうこと。
彼の機嫌を損ねず
なるべく傷付けず
勝たないといけない。

 
 
そういうことかぁ……。

確かにこれは分の悪い勝負かも。
僕たちのハンデがかなり大きいなぁ。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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