敬介の驚く姿を見て、修太は立ち上がり、巨人の方を見つめる。
このまま放置するわけにはいかないからな。
さっきの形山先輩の攻撃で、けっこうダメージは入ってるみたいっすよ。
なんで、そんなことが分かるんだよ。
修太は、身に纏われた光力や影力を識別できるのよ。
マジか!!
敬介の驚く姿を見て、修太は立ち上がり、巨人の方を見つめる。
…………。
修太は、巨人から漏れ出した影力を確認した。
そのせいもあってか、時間が経過するごとに動きが鈍くなる。
やっぱり、形山先輩が最後に攻撃した辺りから、影力が漏れてるっすね。
わかった。
そこを狙えってことだな。
敬介と仁はすぐさま返答したが、剛や美咲、雪らは光力が切れかけていることを知っていた。
だとしても、全員光力は残ってるのか?
見たところ、形山先輩と仁さんがあと少し残ってるくらいっすね。
修太が全員の光力を確認するが、そろそろ全員の限界が近かった。
形山君、あとはお願い!!
仁もね。
おっし!!
おうっ!!
2人が巨人に向かって走り出すと、他の4人は祈るように見つめた。
そして、走りながら敬介は仁へと声をかける。
仁、お前と戦った時に最後に使った技をやる。
仁は巨人を見ることを止めずに走り続け、一瞬考えて、口を開いた。
……わかった。
そのための隙を作ればいいんだな。
だが、チャンスは一度きりだぞ。
ああ。
お前がそれを引き受けてくれば成功するさ。
ふっ。
任せとけ。
少しだけ笑みがこぼれるも、すぐさま光の斧を持ち、突進する。
斧走(ふそう)!!
仁が大声で叫び、巨人の足元へ向かったことで、完全に仁へと狙いを定めた。
動きは遅いが、当たればタダでは済まない威力を感じる右の拳が仁へと襲い掛かる。
ここで避けるわけにはいかねぇ。
俺の力と、形山の力を信じるぜ。
おらぁっ!!!!
仁の斧が巨人の右腕を砕くと、その勢いに押されて横向きに倒れこみ、泥や土が舞い上がる。
そして、弱点である右の脇腹があらわになる。
形山!!
さすがだな、仁。
仁が囮になっている隙に、敬介は巨人の真上に飛んでいた。
右足に残っている光力を全て込め、弱点を狙い落下する。
落撃!!
巨人の胴体を完全に断ち切ると、断片から影力が噴出していく。
辺りは少し影力でできた霧のようになる。
しかし、それも1分も経たずに消え去る。
そこには巨人の姿はなく、荒らされた森の姿があった。
そして、敬介と仁の元へ4人は駆け寄る。
やったね。形山君。
みんなで力を合わせたおかげさ。
あんな技もあるなら、俺は喧嘩売らなくて良かったっすよ。
俺のは喧嘩じゃねぇ。勝負だ!
お疲れ様。
でも、疲れたんだから大きい声出さないで。
形山、お前強くなったな。
お前に言われると、なんかバカにされてる気がすんな。
安堵からわいわい騒ぎだしてしまうが、そこへゆっくりと近づいてくるものがいた。
おいっ!大丈夫か?
まさか、こんなことになるなんて……。
フラつきながら葉栗はそう呟くが、敬介達の顔を見ることはできなかった。
ざわつきが沈黙状態となってしまうが、すぐに敬介は声をかけ直す。
なぁ。
もう動いて大丈夫なのか?
ああ。
なら、一緒に灯台へ戻ろう。
そろそろタイムリミットだ。
俺はいい。
お前ら先に行けよ。
葉栗が何か意地を張っているのは、その他の者も察していた。
しかし、全員が敬介と葉栗の間には割って入らずに見守ることにした。
一緒に戻ろう。
俺は、お前らを殺しかけたんだぞ。
少しでも罪悪感があるなら、これから沢山の人を助けると誓ってくれ。
それで十分だ。
…………。
目の前が見えなくなる。
それは本気だからこそだと思うんだ。
でも、仲間と力を合わせれば、仲間がいれば、そんな時でも道を照らしてくれる。
お前もその内の一人になってくれよ。
葉栗。
敬介の言葉が心に突き刺さる。
名家に生まれてから、友達もできずに仲間と呼べる存在もいない。
名家出身であることのプレッシャーから、誰よりも強くならなければ存在意義がないと悩むこともあり、自暴自棄になっていた。
この認証試練の開始にともない、光術士統一協会の「灯(ともしび)」の上層部から、正当な流れをくんでいない敬介と美咲を消すように、倉間とともに命じられている。
しかし、その命令とは別に、自身の価値を確かなものにするため、敬介達を倒そうと決めていた。
自分が背負ってきたプレッシャーで苦労しているなか、敬介や美咲はそれもなく、面白半分でこの世界へと踏み込んでいると思ったからだ。
でも、実際に敬介達が自分を救おうとし、さらに助け合いながら巨人を倒す姿を見て、今までにはない感情が芽生えた。
言葉より先に体が動いた。
そんな中、敬介からは今までずっと欲しかった言葉をもらえた。
仲間。
ありがとう。
悪かった……。
涙があふれ、深くお辞儀をして謝罪した。
気にすんな。
行こうぜ!!
よかった。
めでたし、めでたしっすね。
…………。
さぁ、戻ろうぜ!!
仁、あんたはほんと元気ね。
敬介は涙をぬぐう葉栗の背中をたたく。
そして、7人は夕暮れ灯台へと歩き出した。