北へ移動するためには
やはりアーゴに乗って行くしか
良い方法はなさそうだった。

ただ、アーゴは生き物であって、
その当人に認められた者でないと
乗せてくれないとのこと。

しかも彼らは回遊する種族で、
今の時期はすでに彼らの多くが
北へ旅立ってしまったあとらしい。



タイミングが悪いというか、
一筋縄ではいかないなぁ。
 
 

トーヤ

とりあえず、
彼らの集落に
行ってみようよ。

トーヤ

このままここで
考えていても
埒があかないし。

ビセット

そうですね。
まずは現地へ行って
正確な状況や
詳細な情報を
把握しましょう。

カレン

私もそれに賛成。
それをもとに今後のことを
考えましょう。

サララ

ではでは、
れっつごーなのですぅ!

 
 
どうやら僕の提案は
受け入れられたようだ。
やっぱり今の状況のままだと
身動きが取りづらいもんね。

まだ北へ移動していないアーゴが
集落に残っていれば
交渉だって出来るだろうし、
もしダメだった時にも
次の何らかの対応を考えることが出来る。


それにここで考えている間に
残っていたアーゴが北へ移動してしまう
可能性だってあるわけだしね。

こういう場合は即断即行動あるのみだ。
 
 

カレン

それにしても
ビセットさんって
いつもの行動はアレでも
考え方は意外に冷静で
マトモなんですね。

ビセット

う……。
ヒドイですねぇ、
カレン殿……。

受付さん

では、
アーゴの集落の位置を
お教えしますね。

 
 
こうして僕たちは商人ギルドの
受付さんから
アーゴの集落の位置を教えてもらった。

簡単な地図も用意してくれて、
これなら迷わずに辿り着けそうだ。

なお、受付さんの話によると、
集落はこの町を出て
東ヘ一時間ほど歩いたところに
あるとのことだった。


そこは地平線の先まで続くような
広大な草原になっていて、
彼らはそこにテントのような
簡易的な住居を建てて
暮らしているらしい。

また、そこにはアーゴではない種族の
管理人さんみたいな人が定住していて、
土地の管理や整備などを
しているとのことだった。

だからそこへ行って誰もいないという
事態にはならないというか、
何らかの情報が得られるのは
確かだと思う。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その後、僕たちは町を出て
アーゴの集落がある方へ向かって
歩いていた。

見上げると
泳ぐ魚たちの姿がたくさんあり、
道端には水草が生い茂っている。
そういうのを見るとここが水中なんだと
あらためて実感する。
 
 

トーヤ

そういえばビセットさん、
町を出る前に
どこへ行っていたんです?

ビセット

あぁ、道具屋ですよ。
持っていた宝石を
少し換金して
集落の管理人さんへの
手土産を買ってきました。

 
 
 

 
 
 
見るとビセットさんの手には
ピンクや赤のラインの幾何学模様や
可愛らしい熱帯魚のようなイラストが
描かれた紙袋が握られている。

『春色菓子店』というロゴがあるから
中に入っているのは何かのお菓子かな?
 
 

ビセット

残ったおカネは
トーヤ殿に渡しておきます。

トーヤ

あ、すみません。
助かります。

ビセット

ついでに情報収集も
したのですが、
めぼしい情報は
得られませんでしたね。

カレン

ビセットさんって
気がきくんですね。
ホント、趣向以外は
マトモなんですね。

ビセット

カレン殿、
あいかわらず
ひとこと余計ですよ……。

カレン

あはっ、すみません。

シンディ

――カレンもまだまだね。
彼の本質が見えてない。

 
 
その時、シンディさんは
クスッと口元を緩めながら呟いた。

どこか達観したような雰囲気。
カレンとビセットさんのやり取りに
何か気になるところでもあるのかな?
 
 

シンディ

ビセットはこの中で
一番のくせ者よ。
私は最も警戒する
存在だと感じてる。

シンディ

……ま、趣向や
性格も別の意味で
警戒すべきだけど。

ビセット

カレン殿といい
シンディ殿といい
キツイですねぇ……。

ビセット

安心してください!
女子にはあまり
興味がありませんから!

シンディ

……そういうところよ。

ビセット

っ!?

 
 
ビセットさんの軽口に対し、
シンディさんは
ため息混じりに言い放った。


いや、単に言い放っただけじゃない。
どこか呆れているというか、
冷たくあしらうというか。

しかも少し怒りを含んでいるような
雰囲気も感じる。
 
 

シンディ

ふざけているように見えて
実は冷静。
何を考えているか
掴みにくい。

シンディ

トーヤやカレン、
サララの目は誤魔化せても
私はそうは
いかないからね?

ビセット

…………。

 
 
ビセットさんはポーカーフェイスを
維持しつつも、わずかに眉を動かした。
ほとんど分からないくらい、
ホントにごくわずか。

つまりこの反応、
シンディさんの言っていることが
おおむね当たっている
ということなのかも。
 
 

シンディ

とはいえ、
目的が一致している今は
敵対することは
ないでしょう。
その点は安心だけど。

トーヤ

目的ってなんですか?

シンディ

世界の滅亡を
阻止するということよ。

シンディ

忘れないで。
彼は勇者様の仲間であって
勇者様のためだけに
動く者。今も昔も。

シンディ

もし今後、私たち魔族と
勇者様が敵対したら
あっさりと私たちに
牙を向けるでしょう。

トーヤ

…………。

 
 
うーん、僕にはビセットさんが
そこまで無慈悲な人だとは
思えないんだけどなぁ。


確かにシンディさんの言う通り、
彼はアレスくんのために動いて
アレスくんが第一だってことは
なんとなく分かる。

勇者の審判者のひとりなワケだしね。




だけど彼にも彼の意思はあって
何の感情もなく行動するとは
思えないんだよなぁ。

――というか、
僕はそうであると信じたい。
 
 

シンディ

だから今はお互い
それなりにうまく
やっていきましょう。
ね? ビセット?

ビセット

あはは、
手厳しいですねぇ。
どうかお手柔らかに。

ソニア

ぷぷっ♪

シンディ

笑ってるけど
彼と同等にあなたにも
気を許すことはないわよ?

 
 
シンディさんはそう言うと、
今度はソニアさんへ厳しい視線を向けた。

それに対してソニアさんは
『へぇ?』という声を漏らしながら
不敵な笑みを浮かべている。
 
 

 
次回へ続く!
 

第342幕 敵か味方か? 警戒すべき者

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