エルムがラーニングしていたのは、
レインさんの奥の手である
禁呪の神滅剣だった。

ラーニングの行使だけでも
命を削るという
大きな負担が体にかかるのに、
その対象が禁呪じゃなおさらだ。


ラーニングした技や魔法は
体力や魔法力が不要だけど、
その対価として生命力が失われる。

つまり神滅剣なんて強大な魔法を使ったら、
それだけ命を削ることになる。
 
 

エルム

はぁあぁーッ!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
エルムは神滅剣を振り下ろした。
刀身として輝く鮮やかな赤色の光が
残像となって空間に軌跡を描く。

不意を衝かれたグラン侯爵は
慣性が付いていてその一撃を回避出来ない。
 
 

グラン

こっ、これはっ!?
お……おおおおおォ!

 
 
 
 
 

ザンッ!!!!!

 
 
 
 
 
 

グラン

ぐぁああああっ!



エルムの攻撃はグラン侯爵にヒットした。

胸から大腿部の付近まで袈裟斬りにされ、
その傷口から
噴水のように血液を吹き出すグラン侯爵。

そのまま床に倒れ込むけど
まだ生きているみたい。



さすが不老不死の体だ。
これが普通の魔族なら
即死間違いなしのダメージなのに。

エルム

……っ……。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

エルム!

 
 
攻撃を繰り出して程なく
神滅剣の刀身は瞬時に消え失せた。
そしてエルムは
魂が抜け出てしまったかのように
力なく倒れてしまった。



早く治療をしないとエルムが死んじゃう!

僕はエルムに駆け寄ろうとした。
でもその時――
 
 

ロンメル

グランにトドメを刺せ!
トーヤ!

トーヤ

ロンメル!?

ロンメル

エルムのことは
我らに任せておけ!
お前はお前にしか
できないことをやるのだ!

トーヤ

っ!?

タック

ロンメルの言う通りだ!
エルムの回復は
オイラに任せておけ!

トーヤ

タックさん……。

 
 
そうだ、エルムは僕のために
命を張ってくれたんだ。

その想いを無駄にしちゃいけない。


エルムを治療したいという気持ちの強さは
きっとこの場にいる誰よりも僕が一番だ。
僕は彼のご主人様なんだから。

だけど、だからこそ、
僕はエルムの気持ちも分かる。
 
 

トーヤ

ぐ……うぅ……。

 
 
僕は注射器で自分の血液を採取した。

疲労とか苦しさとか痛みとか、
なんかもう全ての感覚が
麻痺している感じで
自分でもよく分からない。




――でもやるべきことは分かっている!
 
 

トーヤ

この一撃で
グラン侯爵に
トドメを刺すんだ!

 
 
僕は注射器を握りしめ、
グラン侯爵の所へ向かって歩いていく。
本当は走っていきたいけど、
今の僕にとってはこれが最速。

悲鳴を上げ、
『動きたくない!』と抗う僕自身の両足に
根性という名のムチを打って進んでいく。





ゆっくりだけど確実に迫るグラン侯爵。

ヤツは倒れ込んだまま顔だけを上げ、
恐怖に染まった瞳でこちらをみている。

不老不死になった瞬間から想定して
いなかったはずの自分の死の臭いを
察しているんだろうな……。
 
 

トーヤ

安心してよ、
僕が引導を渡して
あげるから。

 
 
 
 
 
 
 
お父様の想いを踏みにじり、
ギーマ老師を苦しめ、
たくさんの人に恐怖や悲しみを与え、
命を奪った。

今度は僕があなたの怒りや怨念を背負って
生きていきます。




少し先に地獄で待っていてください。
あとで僕も必ずそっちへ行きますから……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

…………。

 
 
僕はグラン侯爵の傍らに立った。

彼を見下ろしつつ、
注射器の針を彼の体へと向ける。
 
 
 

グラン

や、やめろ……。
そうだ、取引をしよう。
お前にも不老不死の薬を
与えてやろう。

グラン

そ、そうだッ!
副都の支配権も
貴族院の議長職も
なんでも与えてやる。

トーヤ

…………。

グラン

カネか? 女か?
望むものはなんでも――

トーヤ

僕が望むのは……
あなたの命です!

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 

グラン

ぎゃああああぁ……。

 
 
僕はグラン侯爵に注射器を突き刺した。


悶え苦しむグラン侯爵。
そんな中でも僕を鬼の形相で睨み付け、
歯を食いしばり、
死出の旅立ちの直前に
なぜか指をパチンと鳴らす。


――そして彼は程なく事切れた。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第236幕 決着! 命を賭した一撃!!

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