グランの命令が絶対だというテムートに
交渉は無意味だった。

グランの娘であるカレンが話をしても
ダメなんだから、
もっと部外者である僕たちが
説得しても応じてくれるはずがない。


やっぱり戦いは避けられないか……。
 
 

テムート

――と、そちらにも
懐かしい顔がおるな。
ルシードよ。

ルシード

…………。

トーヤ

えっ?

 
 
テムートはルシードの方に顔を向け、
ニタリと微笑んだ。

一方、ルシードは口を噤んだまま
その場に佇んでいる。



もしかしてルシードもテムートと
知り合いなのっ!?
だとすると、どういう関係なんだっ?
 
 

テムート

まさかこんな形で
再会することに
なるとはな。
これも運命か……。

ルシード

そうかもな。
縁ってのは
メンド臭いもんだな。

トーヤ

ルシード、
あの人と知り合いなの?

ルシード

隠れ里へ住み着く前、
かつて俺が仕えていたのが
あいつのバカ息子さ。

トーヤ

えっ!?

ルシード

前にトーヤに
話したことがあると思うが
俺の能力を疎み
散々嫌がらせをしたのが
ヤツの息子のヘロドだ。

トーヤ

そんな……。

 
 
確かルシードの家は
とある貴族に代々仕えていたんだけど、
高い能力を持って生まれたルシードは
仕えていた人に妬まれ、追いやられ、
僕の住んでいた隠れ里へ
流れ着いたって聞いたことがある。

まさかその貴族というのが
テムートだったなんて……。
 
 

テムート

そしてヘロドの元から
去ろうとしたルシードを
抹殺しようとして
返り討ちにあった。
数人の側近たちとともに。

トーヤ

えっ!?
ルシードは静かに
貴族の元を去ったんじゃ?
力でねじ伏せるのは
弱い者イジメみたいで
イヤだからって。

ルシード

ははは、
トーヤにバレちまったな。
それは嘘だ。
素直に逃がしてくれれば
そうしたかったし、
そういう気で
いたんだけどな。

 
 
ルシードは悲しげな瞳で苦笑した。

きっと彼は自分の過去の業を、
その事実を
僕に知られたくなかったに違いない。


でもそれは自分勝手な
想いからではなくて
弱い僕を怖がらせたり、
僕の心を傷付けたくなかったり、
そういう優しさが根本にあるのだと思う。


だからこそ、
僕も自分の想いを
ルシードに伝えなきゃ!
 
 

トーヤ

あのね、僕は何があっても
ルシードの味方だよ。
ルシードが僕のことを
ずっと大切な友達だって
思ってくれているように。

トーヤ

僕の正体を知った時に
ルシードは
そう言ってくれたよね。
それと同じさ。

ルシード

トーヤ……。

トーヤ

ルシードの全てを
僕は受け入れるよ。
僕たちはずっと友達だよ。

ルシード

トーヤ、
ありがとな……。

 
 
ルシードの瞳には
涙の粒が輝いていたような気がした。
でもそう感じてくれたのは
僕としても嬉しい。

ずっと友達だよ、ルシード……。
 
 

テムート

ヘロドもバカなヤツだ。
ルシードの力量を
見抜けぬとは。
並みの魔族では束になって
かかったとしても
勝てるわけがない。

ルシード

ふーん、
サバサバしてるな。
もっと俺のことを
恨んでいると
思っていたんだがな?

テムート

弱者は強者に従うのみ。
それが魔族だ。
恨むはずがない。

ルシード

それなら親子ともども
俺が引導を渡してやるよ。

 
 
ルシードは剣を抜いて
切っ先をテムートの喉元へ向けた。

その静かな雰囲気の中に
背筋が寒くなるような威圧感と
敵意が膨れあがっている。

だが、テムートはそれに怯むどころか
楽しげにクククと笑う。
 
 

テムート

良いぞ、その冷たい瞳。
やはりお前も根は魔族か。
せいぜい楽しませてくれ。

ルシード

トーヤ、エルム。
俺とカレンが
直接攻撃を仕掛ける。
お前たちはサポートに
専念してくれ。

トーヤ

分かった。

エルム

はい。

カレン

行きましょう、
ルシードさん。

 
 
カレンもレイピアを構え、
今にも戦いが始まろうとしていた。
いよいよテムートと
決着を付ける時が来たみたいだ。

僕もフォーチュンを手にとって
いつでもカレンたちの援護が
出来るように
気持ちを引き締める。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第324幕 ルシードの過去と罪

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