「誰も入らない」





 それが全員で出した答えだった。



 散々話し合った末の答え。何人かが自分が犠牲になると申し出たが、それを易々とよしとすることも出来なかった。


 誰も選ばないは、目の前の白の処刑人に切られても良いと思ったわけではない。その選択が良い結果に繋がると信じたからだった。





 白の処刑人は、その決定を受け目を細める。全員が話し合っている姿を黙して凝視していた。暖炉の部屋で聞いた白の処刑人の昔話。ここにいる者達は、奇しくもその話に出てくる友人と同じ選択を選んだのだ。







 おそらくはもうすぐ六つ目の鐘が鳴る。それは感覚で分かる。処刑人としての役目を考えれば、鐘の音が鳴った瞬間、皆殺しにされる可能性が高い。はっきり言ってこの話し合いに到るまで、何を選べば正解などという確たるヒントはなかった。未知なる道を選ぶしかなかったのだ。

 最後の鐘が鳴り終わった。

 白の処刑人は鞘から剣を抜剣し、右手に構えた。

「自分の主から与えられた絶対的役目は、最終選択時の裁定。犠牲となる指輪所持者のみを助け、全員を切る役目。友を切った時も、自分の感情を押し殺しその役目を果たした。正しいとか結果どうなるかなど見ず、ただ役目を果たしたのだ。そしてそれから考え、気付いた。この役目は手段でしかないと。友を切り、後悔し、やっと気付いたのだ。主から試されていたのは貴様等ではなく自分だったと」





 そう語った白の処刑人は構えた剣をスラッと伸ばし、ヤマノが持つ指輪を剣先に引っ掛け、宙に浮かした。暗い部屋にも関わらず軽やかに手に掴む白の処刑人。



「手段とは目的を達する為のもの。自分は自分の責任の元、役目を決める!」

 鉄の指輪は、白の処刑人の手の中で自ら光を放った。その光はやがて暗い部屋を覆い尽くした。そして、全員の意識が遠のく時に声が聞こえた。




「オオフロンヅ・レンヴァーグ」


 白の処刑人の声。確かその意味は――





 ――――『満ち足りた道を行け』だった。

意識が戻った時、

元の居場所に居る事に気付いた。



夢だったと疑ったが

館があったことは

鮮明に記憶に残っていた。










言わずとも未来は未知だ。

だが満ち足りた道を行く事は可能だ。





あの場所で

協力した者達との思い出を胸に

それぞれは

自身の居場所で次の一歩を踏み出した。

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