皇帝やテムートの野望を打ち砕き、
地の世界にとりあえずの平穏が訪れた。

そのニュースは数日のうちに
地の世界の隅々まで行き届き、
暫定的に僕たちや地竜、シーフギルドが
政治を主導することになった。




ま、僕たちは政治なんて出来ないから
実質はフィッチさんやシーフギルドが
色々とやってくれているけど。

女王様やノーサスさん、クリスさん、
マイルさんあたりがいてくれたら
良かったんだけどね。

だから僕たちは元の世界へ戻るまでの
短い間だけど、
監査役みたいな感じで
政治に関わることになったのだった。







そしてテムートを倒してから
1週間ほどが経過したころ、
僕は城内に割り当てられた
フィッチさんの部屋へやってきた。

それはとある目的があったからで――。
 
 

族長フィッチ

何か話があるようだな?

トーヤ

はい。もう一度、
空の散歩へ連れていって
いただけないかなと。

族長フィッチ

ふむ、よかろう。
この世界を救った者の
頼みだからな。

トーヤ

僕だけの力じゃ
ありませんけどね。

族長フィッチ

ふふ、分かっている。
では、善は急げだ。
早速、出発しよう。
都合はよいのだろう?

トーヤ

はいっ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
こうして僕は
フィッチさんの背中に乗せてもらい、
城を飛び立った。

風が気持ちよくて
何度乗っても楽しい気分になる。



そして上空に達してしばらく飛んだ時、
フィッチさんがおもむろに口を開く。
 
 

族長フィッチ

さて、そろそろ本題に
入ろうではないか。
ここなら誰にも
聞かれることはない。

族長フィッチ

私だけに話したい何かが
あるのだろう?

トーヤ

やはりお気づきでしたか。
ま、空の散歩を
したいというのも
嘘ではないんですけどね。

族長フィッチ

で、どうしたというのだ?

トーヤ

気がかりがあるんです。
シーフギルドのこと
なんですけど……。

族長フィッチ

ヤツらがどうかしたか?

トーヤ

何か裏があるのでは
ないかと。

族長フィッチ

ふむ……。

 
 
そう、それが帝都を攻めた時から
感じていた気がかりだった。

きっかけは――
 
 

トーヤ

どうして彼らは
ハイブリッドモンスターの
情報を僕たちに
教えてくれなかった
のでしょう?

族長フィッチ

確かに戦略に関する
有益な情報は
多い方がいいからな。

トーヤ

そのせいでソニアさんが
一時的とはいえ
釘付けにされました。
それで僕たちはピンチに
なりましたし。

 
 
ハイブリッドモンスターの情報を
事前に知っていれば、
帝都攻撃前に何らかの対策がとれた。

そうすればテムートとの戦いに
最初からソニアさんが参加できたんだ。



そしてシーフギルドは
帝都に関する情報を
かなり詳しいところまで
調べ上げていたわけで、
ハイブリッドモンスターのことを
知らなかったとは考えにくい。

だとすると、
あえて僕たちにその情報を
知らせなかったんだろうと思う。
 
 

族長フィッチ

おそらくは
トーヤたちの実力を
試したかったのだろう。

族長フィッチ

そしてあわよくば
テムートとつぶし合わせ
漁夫の利を得ようと。
そんなところだろうな。

トーヤ

…………。

族長フィッチ

もし皇帝どもが勝っても
その手負いの状態であれば、
ギルドメンバーが
総力を挙げれば殲滅できる。
そう踏んだのだろう。

族長フィッチ

それならどちらが
勝っても利がある。
抜け目のない連中よ。

 
 
すんなりと答えるフィッチさん。

淡々としていて、
特に怒りとか悲しみとか
そういった感情は感じられない。

あくまでも冷静に
考えを述べているだけといった雰囲気だ。
 
 

トーヤ

フィッチさんはそれを
分かっていたんですか?

族長フィッチ

結果を見て察しただけだ。
いくら私でも
最初から全てを見通せる
わけではない。

トーヤ

そうですか……。
でもそれなら話は
早いかもですね。

族長フィッチ

というと?

トーヤ

この世界のこと、
フィッチさんや地竜の
皆さんにお任せ
したいんです。

族長フィッチ

ふむ……。

トーヤ

僕たちはもうすぐ
この世界から去ります。
頻繁に戻ってくることは
きっと出来ません。

トーヤ

だからもし彼らが
暴走をしたら遠慮なく
殲滅してください。

 
 
僕のその言葉にフィッチさんは
少し驚いているようだった。

そんな過激な話が僕の口から出るなんて
思わなかったのかもしれない。

しかも冗談交じりとかじゃなくて、
大まじめに言っているわけだから
なおさらだ。



それからわずかな間があって、
フィッチさんは静かに問いかけてくる。
 
 

族長フィッチ

……良いのか?
もし本当にその時が来たら
私は本気でやるぞ?

トーヤ

最終的な判断は
フィッチさんに任せます。
この世界のことは
この世界の皆さんで
決めるべきですし。

トーヤ

ただ、みんなが
小さな幸せを
感じ続けられるような
そんな世界に
してほしいんです。

 
 
ちょっとドライな感じになるかもだけど、
この世界を治めるのが誰であろうと
僕には知ったことじゃない。

ただ、私利私欲で政治をおこなうのなら
なんのために皇帝を打ち倒したのか
分からない。

皇帝がしたようなことを繰り返しては
意味がないんだ。




全員が満足する政治をおこなうのは
きっと難しい。
女王様やノーサスさんだって
それは出来ていない。

でもひとりでも多くの人が
幸せを感じられるような、
そんな世界なら目指せる。

そこへ向かってみんなが協力して、
努力して、ともに歩んでほしいんだ。
 
 

族長フィッチ

なるほどな。
それで私に白羽の矢が
立ったわけだな。

族長フィッチ

竜族は魔族や
人間に比べれば
多少は精神的に上位で
あるわけだからな。

トーヤ

はい。
地竜の皆さんなら
僕たちよりも
心が清らかというか
お任せできると思うので。

族長フィッチ

……承知した。
それに目付役も
いることだしな。
我らも暴走することは
ないだろう。

トーヤ

目付役?

族長フィッチ

それは私の口からは
言えぬことだ。
だが、近いうちに分かる。

トーヤ

はぁ、そうですか。

 
 
フィッチさんの言葉の意味は
分からなかったけど、
何かあるのだろうか?

いずれにしてもフィッチさんは
僕のお願いを聞き届けてくれたから、
これで少しは息をついて
この世界を旅立つことが出来ると思う。



そっか、もうすぐ地の世界とも
お別れなんだね。
そう考えると寂しさも感じるなぁ。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第331幕 気がかりなことと世界の未来

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