僕たちは路地の奥にある
食堂へやってきた。
どうやら1階は食堂で
2階は宿になっているらしい。

ただ、店の周りは静まり返っていて、
奥からも何の物音もしない。
人の気配もない。



営業しているのか怪しい感じだけど
ドアは開放されたままになっているから
やってはいるんだろうなぁ、たぶん。

少し不安になりつつも、
僕たちはその店に入る。
 
 

トーヤ

こんにちはぁ。

 
 
声をかけたけど、何の返事もない。



ちなみに店内には誰もいなくて、
テーブルなども最近は使われたような
痕跡が感じられない。

うっすらと埃もかぶってるもんね。


照明も消えたままで薄暗く、
やっぱり営業して
いないのかもしれないと思えてくる。
 
 

トーヤ

こんにちはーっ!

 
 
 
 
 

…………。

 
 
 
 
 

トーヤ

返事がない。

……は、はーいっ!

 
 
諦めて店を出ようかと思った矢先、
ようやく店の奥からかすかな返事が
聞こえてくる。

声の感じだと幼い女の子かな?



それから程なくその声の主が現れる。
 
 

お待たせしましたっ!
いらっしゃいませ!
宿泊のお客様ですか?

 
 
息を切らせてやってきたのは
見た目がエルムと同年代くらいの
女の子だった。


服はあちこちが汚れているけど、
これはきっとお店の仕事で付いた
『働き者の勲章』って感じのものだ。

ただ、それゆえに
疲労が溜まっているのか
顔色があまり優れない。
 
 

ルシード

俺たちは宿泊じゃなくて
食事をしに来たんだが。

あ……。

すみません。
食堂は休業中なんです。
料理を作れるお母ちゃんが
寝込んじゃってて。

ティアナ

病気なの?

えっと……たぶん……。
数日前から……。

カレン

お父さんは?

数週間前の地震で
崩れてきた塀に
足が埋まって
怪我しちゃいまして。

全然良くならなくて……。
最近は病気にも
なっちゃったみたいで。

トーヤ

っ!?

お母ちゃんもその数日後に
倒れちゃって。
同じ病気かも……。

トーヤ

…………。

 
 
――嫌な予感がする。



それは僕だけじゃなくて、
カレンやティアナさんも同じように
感じているみたいだ。

だから僕たちは顔を見合わせ
目で合図を送りつつ息を呑む。
 
 

カレン

お医者さんには診せたの?
薬は飲んでる?

村にいるお医者さんは
簡単な治療しか出来なくて。
首都から偉いお医者さんを
呼ぶおカネないし。

それでも宿なら
私だけでなんとか営業が
できるので。

トーヤ

えっ?
じゃ、ひとりで仕事を!?

おカネを稼がないと
村のお医者さんの薬さえ
買えなく――
ゴホッ! ゴホッ!

 
 
突然、女の子は咳き込んで、
その場にうずくまってしまった。
即座にカレンが女の子に駆け寄って
様子を観察する。

これはもしかしたらこの女の子自身も
感染症にかかっているのかも。
詳しく診察しないと分からないけど。


ただ、疲労で自己治癒能力も
落ちている感じだから充分にあり得る。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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