僕たちが隔世の門を通り抜けると、
そこは海の中だった。

周囲では
色とりどりのサカナたちが優雅に泳ぎ、
海草がゆらゆらと漂っている。
 
 

トーヤ

きれいだなぁ。

トーヤ

――って、
それどころじゃない!

 
 
ハッと我に返った僕は慌てて息を止めた。
まさかの事態に混乱しながら、
手足をばたつかせる。

僕と同様にほかのみんなも
手で口を塞いで狼狽えている。




――唯一、ソニアさんを除いて。
 
 

トーヤ

なんでソニアさんは
余裕の表情を浮かべて
落ち着いてるのっ?

ソニア

あ、みんな。
普通に呼吸できるから
慌てなくて大丈夫だよ。

トーヤ

へっ?

ソニア

ここは海の中だけど、
呼吸できるの。
それがこの水の世界。
水中呼吸の魔法も
必要ないから。

トーヤ

ホントかな……。

サララ

あ……。
息が出来ますぅ。
良かったぁ。

ビセット

……そのようですね。
一時はどうなるかと
思いましたよ。

トーヤ

…………。

 
 
サララやビセットさんの反応を見て、
ちょっと怖かったけど思い切って
口を開いて深呼吸してみた。

すると不思議なことに息苦しさはなく
普通に息が出来ている。



そっか、
僕たちの世界とは似ているようで
違う面もある。
それが異世界だってことを
すっかり忘れてた。

だとしても水中で呼吸が出来るなんて
やっぱり驚きだなぁ。
 
 

カレン

サカナって
こんな気分
なのかしらね。

トーヤ

そうかもね。

ソニア

あ、念のために
注意しておくけど
ここは水の中。
それを忘れないでね?

トーヤ

えぇ、それは
分かってますよ。

ソニア

ホントかなぁ?
火系の魔法や道具は
そのままじゃ使えない
ってことだからね?

トーヤ

あ、そっか。

ソニア

やっぱり分かって
なかったじゃん。

トーヤ

う……。

 
 
ソニアさんのツッコミに
僕は返す言葉もない。



そうか、これは僕にとっては
思った以上に制約が
多い世界かもしれない。

まず普通に調薬は出来ない。
それと安易に薬を開封できない。
フォーチュンの弾だって
今まで通りの動きをするとは限らない。

これは厄介だぞ……。
 
 

ソニア

そういう色々な点が
違っているから
注意してね。

トーヤ

はい、
肝に銘じておきます。

ビセット

ところでソニア殿、
水の欠片を使って
悪事を働いている者は
どこにいるのでしょう?

シンディ

ソニアさんは
それが
分かるんですよね?

ソニア

ここから北の方よ。
かなり距離があるから
自力で移動するのは
ちょっと骨が
折れるわね。

ソニア

とりあえず、
あっちに町が
あるみたいだから
行ってみましょう。

 
 
ソニアさんの指差した方向には、
確かに街並みのようなものが
小さく見えている。

これならそんなに時間がかからずに
辿り着けそうだ。



それにしてもその町の光景は
僕たちの世界にあるのと同じみたい。
水の中とは思えない感じだなぁ。
 
 

トーヤ

乗り物が調達できると
いいですねぇ。

サララ

水中だけに
バシャバシャって、
馬車ですか?

 
 
 
 
 

トーヤ

…………。

カレン

…………。

ビセット

…………。

シンディ

…………。

ソニア

さ、急ぎましょう。

サララ

みんな反応して
くださいよぉ!

 
 
こうして僕たちはサララのダジャレを
聞かなかったことにして、
町へと向かって歩き出したのだった。
 
 
 

サララには悪いことをしたかもだけど。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第339幕 水の世界は溺れそう!?

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