僕たちの乗った空飛ぶマットは
膝の高さくらいまで浮かび上がり、
地面の上を滑るように進んでいった。

まるで疾走する馬車に
乗っているかのようなスピードなのに
揺れも慣性も全く感じない。

それなのに風を切る感覚や空気の匂い、
お日様の暖かさなんかは
しっかり感じられる。

本当に不思議だ。
どういう原理なんだろ?




いずれにしても
これならずっと乗っていても
お尻が痛くなることはないし、
勢いで振り落とされることもない。

便利な魔法だなぁ。
確かにこれに慣れちゃうと
歩いて旅をする気なんてなくなりそうだ。
 
 

トーヤ

エルム、このペースだと
首都にはいつくらいに
着くかな?

 
 
僕はマットの後方に座っているエルムに
声をかけた。

ちなみに僕は進行方向右側の後方に座り、
左隣にはカレンが座っている。


前方はソニアさん、
左側前方がルシードで、
後方にティアナさんという
位置関係になっている。
 
 

エルム

何事もなければ
日没前には
着くかもしれませんね。

トーヤ

モンスターの襲撃とか
道に障害物がなければって
ことだね。

カレン

モンスターは別として、
障害物なら
もっと高く飛べば
越えられるんじゃない?

トーヤ

あ、そうかもね。

ソニア

無理よ、無理。
高くしようとして今より
魔法力を強めると、
マットが木っ端微塵に
なっちゃうから。

トーヤ

耐久力に問題が
あるってことですか。

ソニア

そういうこと。

ルシード

使えなねぇな。

ソニア

……ルシードくぅん。
キミだけ降りてくれても
いいんだけど?

ルシード

トーヤを困らせる気か?
それでいいのか?

ソニア

う……そう来たか……。

ティアナ

ま、障害物でも
モンスターでも
邪魔者は排除して進めば
いいだけのことでしょ。

ティアナ

私たちの戦力なら
何も問題ないと思うけど。

ソニア

それもそうね。
その方がよっぽど楽だわ。
爆発魔法で吹き飛ばして
やりましょう。

ティアナ

私の活躍する分も
とっておいてよ!

ルシード

俺の分もな!

トーヤ

…………。

エルム

……兄ちゃん、
心中お察しします。

カレン

だ、大丈夫よ、トーヤ。
何も起きないって。
元気出して!

トーヤ

……ありがと。

 
 
――あぁ神様。
どうかこのまま何も起きずに
首都まで辿り着かせてください。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
僕の祈りが神様に届いたのか、
その後は特にアクシデントもなく
進んでいくことが出来た。

そしてエルムの予想した時間よりは
少し遅れたけど、
日没直後に首都のブロッコへ
辿り着くことが出来たのだった。



この町は周囲が城壁に囲まれていて、
出入りをするためには
通用門で審査を受け
通行税を支払う必要があると
立て看板に書かれている。

でもそれは別に珍しいことじゃなくて、
僕たちの世界でも
よくあることなんだけど……。
 
 

ルシード

な、なぁ……
これって書き間違いじゃ
ないよな……?

トーヤ

う、うん……。
たぶん……。

 
 
看板を見ていた僕たちは
そこに書かれていた通行税の額に
度肝を抜かれていた。

というか、
驚きすぎて思わず笑っちゃってるくらい。
 
 

トーヤ

ひとり5000ジルだって。
1ジルが僕たちの世界の
10ルバーくらいだから
つまり――。

カレン

5万ルバーってことね。

ルシード

高ッ!?

 
 
5万ルバーというと
王都の最高級ホテルに宿泊して
豪華な食事まで付くような額だ。

一応、ハテノ村で換金したから
この世界のおカネはあるけど、
それでも10万ジルくらいしかない。

持っている宝石を換金すれば
用意できない額じゃないけど……。




ちなみにそういう
僕たちみたいな者のために
通用門の横には粗末な小屋があって、
古物商みたいな人が
持ち物の買取をやっている。
 
 

ソニア

破っちゃう?

トーヤ

え? 破っちゃうって
何をです?

ソニア

通用門。実力行使。

トーヤ

ダメですよっ!
そんなのっ!!

エルム

せめてこっそりと
忍び込むくらいに
しておきましょう。

トーヤ

エ、エルムまで
そんなことを……。

ティアナ

じゃ、ニセ金?

トーヤ

すぐにバレますよ!

カレン

セーラさんがいれば
本物と遜色のないニセ金を
作ってくれただろうなぁ。

トーヤ

カ、カレン……。

ルシード

じゃ、トーヤは
バカみたいに高い税金を
払って通る気なのか?

ソニア

おカネは大事だよー♪

トーヤ

う……。

 
 
確かにここで大金を失うのは痛い。
今後の旅がどうなるか分からないのに
使ってしまうのはどうなのか……。

だからといって目立つ行動はしたくない。


どうすればいいかな……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第290幕 首都到着でも問題山積……

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