僕は回復薬の準備を終え、
覚悟を決めて族長さんへ合図を送った。

すると族長さんはゆっくりと
僕に向かって手を伸ばしてくる。



筋骨隆々とした手と
空間さえも切り裂くような鋭い爪。
程なく僕の左腕はそこに包まれる。

ちょっとひんやりとして――
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

ぐがぁあああああぁっ!
あぁああああぁーっ!
あ……ぁ……っ……。

カレン

トーヤっ!

 
 
あ……ぁ……ああああああぁーっ!


あぐっ!
がぁああああぁっ!!!

はぁっ! はぁっ!
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

ん……。

トーヤ

あ……ぁ……。

 
 
這々の体で手を伸ばし、
夢中で飲み込んだ回復薬が
体の細胞の一つひとつに染みこむ。

それと同時に
爽やかな清涼感が脳を突き抜けていく。




あぁ、心地良い。
怪我が癒えていくのがハッキリ分かる。

生きているというのは
かくも素晴らしくて、
かくも苦しいものなのか。


今までに何度か
死にかけたことはあったけど
そのどれよりもそれを強く感じる。
 
 

トーヤ

う……く……。

族長フィッチ

次の一撃を受ける
準備が整ったら
申し述べよ。
待っていてやる。

トーヤ

あ、ありがとう
ございます……。

 
 
容赦ないなぁ、族長さん……。
もちろん、何を今さらって感じだけど。



あぁ、滝のように脂汗が出てる。
額も体もびっしょりだ。
全ての汗腺から溢れ出たような感じ。

しかもさっきの一撃を食らった瞬間、
あまりの痛みで心臓が
止まったかのような錯覚すらしたし。


手に包まれて腕が締まったかと思えば
直後にボキッという音がして
わずかなタイムラグがあってから
激痛とマグマのような高熱が
一気に襲ってきたもんなぁ。





あぁ、こんなこと……
何回も繰り返すとなると
いずれ確実に失禁するな……。

そんな姿、
カレンたち女子には
見られたくないな……。


これがあと99回も続くのか……。

ううん、たった99回だ。
それで地竜たちが協力してくれるんだ。
負けるもんか。
 
 

トーヤ

族長さん、次の一撃を。

族長フィッチ

フィッチ。
私の名はフィッチだ。
今後は名で呼ぶことを
許そう。

トーヤ

フィッチさん、
お願いします。

族長フィッチ

うむ。

 
 
僕は呼吸を整え、次の一撃に備えた。

でもその攻撃の前に
フィッチさんはティアナさんの方へ
チラリと視線を向ける。
 
 

族長フィッチ

ティアナよ、
よく見ておけ。
トーヤの覚悟を。

ティアナ

っ!?

族長フィッチ

力で従わせることが
全てではない。
強く清らかな心が
時に何者をも弾き返す
力となる。

ティアナ

…………。

族長フィッチ

お前は初手から
自分の力で無理矢理に
従わせようとした。
それはある意味、
真の力ではない。

族長フィッチ

心を通わせ
共に道を
切り開いていく。
その時に無限の力が
引き出されるのだ。

族長フィッチ

それこそが真の力。
本来あるべき
ドラゴンと
ドラゴンマスターの姿。

族長フィッチ

主従の関係ではない。
同格にある同志なのだ。
それを忘れてはならぬ。

ティアナ

あ……。

 
 
 
 
 

族長フィッチ

カレンよ、
お前はこの場に残れ。
トーヤのサポートを許す。

カレン

あ、は、はいっ!

族長フィッチ

カレンと
ティアナ以外の者は去れ。
私とトーヤとの約束が
果たされるまでな。

ミドル

それはいいけどよ、
トーヤに
やり遂げられんのか?

ルシード

トーヤならやるさ。
俺たちは信じている。

ミドル

へぇ……。

ソニア

行きましょう。
私たちは帝都を攻める
作戦の詳細を
詰めておきましょう。

エルム

ですね。

 
 
こうしてその場には僕とフィッチさん、
カレン、ティアナさんだけが残された。


もしかしたらフィッチさんが
心を読み取って
僕の情けない姿を
みんなに見せないように
配慮してくれたのかも。

てはは、つまり僕への攻撃をする気が
満々なんだね……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第314幕 ドラゴンとドラゴンマスター

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