僕はカレンの体を元に戻す薬を調薬する
最終段階へ入った。

あとはこの魔方陣の中で、
薬となる液体へ
生命エネルギーを注ぎ込むだけだ。
 
 

トーヤ

神様、
どうかカレンを救うための
力を貸してください。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
僕は深呼吸をすると、
小瓶を握りしめながら念じ始めた。

すると次第に全身から
力が抜けていくような
感覚に陥っていく……。



まるで自分が風船になって、
空いた穴から空気が抜けて
どんどん萎れていくような感じ。

しかも心拍数は上昇を続け、
気を抜いたら
意識が飛んでしまいそうになる。

息を吸い込んでも
うまく呼吸が出来なくて苦しい。




まさに命が削られていくような
猛烈な疲労感。
冷や汗で全身がびっしょり濡れて、
寒気もする。

膝ががくがくと震える。


薬の代償として
寿命のほとんどが失われるらしいから
この苦しさも当然かも。

それを考えたら、
この程度の苦しみはむしろ楽なのかも。





でもこれでカレンが元の姿に戻れるんだ。
これくらい耐えないでどうする?

僕は自分の命を薬に分け与える感覚で
必死に耐えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どれくらいの時間が経っただろうか。
それはわずか数秒だったのか、
それとも数時間だったのか。

必死だったから時間の感覚は分からない。

でも苦しみに耐え続けていると
不意に全身から苦しさが消え失せ、
全身が軽くなったような感じになった。






天国にでもいるかのように
体がすごく楽だ。

まるで薬に命を注ぎすぎて
僕自身が死んでしまったのではないかと
錯覚するほど。


そうか、これが薬が完成した合図なんだ。
直感的にそれが分かる。

僕はゆっくりと目を開ける。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

こ……れは……!?

 
 
手にしていた小瓶の中は
散りばめた星々のように
きらきらと輝いていた。

漆黒の中に浮かぶ銀河のようで
思わず見とれてしまう。



きっとこれが生命の輝き。
瓶を通して命の息吹が伝わってくる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ギーマ

よくやったな。
薬は完成だ。

トーヤ

ギーマ老師……。

トーヤ

う……ぁ……。

 
 
僕は急に目まいがして倒れそうになった。

でもすぐにモフモフが僕を包み込んで
体が支えられる。
温かくて心地良い。

見るとカレンが
受け止めてくれたようだった。
 
 

カレン?

お疲れさま、トーヤ。
私のために
薬を作ってくれて
ありがとう。

トーヤ

カレンのためだもん。
これくらいへっちゃらさ。

ギーマ

トーヤ、お前は
しばらくゆっくり休め。

トーヤ

はい……。

ギーマ

この薬は服用すると
反動でしばらくは
安静が必要になる。
カレン用のベッドも
用意しないとな。

ライカ

では、ミリーさんや
エルムくんのいる部屋に
ふたりのベッドを
用意しましょう。

ギーマ

そうだな。ライカは
ほかの連中と協力して
準備を始めてくれ。

ライカ

はいっ。

 
 
ライカさんは調薬室を出て
準備に向かった。
 
 

ギーマ

カレンはすぐに
その薬を飲め。
一秒でも時間が惜しい。

カレン?

そっか、
こうしている間にも
体の組織は
モンスター化が進行して
いるんですもんね。

ギーマ

そういうことだ。

 
 
僕はカレンから離れると、
調薬室のイスに座って
様子を見守ることにした。

一方、カレンは薬の小瓶を手にとって
それをじっと見つめている。
 
 

ギーマ

さぁ、早く飲め。

カレン?

……これにはトーヤの
命が込められてるんだよね。

ギーマ

そう思うんなら
さっさと飲んで、
元の姿をトーヤに見せて
安心させてやることだ。

カレン?

……はいっ!

 
 
カレンは小瓶の中の薬を
一気に飲み干した。

すると程なく全身が輝きだし、
モンスター化していた体が
徐々に元の姿へと戻り始める。



でも服を着ているわけじゃないから
体は裸のまま。
照れくさくて気まずくて、
途中から目を逸らしてしまったけど。
 
 

カレン?

あ……ぁ……。

カレン

…………。

 
 
しばらくしてカレンの体は
完全に元に戻った。

ただ、その反動なのか
そのまま倒れ込んで意識を失っている。
 
 

ギーマ

トーヤ、よくがんばったな。
薬は成功だ。
何日か休めば
お前もカレンも普通の生活に
戻れるだろう。

トーヤ

それは良かったです。

ギーマ

安心して今は休め。

トーヤ

は……はい……。

 
 
 
 
 

 
 
ギーマ老師の言葉を聞いた途端、
僕の意識は失われた。

ずっと緊張の糸が張りっぱなしで
精神的にも限界だったからかもしれない。
全てが無事に終わって
気が抜けたのかな?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
気が付いた時、
僕は王都の病室で寝かされていた。

意識を失っている間、
みんながこちらへ運んでくれたんだろう。


そしてそのタイミングで
たまたま病室にやってきた
お城のメイドさんの話によると、
僕はあの時から二週間以上、
意識を失っていたということが分かった。
 
 

カレン

トーヤ!

トーヤ

カレンっ!?

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
ベッドの上で上半身を
起き上がらせていた僕に
カレンは駆け寄って抱きしめてきた。

どうやらメイドさんの報告を聞いて
駆けつけてきたらしい。
カレンの様子を見る限り、
彼女の方が先に回復していたみたい。
 
 

トーヤ

おはよう、カレン。
無事で良かった。

カレン

やっと意識が戻ったのね?
大丈夫だと聞いていても
二週間以上なんて
さすがに不安になるわよ。

トーヤ

てはは、ゴメンね。
それにしてもカレン、
薬品の臭いがするね。
診察をしてたの?

カレン

一昨日から少しずつ
診察を再開したの。
お城には怪我人だらけ
だからね。

カレン

ライカさんもがんばって
くれてたのよ。

トーヤ

そうだったんだ。
じゃ、僕も早く
復帰しないとね。

カレン

いいのよ、ゆっくりで。
英雄様はしっかり
静養してください。

トーヤ

英雄だなんて……。

カレン

でも世間では
トーヤのこと
英雄視してる人が
たくさんいるみたいよ?

トーヤ

そうなのっ!?

カレン

今回の戦いを勝利に導いた
キーマンだもんね。

カレン

その……トーヤの……
か……彼女としては、
誇らしい限りよ。

トーヤ

えっ?

 
 
カレンは頬を真っ赤にして照れていた。

そっか、僕のこと、
恋人として認めてくれてるんだ。
それは嬉しいな。
 
 

トーヤ

ところで、
ギーマ老師も手伝って
くれてるの?

カレン

さすがに
現役引退だって。
調薬も満足に出来なく
なっちゃったから。

カレン

今は女王様の
相談役に就任したわ。

トーヤ

そっか。

カレン

アドバイスを求めれば
くれるけどね。

トーヤ

それは心強いね。

 
 
寂しい気もするけど、
調薬が出来ないんじゃ仕方ないかな。

あとでご挨拶にいかないとな。
 
 

カレン

とにかく!
今回のトーヤは
100点満点ですっ!

カレン

でもこの点数を
維持することが
大切なんだからね?

トーヤ

うん、がんばるよ。
カレンのために。
僕自身のために。

カレン

なんかちょっと
かっこいいぞっ!!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その後、カレンから各地での戦いが
王都側勝利で収束に向かっているとか、
魔界全体が女王様を中心に
良い方向へ変わりつつあることなどが
知らされた。

もちろん、小さな抵抗や混乱は
一部で起きているみたいだけど。



また、
近いうちにクリスさんを中心とする
平界の代表者たちと女王様によって
平和に向けての会議が行われることに
なっているそうだ。




僕の薬草師としての道は先が長いけれど、
まだまだ駆け出し薬草師だけど、
これからも大切な人や
たくさんの人を救うために
がんばっていきたいな。


たくさんの仲間とともに!
 
 

 
 
僕は駆け出し薬草師
『魔界騒乱』編


 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
長い間、『僕は駆け出し薬草師』を
応援していただき、
ありがとうございます。

連載を始めた当初は
ここまで長編になるとは
想像していませんでした。


今日に至るまでに紆余曲折ありましたが、
ひと区切りとなるところまで
お話を書くことが出来ました。

これも皆さんのおかげです。
感謝しています。








――と、これでトーヤくんの冒険は
終わりではありません。

次回から第2期がスタートします。



世界の危機はまだ去っていないのです。
それっぽい伏線がありましたよね?

引き続きご覧いただけたら嬉しいです。
 
 

みすたぁ・ゆー

 
 
 
第2期へ続く!
 

第252幕 僕は駆け出し薬草師

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