矢島と島本の調査のため、愁いの沼へ訪れた3人は道中で出会った老婆から話を聞いていた。

人が消える?

そうじゃ。
嘆きの巫女の怒りに触れてしまう。

驚く敬介に、老婆は険しい表情で頷きながら答える。

守り神を祀っているのに、行ってはいけないってどういうことだ。

その社を取り囲むように沼があり、そこで嘆きの巫女は身を投げたのじゃ。
そして、今もその時の姿で辺りを彷徨っている。

ゆ、幽霊ってことか。

約60年前のことで、わしも子供じゃったがそのことをよく覚えとる。

噂とかではなく、本当の話だったのね。

老婆の話は噂とかではなく、実際に起こった出来事として記憶に残っており、そのことを3人に伝えた。

まぁ、そっちには行かんことだ。
そこ以外なら普通の沼じゃから。

老婆はそう言い残すと、その場から立ち去って行った。

老婆を見送り、3人は顔を見合わせる。

どうする?
矢島さん達を追うなら、その社まで行かないと。

ああ。
さっきの婆さんの話も、そんなに信用できないからな。

うーん。
でも、さっきの話を聞いてから、ここも不気味に思えてきちゃった。

敬介と大宮は、そこまで恐れている様子はないのだが、美咲だけは老婆の話に少し影響を受けてしまっていた。

とりあえず、手がかりはその社だろうから、行ってみようか。

敬介がそう言うと2人も頷いたので、老婆が言った社の方向へと歩き出した。

社らしきものが見当たらないな……。

そうだね。
本当にこっちの方なのかな。

さらなる手がかりを求めて、老婆の言っていた社を目指しているのだが、全く見当たらない。

手分けでもするか?

そうだな。
あまり時間もかけていられないし。

そしたら、形山君はこの辺りをもう少し探してて。
私と大宮君もまた別の道に進んでみるから。

いったん、手分けして手がかりを探すことにし、それぞれが別の方向に歩いて行った。

手分けし始めてから数時間経ち、辺りは夕焼けに染まっている。

さすがに、何も見つからないってありえるのか?

スマホも圏外か……。

美咲と大宮と合流しようと思ったのだが、スマホは圏外で連絡が取れなくなってしまった。

どこか電波の入りそうな箇所がないか歩き回るが、状況が変わる気配はない。

沼から離れすぎたらマズイな。
霧も濃くなってる気がするし。

それに、光力を目に留めるって、やっぱりかなり疲れるな。

目をぎゅっと瞑り、沼の辺りまで戻ろうと振り返ったら、20m程先に人影が見えた。

美咲か大宮だと思い、声をかけようと2、3歩進むと歩みを止める。

…………。

見知らぬ髪の長い女性がそこに立っていた。

あれって、まさか……。

嘆きの巫女だなんてこと……。

後退ろうとした時に、落ちていた木の枝を踏んでしまい、音が鳴った。

その女性は敬介に気づき、足を1歩前へ出した。

…………。

うわぁぁぁぁぁ!!

第4章--愁いの沼編--(98話)-嘆きの巫女-

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