僕は注射器を握りしめ、
グラン侯爵へ向かって走っていった。
ユリアさんのかけてくれた魔法のおかげで
体が羽根のように軽い。
僕は一気にグラン侯爵との間を詰める。
どんどんグラン侯爵が眼前に迫る。
彼は地面に両膝を付き、
全身を振るわせ苦しんでいる。
僕もフラフラだけど、
ヤツに比べれば蚊に刺された程度の
ダメージじゃないか。
根性入れろ、僕!
僕は注射器を握りしめ、
グラン侯爵へ向かって走っていった。
ユリアさんのかけてくれた魔法のおかげで
体が羽根のように軽い。
僕は一気にグラン侯爵との間を詰める。
どんどんグラン侯爵が眼前に迫る。
彼は地面に両膝を付き、
全身を振るわせ苦しんでいる。
僕もフラフラだけど、
ヤツに比べれば蚊に刺された程度の
ダメージじゃないか。
根性入れろ、僕!
食らえッ!
おっ……
うぐぉおおおおぉ……
僕は注射器をグラン侯爵に突き刺し、
血液を注入した。
するとグラン侯爵は断末魔の叫びを上げ、
程なく目の前で事切れる。
苦痛に満ちた表情と
細胞が壊死していく様は
何度見てもむごたらしい。
みんなの回復をになう薬草師としては
複雑な気分。
でもあれだけの天罰を受けるくらいの罪を
グラン侯爵はしてきてるんだ。
気がかりなのは、地獄で再会した時に
虐められないかってこと。
僕はどうあっても地獄行きだろうから……。
これで残りは一体だ。
間を開けずに
攻撃に転じないと。
でも……。
僕は肩で大きく息をしていた。
目まいもするし、汗も止まらない。
両足はガクガクと震え、
立っているのがやっとだ。
少し休んで回復薬が利いてくるのを
待たないとダメかも。
死ねぇ、
薬草師!
っ!?
なんとグラン侯爵が
みんなの攻撃を振り切り、
僕の方へ向かってきた。
敵から僕の間合いに
入ってきてくれるなんて好都合。
残りは一体だけなんだ、
相打ちになる覚悟でも構わないわけだし。
うぐ……。
握りしめた注射器が床に落ちた。
掴もうとする手に力が入らなくて、
滑ってしまったんだ。
幸いにも注射器は無事だけど、
僕自身がどうにもならない。
しゃがむことさえままならない。
グラン侯爵を倒すチャンスどころか
一転して大ピンチだ。
なんとか注射器を……。
…………。
っ?
その時、僕の目の前に小さな影が現れ、
僕を庇うようにして
グラン侯爵との間に立ちはだかった。
よく見てみるとその影は――
兄ちゃんは僕が守るッ!
エルム……。
影の正体はエルムだった。
凜とした瞳でグラン侯爵を見据え、
力強く床を踏みしめている。
でもエルムは丸腰だし、
どうするつもりなんだろう?
まさか身を挺して僕を守るつもりなのか?
魔族の神様、僕に力を。
どうか奇跡を!
うぉおおおおぉっ!
エルムは剣を握るように両腕と体を構え、
気力を高めていった。
この構え、見覚えがあるような……。
っ!
そうかっ、この構えはっ!
どうやらラーニングは
成功していたようですね。
神滅剣!
エルムの手には
鮮やかな赤色の光でできた刀身が
輝いていた。
その刀身の長さは
彼の身長の3倍くらいある。
これはレインさんが
自分の命と引き替えに使った奥の手の禁呪。
紙さえも滅ぼすとされる威力がある。
エルムはそれをラーニングしていたんだ。
がふっ!
エルム!?
はぁ……はぁ……。
禁呪の行使は
体への負担も大きいですね。
まさかこれほどとは。
がはっ!
ごほっ……ごほっ!
エルムは血の混じった咳を
何度も繰り返していた。
ラーニングした技や魔法を行使するには
彼自身の命を削るから、
その影響なんだろう。
レインさんは魔法の威力に
自分の体が耐えられずに苦しんでいた。
そんな魔法を
ラーニングで行使するんだから
体への負担の大きさは比じゃないはず。
想像を絶するものがある。
でも……
僕は魔族だから……
レインさんのように
消滅することがないのは
幸いでした……。
バカ! 技の反動で
死んじゃう可能性も
あるんだよっ?
覚悟の上です。
僕は兄ちゃんの
使い魔だから。
本望ですよ。
がふっ! げほっ!
エルム!
エルムは魔法力の刀身を維持するだけで
精一杯のようだった。
刀身の光が安定していないし、
体もゆらりゆらりと揺れている。
このままじゃ、エルムは!
いつ命が尽きてしまってもおかしくない!
そんなのダメだよっ、エルム!
無理しないでよ!
僕が言っても説得力がないかもだけど……。
グラン侯爵!
僕の命を賭けた一撃、
食らえぇっ!
エルムはカッと目を見開き、
床をしっかり踏みしめて
グラン侯爵と対峙した。
そして大きな刀身を振り下ろす。
次回へ続く!