必死に視線を動かして見てみると、
僕を抱き止めてくれていたのは
アポロとユリアさんだった。

ふたりは服がボロボロの状態で
肌も傷だらけ。
呼吸が大きく乱れている。

特にアポロは神聖魔法を使った直後だから
回復薬を使っていたとしても
苦しいだろうに……。
 
 

アポロ

やったな、トーヤ。
これで二体も倒したぞ。

トーヤ

アポロ……。

ユリア

やったわね。
大丈夫、トーヤくん?

トーヤ

ユリアさん……。
えぇ、大丈夫です。

アポロ

トーヤ、少し休め。
今のままじゃ、
満足に動くことも
出来ないぞ。

ユリア

血液が切り札なのよね?
見ていて分かったわ。
でも今の状態じゃ
採血は無理よ。

トーヤ

そっか、ふたりには
その話をしてなかったね。
戦いが終わったら
きちんと話すよ。

アポロ

ああ、約束だぞ。
だから絶対に死ぬな。

トーヤ

うん、そうだね。
それじゃ、少し休むよ。

ユリア

特別に膝枕を
してあげよっか?

トーヤ

てはは……。
それはユリアさんが
カレンに狙われちゃうから
やめた方がいいですよ。

ユリア

ははは、そうね。

アポロ

じゃ、代わりに俺が
膝枕をしてもらうかな?

ユリア

……うん。
今回は特別だからね。

アポロ

うおっ!
拒否しねーのかよ?

ユリア

だから今回だけ。ふふっ♪

 
 
戦いの最中だけど
ここだけは穏やかな時間が流れている。
僕も見ているだけで心が癒される気がする。

そうだ、今はわずかな間だけでも休んで、
採血と攻撃に転じる体力を回復させなきゃ。



僕はさらに回復薬を服用し、
ある程度の効き目が出てくるのを待つ。
 
 

アレス

う……く……。

タック

アレスっ!

 
 
見るとアレスくんも限界のようだった。
両膝をつき、脂汗をダラダラと流しながら
肩で息をしている。

それをシーラさんがかたわらで
回復魔法をかけるなどしている。

だからすでに力の行使は出来ていない。



ただ、アレスくんには
タックさんとクレアさんが付いて
守ってくれているから大丈夫かな。
 
 

トーヤ

よし、だいぶ回復した。
これなら走れる。
採血も出来る。

アポロ

無理すんな。
足がガクガクと
震えてるぞ?

トーヤ

てはは、これくらいなら
大丈夫だよ。
それよりも急がないと
グラン侯爵に
また分身されちゃう。

アポロ

ビセットさんや
ロンメルたちが
分身の隙を与えずに
戦ってるから大丈夫だろ。

トーヤ

その油断が命取りなんだ。
僕は行くよ。

アポロ

……あぁ、頼んだぜ。

アポロ

ユリア、俺はいいから
トーヤをサポートして
やってくれ。

ユリア

分かった。

ユリア

トーヤくん、
私はビセットさんの
加勢に行くわ。
なんとか隙を作るから
その間に攻撃を!

トーヤ

うんっ!

 
 
 

 
 
 
その直後、ユリアさんは僕に
加速の魔法をかけてくれた。
これなら少しは走るのが楽になると思う。

そしてユリアさんが
ビセットさんの加勢に入る。
 
 

トーヤ

…………。

 
 
ただ、やっぱりアレスくんの力で
動きを封じないと接近するのは難しい。

あんなにすばやく動いて攻撃も苛烈で、
今の状態の僕が
グラン侯爵の一撃を食らったら
一巻の終わりだ。
 
 

トーヤ

残された手段は
あれしかない!

 
 
僕はグラン侯爵にトドメを刺すのとは別に
もうひとつの注射器を用意した。



――これから採血するのは2本分。

ひとつはフォーチュンで遠隔攻撃をして、
動きを鈍らせるために使う。
 
 

トーヤ

はぅっ! ぁ……。

トーヤ

はぁ……はぁ……。

 
 
僕はなんとか注射器2本分の血液を採った。
ただ、あまりの苦しさに
思わず頭を左手で押さえ、歯を食いしばる。

そしてフォーチュンを手に取って
血液の入った小瓶をセットする。
 
 

トーヤ

う……。

 
 
フォーチュンを持つ手も、足も震える。
しかも視界が霞んでいるし、
動く相手に狙いを定めないといけない。



命中させるのはかなり難しい。

普段の僕なら
造作もなく出来るだろうに……。
 
 

トーヤ

でもやらなきゃ!
成功させなきゃ
ダメなんだ!

 
 
僕は可能な限り呼吸を整え、
意識をグラン侯爵に集中させる。

その動きと、
これから動くであろう地点の予測をしつつ
タイミングを逃さないように
フォーチュンを握りしめて狙いを定める。
 
 

トーヤ

――今だッ!

 
 
 
 
 

 
 
僕はフォーチュンを振りかざし、
グラン侯爵に向けて小瓶を放った。

それと同時に僕は
フォーチュンと注射器を持ち替えて
トドメを刺すために走り出す。
 
 

グラン

ぎゃあああぁっ!

 
 
 

 
 
小瓶は見事グラン侯爵に命中した。

狙った位置から少しずれたけど、
それは誤差の範囲内。
そもそも今回は
体のどこかに当たればいいから問題ない。



悶え苦しむグラン侯爵。
そこにビセットさんとユリアさんが
攻撃を加え、
とうとう僕が注射器を突き刺す
隙が生まれた。

この千載一遇のチャンス、逃すもんか!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

pagetop